返事が来たラブレター
パリ日本文化会館で映画「Love Letter」を見ました。1995年公開の有名な映画なのに見たのはこれが初めて。
《 神戸に住む博子は、遭難した婚約者の藤井樹の三回忌の帰り道に彼の母親に中学の卒業アルバムを見せてもらう。何気なくそのアルバムに載っていた彼が昔住んでいたという小樽の住所に手紙を出す。すると亡くなったはずの藤木樹という人物から、来るはずのない返事がきて・・・》というあらすじ。
行き違い、すれ違いが切ない話を生んだ時代ならではの作品ですね。今だったらGoogleと携帯ですぐに解決してしまいそうだけど。亡くなった恋人への想いを断ち切れずにいる博子が、ただ悲しみに沈んでいるだけではなく、案外クールに状況を受け止めつつ、自分が知らない中学時代の彼の姿を見つめてゆく過程がとても良かった。見終わった後、切ないけれど爽やかな余韻が残りました。
外に出て、一緒に見に行ったフランス人の友人Mとセーヌ河沿いを歩いていると、
私:良い映画だったねぇ。手紙が亡くなった恋人と再び繋げてくれたんだね。
M:うん、僕の場合も返事が来たからね・・・
私:(そうだった〜!!!←心の叫び)そういう意味で誘ったんじゃないよ〜
M : セパ・グラーヴ(大丈夫)。気にしていないから。
話は去年の6月の音楽祭(Fête de la musique)の夜に遡ります。Mとサン=ジェルマン=デ=プレとルーヴル宮殿に掛かる橋Pont des Arts(ポン・デザール=芸術橋)のたもとで待ち合わせをしました。その日は此処其処でプロアマ入り混じった演奏が響き渡り、大勢の人が楽しんでいてとても賑やかでした。
いつもならミュージシャンでもあるMは踊ったりはしゃいだりするのに、仕事の近況をボソボソと話すのでいつもよりちょっと元気がない気がしました。そして橋の真ん中で不意に立ち止まり、パリでいちばんロマンチックな風景を見つめながら告白をされました。
M : Sに好きな人が出来たんだ・・・
私: どうして? あんなに仲が良かったのに。
M : Sには20年前僕と付き合う前にベルリンで同棲していた恋人がいたんだ。僕と出会ったことで彼と別れて、それから僕たちはパリに引っ越したし以来連絡を取ってなかった。でもね、半年前にふと思いついて昔彼と一緒に住んでいたベルリンの住所に葉書を出したんだって。そうしたらまだ彼そこに住んでいて、返事が来て・・・。
MとSはフランスでは珍しくない、結婚はしないで2人の子供を育てている40代のカップルです。堅実な仕事に就き安定しているSに対して、アーティストで個性が強く、自由気ままにいたいM。二人の間の取り決めは隠し事をしないこと。MはSを愛しているけれど、時々他の女性に恋したり一夜を共にしたりして、その度にSに正直に話して怒られることもなく優しく許してもらっていました。ところが長い間彼の我が儘を受け入れて自分は浮気ひとつしなかったSが他の男と恋に落ちた!
Mの慌てぶりが容易に想像できます。20年ぶりにベルリンで再会した元恋人同士の気持ちはたちまち熱く燃え上がり、週末になるとSは彼に会うためにベルリンへ行ってしまう・・・。
思わず出てしまった言葉が、
私:Quelle jolie histoire d'amour! (なんて素敵な話なの!)
すると、
M : (笑顔で)ウイ。とてもロマンチックなんだ。彼女が幸せそうで僕はとても嬉しい。
と、目に涙を一杯が溜めて感激しているではありませんか!
でもやっぱりSを愛しているから、彼女を失いたくない。皆んながハッピーでいるために元彼とも自分とも続けてくれるように頼んでみると言うMの顔を、変わっているなぁと思って眺めてから、10ヶ月後・・・。
結局SはMの三角関係の提案を拒否。元彼を選び、けれども子供達のためにMと子供達と一緒の家に住み続け、Mが子供達の面倒を見る分担のバカンスや週末はベルリンへ行くことになりました。結構こういうフランス人カップルは多いです。フランス人は好んでアンテリジェンintelligent(賢く)という言葉を使いますが、別れても子供への養育権が50:50のフランスでは、冷静に子供達のために良好な関係を保つことが大事なのです。
私:最近はどう?この前Sと子供達と行ったロシアでのバカンスはどうだった?
M : 最低だったよ!
私 : でも今もSと暮らして、最近は良き友人として接しているんでしょ?
M : 子供のためにも彼女と協力し合っているし普通に話すよ。今も同じベットで寝てるけど、もう恋人ではなく家族になってしまったんだ・・。悲しくて夜中に目が覚める。本心はSの彼氏を殺したいよ!!!
私 : ええ〜。あんた、あのときロマンチックだって感激の涙流してたわよ。
M : そんな訳ないだろ!君が美しい話だって訳のわかんない事を言い出すから涙が出たんだよ!
それであのとき泣いてたのか・・・。男性って自分勝手で子供だなぁとMが可哀想になりました。
SNSで元彼や元彼女とわりに簡単に再び繋がる今の時代だけれど、手紙を書くために筆を執るエネルギーのほうが心に響き情熱に火を灯します。私も誰かに手紙を書いてみたくなりました。
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