
初めての「能」
先日「能」を鑑賞する機会があり、渋谷にある「セルリアンタワー能楽堂」へ行ってきました。
最初にそのお誘いを受けて、なんの知識も経験もなくて楽しめるだろうか?と思いましたが、今回の公演は毎年開催されている「能に親しむシリーズ」で、能の約束事や解説付きの初心者向け公演。
という訳で、人生初の「能」を体験してきました。
まず「能」と聞いて思い出すのは、中学生の頃に音楽の時間に見せられた能のビデオ。
それはどうにも退屈で、動きは遅いし、能面をしているので表情は単調で変わらないし、その面白さは全くわかりませんでした。
大人になってからも歌舞伎を観に行こう!はあっても、能を観に!という気にはなかなかなれず、積極的な興味も湧かなかったのですが、これまたコロナのせいでしょうか?!これまでしたことないこと、それも国内で身近に体験できることをしよう!な一環として『能』。
観賞後の一言感想としては、「退屈しない、面白かった!」です。
まず前半に「松風」と「融」という『仕舞』が2本。
仕舞(しまい)とは、演目のクライマックス部分のみを「地謡」(8人から10人で構成されるコーラスグループ)に合わせて演じるもので、舞踊という印象でした。
京都から単身赴任してきた官僚と恋仲になった須磨の海女さん姉妹が官僚の任期が終わると捨てられ、死んでも尚その男性を想っているという女の情念を感じる「松風」。
2つめの「融」(通る)。
融とは源融(みなもとのとおる)のことで、彼は嵯峨天皇の十二皇子で「源氏物語」のモデルになったとも言われる人物。
臣下に降だり、左大臣(現代の総理大臣)まで務めたものの、藤原氏との政権争いに負け、六条河原に大邸宅を造営し、余生を風雅のうちに過ごしたという人物。
そんな彼が自宅の庭で贅沢三昧に興じる様子の「融」(とおる)という仕舞でした。
いずれも解説、事前知識がないと観るだけでは初心者にはなかなか楽しめない感じはしましたが、背景を知ると感じ方は大きく変わります。
と思うと、能は予習、その作品の背景を知る教養があるほどに愉しめそう。
この日、おもしろ楽しく解説をしてくださったのは、能楽師シテ方観世流・山階彌右衛門(やましなやえもん)さんによると、後半の演目『舎利』は、最初の10分を除いては眠くならないので最初はお休みタイムで休んでもいいので、その後の激しい動きはお見逃しなく!と。
そんな気さくな解説からも能に対する勝手な敷居、ハードルがちょっと低くなりました。
さて、始まる前に能の舞台についての簡単解説。(受け売り)
本舞台の正面に「松」、向かって右手の壁に「竹」。
あとひとつアレがたりませんね〜。
梅!
梅=花は役者さん(能楽師)となるそうな。
今回初めてにも関わらず本舞台の最前列左側という大変良い席をいただき、眠くなる瞬間は皆無。
左手の色あざやかな揚げ幕が上がると、三の松、二の松、一の松の並ぶ廊下「橋懸かり」から能楽師が現れ、本舞台の左端から静々と入ってきてくるので、おもいきりご対面、目がそらせない緊張感!
そして中学時代のビデオ鑑賞では同じに見えた能面が、生で、ライブで観ると全く違って見えました。
ちょっとした顔の角度、そこに生じる影、話をわかった上で観ると、どんどん表情が違って見え、激しく戦った後のシーンには照明効果もあり、面に汗が滲んでいるようにさえ見えました。
お面の表情が変わる…これは観る側の気持ちも写すようで、気がつくと作品の中に引き込まれていました。
『舎利』という演目は、おもいきりざっくり話すと、その昔舎利(お釈迦様の遺骨の一部を収めた宝物)を盗もうとして失敗した鬼・足疾鬼(韋駄天(
鬼と韋駄天のバトルシーンが激しいので、解説通り確かに眠くなる暇はなく、初心者でも楽しめる能でした。
またその衣装も華やか。単衣単衣を丁寧に儀式のように着付けられた感が伝わってきました。
今回は事前に台詞が配れたこともありがたく、舞台上のやり取りがすんなり入ってきました。
中学時代に習ったことを思い出す、「シテ」は「主役」で主役は一人。
「ワキ」は「脇役」、シテの助演役を「ツレ」、進行役や助演役を「アイ」と登場人物がシンプルで、様式化されているところも能の魅力・特徴でしょうか。
そして鑑賞後、私に問いかけられたのは人の「欲」。
兎角得られなかったものに人は執心してしまい、欲が生まれます。
欲は欲を呼び、貪欲に。
その反面、生きてゆくには欲がないと!と個人的には感じているところもあり。。
これからの人生、自分の中にある「欲」とどうつきあっていくか…。
そんなことをちょっと考えさせられた『舎利』でした。
これを機にちょっとずつ「能」の世界にも親しんでいきたいと思います。
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パリの1枚ではなく、渋谷の1枚。
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