たとえば、このバティックに描かれている人の文様は、マハーバーラタ物語に登場する、健康で、性格円満で、体格がよくて、美男子の「アルジュナ」。アルジュナにあやかって、このバティックは、結婚式のときに新郎が身につける特別なバティックとされています。
日本では、ジャワ更紗とも呼ばれる、ろうけつ染めの布バティック。花や鳥などの模様がよく知られているけれど、実は、意味を持つ文様がいろいろとあります。
特に、バティック生産が盛んなジャワ島中部では、王宮やジャワ独自の精神世界に関係する文様が伝えられています。王権を象徴する短剣を図案化した、S字の連続文様「パラン」。若々しさを意味し、植物の模様に霊山、炎、玉座、船、生命の樹などが描かれた文様「スメン」などなど。
バティックの紋様は、美しいだけではなくて、深い意味を持っていて、それを読み解くのが謎ときのようで、面白いのです。
ジャワ島中部のジョクジャカルタやソロで、バティックの面白さを知るために、ぜひ訪れてみたいのが、ふたつの博物館です。
ひとつが、ジョクジャカルタ王宮内の「バティック博物館」。王宮の建築そのものも優雅で素敵なのですが、敷地内に、バティック博物館があり、ここは必見。昔は、王家の人々しか身に着けることのできなかった文様があったり、王家の人々は自分だけのオリジナル柄のバティックを作っていたり。王家とバティックの関連性がよく分かります。
ソロで、ぜひ訪れたいのは、「ダナール・ハディ アンティーク・バティック博物館」。館内には、古い貴重なバティックが数多く展示されていて、インドネシア各地のバティックの歴史や文様を、クロニクル的に知ることができます。めくるめくバティックの種類と美しさは、他では見られないボリュームと素晴らしさ。バティックの制作手順なども、詳しく展示されています。
「ダナール・ハディ」は、インドネシアの3大バティック企業のなかでも、中国系ではなくジャワ系オーナーによる経営の会社。ジャワの伝統を伝える企業として地元ではよく知られています。ちなみに、初代オーナーの奥様は、このカッコよさ!
つい気軽な雑貨や小物に目がいってしまいがちなバティック。本物の美と素晴らしさを知ると、その奥深さにうーんと唸ること間違いなし。ユネスコの世界無形文化遺産に登録されている理由が、納得できます。
www.danarhadibatik.com

Michiyo Tsubota
旅エディター・ライター
編集・広告プロダクション勤務を経て、フリーランス。女性誌や旅行誌を中心に、旅の記事の企画、取材や執筆を手がける。海外渡航歴は70カ国余り。得意分野は自然豊かなリゾート、伝統文化の色濃く残る街、スパ、温泉など。