CHICHI PARIS ~パリに住むエステティシャンのblog~

ロックダウン中に参加した美容研修での出来事。

3月19日から5月18日までの2ヶ月間、フランス政府の感染防止措置のため休業している間、美容研修に参加しました。政府認可校の職業研修はロックダウン中でも参加人数を減らすことで実施が許可されていました。印象的だったのが参加者の職業で、参加者10人のうち、美容の仕事をしているのは私と鍼灸師のLのふたりだけ。他は美容とは無関係の仕事に就いている人達で、在宅ワークや一時的失業中(※)で時間がある、将来への不安、転職への備えが主な参加理由で、コロナ渦のシビアな状況をよく表していました。※一時的失業 ( Chômage paetiel ): Covid-19の対応策として、経済的困難な状況の企業が社員の給料を支払うために改正された労働法。一時的失業の措置を取ると、企業は休業中の社員に支払った給与額に値する額の補助金を国から受け取ることができます。

勤務しているホテルが一年以上休業していて一時的失業中のJとEは、健康志向で他の研修にも色々と参加中。はるばるマルセイユから来ていた旅行会社に勤務するMLも、仕事が激減して一時的休業中。研修に参加すると長距離移動の許可が下りるので(当時は10Kmの移動が禁止されていた)、失業したときに備えて研修参加&パリの友人達に会いに来たと南仏の明るいノリで自己紹介して、速攻皆んなからマルセイユの訛りがないと突っ込まれて、マルセイユっ子だからってマルセイユ弁を喋るとは限らないと反論していました。学校は南仏にも沢山あるから、パリ旅行が目的なのはミエミエ(笑)

サルサ・アルゼンチンタンゴ・バチャータのダンス教師のAはコロナでレッスンは全て中止。仕事がなくなり、Zoomレッスンを試したけれども補助金と合わせても大した収入にならないため、他の道を模索中で研修に参加したとのこと。私もコロナ以来すっかり好きだったアルゼンチンタンゴと遠ざかってしまったし、とりわけ密着度が高いペアダンスは難しいだろうと同情してしまう。

その他、不動産会社に務めているPと、コロナで失業したD、航空会社勤務でフライトの減少で給料が下がって将来が不安なC。私より少し歳上のBAはパリとカリブ海のサン・バルテルミー島に自宅があり、仕事のときはパリで残りはサン・バルテルミー島で暮らしていて、将来は島のヨットでマッサージ事業を計画中だそう。どうりで真っ黒に日焼けしている。フランス領のサン・バルテルミー島といえば、世界中の大金持ちが別荘やヨットを持つ楽園で、国民的歌手のジョニー・アリディの別荘があり死後に埋葬された島です。ヨットでのマッサージ事業とは上手く考えたものです。

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そして、先生は30代半ばくらいの男性。マリオネットの操り人形を操るアーティストが本職で、元々は副業として美容学校やマッサージ学校でコーチをしていたけれども、昨年からの劇場の閉鎖で困っていたところに学校から専属のコーチとして働かないか声が掛かり、昨年のロックダウン以降この学校で働いているという。皆んな色んな事情を抱えているんだなぁ。

早速、先生が授業を始めようとすると、すかさずJとEが「マスク外して顔を見せて欲しい!」と要求。 先生の目と額の様子から、かなりいい男だとは思ったけれど、さすがフランス女子は目をつけるのが素早い。「規則だから駄目です」と断る先生に対して「先生の顔を知らないとモチベーションが湧かないのぉ〜」と他の女子が加勢するので、仕方なしに「一回だけだよ」と一瞬マスクを外した途端「フゥ〜♡」と女子から一斉に声にならない声が漏れました。背が高く細マッチョに、笑うと目尻が下がって三日月みたいに細くなり、くしゃっと可愛い笑顔だったので、皆んな俄然やる気が高まったようでした(笑)

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前置きが長くなってしまいましたが、実は研修に参加することは直前まで迷っていた。フランスの人口が6706万人、今までの感染者が571万人(6月6日現在)で、人口の約8,5%が感染した計算に。だけど無症状や感染してもPCR検査を受けていない人を含めると20%以上の人が感染しているはずだと専門家が予測していたし、実際に周囲の様子から見てもその通りかもっと多いと感じるからです。そんな不安に対して、学校に着いたら靴を脱いで服を着替える、手を消毒、マスクとフェイスシールドの両方着用、化粧品の容器は使う人毎に消毒、各自が使用するリネン類は全て持参、1時間毎に窓を開けて換気、マッサージの練習中にモデル役はマスクを外しているのでお喋り禁止で一言でも話すと先生が「シッ!」と注意。さらに、毎日フランスではお決まりの木製のテーブルをスリスリしながら「 Je touche du bois! ( ジュ・トゥッシュ・デュ・ボワ)」。 直訳すると《 私は木に触る=悪いことが起こらない 》で、木を触りながらフランス人がよく唱える呪文で、つまり縁起をかついで「感染しませんように!」思った以上に、感染対策がしっかりしている印象で少し安心しました(^_^;)

ところが問題は昼休み。学校は飲食禁止なので外で食事をしなくてはならない。飲食店はまだテイクアウトのみだったときで近くの公園の他に選択肢はなく、毎日皆んな一緒に公園の芝生に輪になって座って食事していました。ひとりだけ行かないとか皆んなと離れて食べるとは物凄く言いずらい雰囲気。自宅が近く家に帰るJとE以外の8人となると既に2名定員オーバー(野外での集まりは最大6人まで許可されていた)だけど、そんなことを気にするのは日本人の私だけで、全員フランス人だから全く気にしない。食べ終わっても時間ギリギリまでマスクを外したまま大きな声で喋る、笑う。やっぱり皆んなこっそりパーティーや食事会をしているらしい。マルセイユから来たMLにいたっては、パリに着いてから毎晩友人達と集まっているらしく、その少し前にテレビで見たカーニバルを無断決行したマルセイユの様子が目に浮かんでゾッとしてしまった。ダンス教師のAは毎日頭痛がすると言っているし、私はひたすら会話の聞き役に回って、食べ終わったらさっさとマスクを着けて黙っていた。BAが「フランス語が分からなくて話に入っていけないの?」と気遣ってくれても、「皆んなが一斉に早口で話すから分からないの。でも気にしないで 」と、愛想無くだんまりを決め込んで昼休みをやり過ごしていました。

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こうして昼休み毎に神経をすり減らした研修が終わった翌日、WhatsAppのグループチャットにJからメッセージが送られてきた。「皆んなに悪いニュースがありまーす。今朝PCRテストを受けたらコロナ陽性でした! 」

ええー!AやMLじゃなくてJが感染?!私はBAと組んで練習していたからJに触ってはいないけれど、隣の席とマッサージ台だったし結構話もしていた。Jは昼休みは自宅に帰っていたから、一緒に昼ごはんを食べなかったのが不幸中の幸いとはいえ、感染していたらどうしよう。それにしても昨日の夕方まで何ともなかったのに、なんで今朝PCRテストをしたのか訝しく思って訊いたら、実は数日間微熱があったという返事で呆れた。頭痛がして具合が良くないと言っていたAと発熱していたMLがなぜ自主的に休んだり学校に報告しなかったのか全く理解できない。でもここはコスモポリタンなフランスで、異なる常識の人が沢山いるのだ。実物大の半分の細さに加工したWhatsAppの彼女の顔写真を苦々しく見ながら、その日会う約束をしていたBAとの約束をキャンセルしたのでした。

医者によると予防措置をして接していたので濃厚接触者には当てはまらないという事でしたが、1週間外出を控えて、その後2回受けたPCRテストの結果がいずれも陰性で、念のため抗体検査もしてもらいようやく胸をなでおろしました。休業中で本当によかった。私が不安な毎日を過ごしている間にまだ20代のJは順調に回復し、結局私とBA以外は誰もPCRテストをしなかったらしく他に感染者がいたかどうかは分からず終い。でもこのことがきっかけで、それまでするかどうか迷っていたワクチン接種を、出来るだけ早くしようと決めた。結果的に仕事を再開してから会う人皆んなにワクチン接種をしたか訊かれるし、私の2回目の接種が終わってからエステをしたいと仰るお客さまもいるので、やっぱりワクチン接種をしてよかったと思う。

日が長くなり、カフェのテラスは夜まで人がひしめきあっているけれど、彼女達のような人が町中に放牧されているかと思うと恐ろしい・・・。

chichi

立神詩帆 / Shiho Tatsugami
2002年渡仏。エコール・フランソワーズモリスで学び、エステティック・コスメティックCAP国家資格を取得。2011年からパリ7区でエステサロンCHICHI(シシィ)を自営。All About のフランス流美容ガイドとして、パリジェンヌから学ぶ美容情報やライフスタイルに関するコラムを掲載中。
好きなものは、フランスの食文化、1日の終わりのアペリティフ、アルゼンチンタンゴ、旅。

www.chichiparis.com
https://allabout.co.jp/gm/gp/1693/
Instagram: @chichi_paris7

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