CHICHI PARIS ~パリに住むエステティシャンのblog~

ワクチンかお葬式か。そしてポトフの後のお楽しみ。

午前中銀行へ行って用事を済ませてから店に着いたらマダムRが待っていました。「今すぐフェイシャルエステしてもらいたいんだけどいいかしら?昨夜、叔父が亡くなって明日お葬式なの」「御愁傷様です・・。んっ?」「だ・か・ら、お葬式のためにキレイでいなくちゃいけないの!」

午後2時から教会での葬儀、その後墓地に行き墓地から戻って叔父さんの家でレセプションの予定で、叔父さんは子供が4人いてその他親族が勢揃いするという。だから今日エステと髪のトリートメントをして明日出発前にシニョンを結ってもらいたいというリクエスト。20年ぶりに会う人達も大勢いるのよと言う彼女に、他の人もそれなりに老けているし気にしなくてもいいんじゃないのと言ったら全くそうではないと一蹴されてしまいました。歳をとると親戚でも疎遠になってこんな機会でもないと集まることなんてないし、少しでも若かれし頃の印象を崩したくないのよと。

敬虔なカトリック信者の叔父さんは96歳で奥さんと子供達、神父に見守られて自宅で亡くなったのだからよかったと呟く彼女。亡くなった夜、彼の遺言どおり家族はパンチ(ラムベースのフルーティーなカクテル)で乾杯して(?!)、アヴェ・マリアを歌い、その夜は夜通しお祈りして過ごしたとのこと。ふーん、ちょっと変わった方だったのかしら?

エステの途中に彼女の携帯が鳴ってスピーカーにするので会話が丸聞こえ。 電話をかけてきたのはもう一人の叔父さん。「明日の午後2時の葬儀だけど、ちょうどわしも妻もまさに午後2時にワクチン接種の予約が入っているじゃよ」「あーら、叔父さん、それは絶対にワクチンの予約を優先すべきよ!」「やっぱりそうじゃろ?兄はもう亡くなってるんだし、わしらも今はワクチンの方が大事かと話し合ってたんじゃよ」「お葬式と同じ日だなんて、なんてタイミングが悪いのかしら!でも予約をキャンセルしたら次いつ取れるか分からないんだから、天国の叔父さんも分かってくれるわよ」「じゃ、そういうことでわしらは明日欠席させてもらうよ。また連絡するからよろしく」ガチャ。

マダムRは医者なので既に優先的にワクチン接種を済ませているけれども、先月からワクチン接種の受付が始まった75歳以上の高齢者でも予約が殺到していて予約がまだ取れていない人も大勢いるのです。電話予約とネット予約があり、ネットはアクセスが集中して機能せず、電話を4〜5時間掛け続けてやっと繋がったという話をよく耳にします。そして変異種による感染が増えてきている今は、この叔父さんのように葬儀よりワクチン接種を優先するべきかもしれません。

エステを終えシニョンのリハーサルをして、低めの位置でシンプルなシニョンを結うことになり「明日は朝6時に起きなくちゃ。ア・デュマン!(また明日!)」と、ぷるぷる肌とツヤツヤの髪で帰っていきました。なんだか張り切っているなぁ・・・(^_^;) 彼女の叔父さんのご冥福をお祈りいたします。

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話が変わりますが、夜6時以降は外出禁止のため仕事が終わるのも早くなり、久しぶりにポトフを煮込みました。お肉屋さんでポトフを作るから4人分の牛肉の数種類の部位をと頼んだら、スネ肉、頰肉、外モモ肉、肩肉、オックステールという具合にどんどん色んな部位を切って紙に包んでいく。ドサっと袋を渡されてよろめきました。重い!「5キロ位だよ。これくらいは入れると美味しくなるよ」と言われたけれど、うちの鍋にこんなに入るのか心配になるほど量が多い。
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長時間煮込みすぎてお肉がとろけてボロボロになってしまい、野菜も柔らかくなりすぎてしまった一方、肉の量が半端ではなく多かったのでブイヨンが濃厚で美味しくできあがりました。
 
日本でポトフというとブイヨンと肉・野菜を一緒によそって食べるスープ料理だけれど、フランスでは具とブイヨンは別々にして肉と野菜だけを皿に盛って粗塩やマスタードを付けて食べる肉料理です。ブイヨンは一緒には飲まないで他の料理に使います。
 
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お肉屋さんがお肉と一緒に入れてくれた骨はOs à moelle(オス・ア・モワル)と言う骨髄で、フランスのポトフには欠かせません。長く煮ると中のゼラチン質が流れ出てしまうので、鍋に最後に加えてトロッとなったら肉と一緒に皿に盛るか、或いは別にブイヨンで煮て前菜として食べます。どちらの場合もこのトロリとしたゼラチン質をスプーンですくってパンに乗せて、好みでフルール・ド・セルをふったりマスタードを添えて食べるのですが、これが好物というフランス人が多く、ビストロではよく前菜メニューに載っています。

 

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お肉と野菜を2日間食べて、3日目はブイヨンでオニオングラタンスープを作りました。玉ねぎを飴色になるまで小一時間頑張って炒めたらものすごく美味しく出来上がり、今まで食べたオニオングラタンスープの中で一番だと自画自賛。

4日目は鍋に野菜を足してカレーにしたらこれまた美味しい。フランス人のお客さんにポトフを作った後の残りをどうするかと訊くと、お肉を取り出してブイヨンと野菜をミキサーにかけてポタージュスープにする、お肉をほぐしてビネグレットソースであえて冷菜にする、ポワローネギをビネグレットソースであえて前菜にする、お肉を細かくほぐしてグラタン皿に敷きジャガイモのピュレを乗せてアッシェ・パルマンティエ(フランスの子供が大好きなグラタン料理)、ブイヨンにポーチドエッグを浮かべたスープなど、バラエティに富んだ答えが返ってきました。皆んな工夫して別の料理へと変身させているんですね。ブイヨンにアルファベットパスタを加えたスープにして子供(または孫)にアルファベットを覚えさせるという答えもあり、実際に私の友人も幼い頃にこうやってアルファベットを覚えたそうです。

そして最も皆んなが作らないと答えたのは、なんとオニオングラタンスープでした。なんで?美味しいのに!玉ねぎを飴色に炒めるなら他にやることがある、だそうです。共働きが主流のフランスらしい答えなのかもしれないけれど勿体ない。

夜のおうち時間が長くなり煮込み料理やお菓子を作る気が湧いてきました。

chichi

立神詩帆 / Shiho Tatsugami
2002年渡仏。エコール・フランソワーズモリスで学び、エステティック・コスメティックCAP国家資格を取得。2011年からパリ7区でエステサロンCHICHI(シシィ)を自営。All About のフランス流美容ガイドとして、パリジェンヌから学ぶ美容情報やライフスタイルに関するコラムを掲載中。
好きなものは、フランスの食文化、1日の終わりのアペリティフ、アルゼンチンタンゴ、旅。

www.chichiparis.com
https://allabout.co.jp/gm/gp/1693/
Instagram: @chichi_paris7

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