新しいビルや店がどんどんできて、日々変わりつつある中国の上海。久しぶりに訪れると、街のインフラや景色がずいぶん変わっているのにびっくり。
新天地や南京路など、繁華街を探検するのも楽しいのですが、ちょっと時間があれば、1920年代の国際都市であり、魔都とも呼ばれた昔の上海へとタイムトリップするかのような、小さなツアーに出かけてみるのも面白いですよ。
上海の中央部、黄浦江西岸を通る中山東一路沿いが、外灘(ワイタン)あるいは英語でバンド。19世紀後半から20世紀前半にかけての租界地区で、当時、建設された西洋式建築がずらりと並ぶさまは壮観です。
なかでも「フェアモント ピース ホテル〜平和飯店」は、上海の歴史を雄弁に語るホテル。20世紀初頭に、上海の経済と不動産を支配したサッスーン家が、上海で最初に建築した高層建築で、当時の直線的なアールヌーボー様式の意匠が、いまも美しく残されています。
ピラミッド型の緑の屋根を持つ建物が旧サッスーンハウスで、通りを挟んだパレスホテルビルもホテルに属する建物。


ふらりとホテル内を歩くだけでも、アールデコ様式の意匠を眺められますが、歴史について知るなら、訪れたいのが館内にある「ピース ミュージアム」。1929年から1952年はキャセイホテル、1956年から2007年はピース ホテル、2010年からはフェアモント ピース ホテルとなったホテルの、各時代の写真、食器、内装品、著名人に関係するグッズや、ここでしか買えないポストカードや記念カップなど、さまざまなものを展示しています。ミュージアムは、入館無料。


英語ガイドの説明を聞きながら館内のスポットを巡る、予約制のヘリテージツアーもあって、これがなかなか知的好奇心を刺激してくれます。光の具合により色を変えるロビーのドームの造り、サッスーン家のシンボルでもあったハウンドドッグの意匠が天井にあることなどは、ガイドに聞かないと見過ごしてしまいそう。ツアーは、1時間で1名100人民元。


館内には、中国で初めて備えられた冷暖房設備の遺構が、まだ残っています。夜な夜なジャズとダンスが繰り広げられることで有名だったピース ホテル時代のボールルームやジャズバーも、いまもほぼそのままで残されています。通路には、ルネ・ラリックのガラス照明のオリジナルもあって、とても美しい!
舞台や映画にもなった『上海バンスキング』の世界を彷彿させます。ちなみに、夜ジャズバーで催される、平均年齢68歳のオールドジャズバンドの生演奏は、若い人たちにも大人気。


黄浦江を見晴らす中華料理レストラン「ドラゴン フェニックス」は、上海のベスト中華料理のひとつ。ヘリテージツアーでは、なんともクラシックな内装の説明を受けてから、外灘に立ち並ぶビルでただひとつだけ設けられているテラスに出ることもできました。
飽くなき未来志向の上海ですが、時には歴史を振り返ってみるのも、味わい深い旅の体験になるはず。
http://m.fairmont.jp/peace-hotel-shanghai/

Michiyo Tsubota
旅エディター・ライター
編集・広告プロダクション勤務を経て、フリーランス。女性誌や旅行誌を中心に、旅の記事の企画、取材や執筆を手がける。海外渡航歴は70カ国余り。得意分野は自然豊かなリゾート、伝統文化の色濃く残る街、スパ、温泉など。