一度は行ってみたい、アジアの世界遺産が、カンボジアのシェムリアップにあるアンコール遺跡群。アンコールワットは、世界最大の旅行サイト「トリップアドバイザー」でも、世界中の旅行者にもっとも高く評価された世界のランドマーク第1位に輝く寺院遺跡です。
かつて密林の中から発見された、石造りの建築そのものももちろんすばらしいのですが、個人的に、これは見もの!と思っているのが、女性たちのレリーフ。アンコールワットをはじめとするアンコール遺跡には、数多くのデバターやアプサラが彫られていて、それぞれに個性的なのです。ジュエリーや冠のディテールも、よく見ると凝っていてなかなかにナイス!
デバターは女神と訳されますが、実際の神ではなくて、宮廷に仕える女官という説も。ひとりひとりのポーズや表情が異なっていて、まるで宮廷にいた実際の女性たちを写し取ったかのよう。
アプサラは、天女あるいは踊り子。アンコールワット第一回廊の壁画に刻まれている天地創造神話「乳海攪拌」のシーンで、乳の海から生まれ出て、空中を舞い踊っている天女たち。膝を大きく曲げ、指を反り返らせる、生き生きとしたダイナミックなポーズが魅力的です。どこからかウキウキとしたダンス音楽が聞こえてきそう♫
このレリーフのアプサラたちが、現代に蘇ったかのような踊りが、「アプサラ・ダンス」。9世紀頃に生まれたこの宮廷舞踊は、花が芽生えて咲き誇り、実を結んで落ちるまでにたとえて、命の儚さと尊さを表現しています。
「タイで見た舞踊と、何だか同じじゃない?」と思うかもしれませんが、実は、源流はカンボジア。アンコール王国が15世紀にシャム国(タイ軍)に滅ぼされたとき、宮廷付きの舞踊団がアユタヤに連れて行かれ、アユタヤ文化として栄えたのだとか。
カンボジアでは、1960年代、ポル・ポト政権のクメール・ルージュの蛮行によって、宮廷古典舞踊の先生や踊り子がいなくなり、古い記録も消失。いまのアプサラ・ダンスは、1989年頃から復活を目的に始められたものです。
シェムリアップのリゾートホテルなどで鑑賞するアプサラ・ダンスにも、実は、深い歴史あり。その源を知るために、アンコールワットを訪れたら、ぜひ、美しき女性たちの肖像を探してみて。

Michiyo Tsubota
旅エディター・ライター
編集・広告プロダクション勤務を経て、フリーランス。女性誌や旅行誌を中心に、旅の記事の企画、取材や執筆を手がける。海外渡航歴は70カ国余り。得意分野は自然豊かなリゾート、伝統文化の色濃く残る街、スパ、温泉など。