パリ・オペラ座、気になるシーズン2021-22のプログラム。

例年2月に発表されるパリ・オペラ座の新シーズンのプログラム。新型コロナ感染拡大防止策に伴い劇場が半年以上も閉鎖されていたこともあり、来季2021-22のプログラムの発表は5月18日にずれ込んだ。このプログラムは新総裁アレクサンダー・ネーフにとって、初のシーズンとなる。総裁前任者ステファン・リスナーが任期終了前にオペラ座を去ったため、予定より早く着任することになった彼。年金改革反対ストライキおよびコロナウイルス禍による公演の中止の結果、パリ・オペラ座は大赤字を抱えている。それも引き継いでの総裁就任。費用がかかる大がかりな公演や創作をプログラムに入れるのは、避けざるを得ないだろう。そんな状況下で彼がオーレリー・デュポン芸術監督と組んだ来シーズンのプログラム。自由に海外旅行ができるようになったら、バレエファンがすぐにでもパリに駆けつけたくなる内容だろうか。デュポン芸術監督が“リッチでバリエーションに富んだ”と形容したプログラムを、作品の雰囲気が掴みやすいトレーラーとともに順を追って見てみよう。

5月18日に公開された、パリ・オペラ座新総裁アレクサンダー・ネーフとオーレリー・デュポン芸術監督による2021-22のプログラムのプレゼンテーション。バレエの演目についての説明は前半の約30分で、ピエール・ラコット、シャロン・エイアル、ホフェッシュ・シェクターといった振り付け家のインタビューも含まれている。

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シーズンの幕開けを華やかに告げる「ガラ」は9月24日に開催される。恒例のデフィレからスタートし、その後に踊られる『Clouds Inside』と『Brise-lames』は昨年11月の『現代のクリエイション』のために創作された4作品中の2作品だ。この公演は劇場閉鎖ゆえに無観客で映像化されたため、観客を前に踊られるのは、このガラが初めてとなる。『Clouds Inside』はオランダのカンパニーNDTの24歳の若手ダンサーであるテス・ヴォルカーによる初の本格的創作で、男女2名によるパ・ド・ドゥ。ダミアン・ジャレによる『Brise-lames』は音楽が中野公揮の曲、ダンサー9名のコスチュームと舞台装置が現代アーティストのJRという話題もある作品だ。ごくわずかのプルミエ・ダンスールと大勢のコール・ド・バレエのダンサーたちが舞台上でエネルギーを発散する。

ガラを締めくくるのは、クラシックバレエのテクニックを満載したハロルド・ランダーの『Etudes』。エトワール、プルミエ・ダンスールたちによる煌めくフレンチスタイルを楽しめる。前回のガラの『グラン・パ・クラシック』、前々回の『Variations』の衣装はガラのメセナであるシャネルによるクリエイションだったが、このガラではそれが見られないのがちょっと残念だ。

「ガラはクリエイションとレパートリーからのクラシック作品の組み合わせで、これは今シーズン全体のイメージに通じるものです。カンパニーの財産であるクラシック作品を再演によって存続させ、新作をオーダーすることでカンパニーを豊かにし続けることができるのです」と芸術監督がガラのプログラムを解説する。

なおデフィレの音楽であるベルリオーズの「トロイ人の行進」は、フィリップ・ジョルダンを後継した若き新音楽監督グスタヴォ・ドゥダメルが指揮をするそうだ。

ガラのトレーラー。音楽は『Clouds Inside』で用いられるニック・ドレイクの同名曲だが、デフィレ、『エチュード』の映像もわずかながら見ることができる。公演は9月24日。

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オペラ座はクリエイションのカンパニーでもあるというデュポン芸術監督の前置きに続き、シーズン最初の作品は2017年にオペラ座のためにアレクサンダー・エクマンによって創作された『プレイ』であることが発表された。シーズン2019-20の締めくくり作品としてプログラムされていたのだが、劇場閉鎖のため上演されずじまいとなった。これはオーレリー・デュポンが芸術監督となって初めてオーダーした創作とあって、彼女の思い入れがとりわけ深い作品といえるのではないだろうか。オーケストラボックスを含め、オペラ・ガルニエの劇場内までがダンサーたちのプレイグラウンドと化し、観客へとステージのエネルギーを振動させる。音楽はステージ上でライブ演奏だ。

『プレイ』のトレーラー。創作時カドリーユながらよい配役を得たアンドレア・サーリとキャロリーヌ・オスモン。スジェに昇級したふたりが、再び活きのよいステージを見せてくれることだろう。公演は9月28日〜11月7日。

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オペラ・ガルニエの劇場空間をフルに活用して創作された作品だ。photo:Ann Ray/ Opéra national de Paris

このシーズンのプログラム中、クラシックバレエのファンが最も期待を寄せる作品が『プレイ』の次に踊られる『赤と黒』ではないだろうか。スタンダールが書いた同名の小説をピエール・ラコットがバレエ化するのだ。時代は19世紀、強い上昇志向を持つ青年ジュリアン・ソレルと2人の女性、そして彼らを取り巻く大勢の人物が繰り広げる長い物語である。これを3幕のバレエにいかに収めるのか、実に興味深い。この作品が最後の創作と語る今年89歳のラコット。衣装も舞台装置も自身でデザインという力の入れようだ。この作品については、すでに配役がオペラ座のサイトで発表されている。複雑な心理描写がダンスにも求められるのは確かで、主演3名に配役されているのは演技面でも優れたダンサーたちである。主役レナール夫人を踊る予定のひとりドロテ・ジルベールは、「ヌレエフもプティパもいないいま、現存のコレオグラファーによるクラシック作品の創作に参加できるのはとてもうれしい。衣装も見たけど、とても美しく、これは素晴らしい作品となるに違いないわ」と目を輝かす。昨年末から始まった創作に関わっているマチュー・ガニオは、「公演がない期間を活用し、たっぷりと時間をかけてピエールと一緒に創作を進めました。今後変更があるかもしれないけれど主人公のジュリアン・ソレル役はパ・ド・ドゥが8つ、ソロが4つと、語ることがたくさんあるんです。原作はスタジオで創作が始まる前に、もちろん再読しました」。公演は10月16日〜11月4日。

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12月は例年通り、オペラ・バスティーユでクラシック大作、オペラ・ガルニエでコンテンポラリーと2作品の同時公演である。バスティーユで踊られるのはルドルフ・ヌレエフの『ドン・キホーテ』。これを再演することで新しい世代に継承するという使命を果たすことができる、とデュポン芸術監督は語る。2019年の年末公演だったヌレエフの『ライモンダ』は年金制度改革反対ストのため1公演で終わって終わってしまい、2020年の年末公演『ラ・バイヤデール』は無観客開催の映像化だった。ヌレエフによる古典大作のバレエファンは『ドン・キホーテ』を劇場で見ることがおおいに待ち遠しいだろう。

『ドン・キホーテ」のトレーラー。ドロテ・ジルベールとカール・パケットによる公演から。公演は12月9日〜1月2日。

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今回も配役されることを期待したいリュドミラ・パリエロ(左)とマチアス・エイマン。photo:Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris

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オペラ・ガルニエの公演は『アシュトン/エイアル/ニジンスキー』と3名のコレオグラファーの作品によるロシアの香りが漂うトリプルビルだ。内容はフレデリック・アシュトンの『ラプソディー』、シャロン・エイアルによる新作『牧神の午後』、ニジンスキーの『春の祭典』で、これはシーズン2020-21に予定されていた『シェルカウイ/エイアル/アシュトン』の変型といっていいだろうか。シディ・ラルビ・シェルカウイの創作『シェラザード』が消えてしまったのは惜しいが、その代わりにトリプル・ビル入りしたのがニジンスキーの『春の祭典』である。オペラ座バレエ団のレパートリー入りしたのは1991年で、最後に踊られたのは1995年6月の『ニジンスキー/ニジンスカ』においてである。この創作が1913年にシャンゼリゼ劇場でバレエ・リュスによって踊られた時にパリで引き起こしたスキャンダルは後世に残る話題として知っていても、実際にバレエ作品を見た人は少ないのではないだろうか。

イスラエル出身のシャロン・エイアルはこの『牧神の午後』がパリ・オペラ座バレエ団のための初創作となる。音楽はバレエ・リュス版同様にドビュッシーの同名曲を使用。コスチュームはプログラムによるとマリア=グラツィア・キウリとある。エイアルと彼女の深い繋がり、ディオールのショーで繰り返される2人のコラボレーションを思えば当然のセレクションだろう。マリア=グラツィアは過去にいくつかのバレエ衣装をデザインしているが、パリ・オペラ座のためにコスチュームを手がけるのはこれが初めてとなる。公演は12月1日〜1月2日。

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2022年はコンテンポラリー作品とともに年が明ける。クリスタル・パイトがオペラ座のために創作した第2弾『Body and Soul』。2019年に創作された作品が、早くも再演されるのだ。1、2幕ではパ・ド・ドゥも踊られるが、圧巻は昆虫を思わせるコスチュームで顔も含め全身を覆った出演ダンサー全員がゴールドの空間に勢ぞろいして踊る第3幕だろう。パイトの初の創作『The Seasons‘ Canon』のポエティックな感動とは異なるものの、このパワフルなエンディングも創作時、スタンディングオベーションで迎えられた。

『Body & Soul』のトレーラー。上記のシーズン発表のビデオでは、このためにリュドミラ・パリエロとリディ・ヴァレイユによって特別に踊られた女性2人によるパ・ド・ドゥが見られる。1月30日〜2月20日。

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第3幕。photo:Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

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この次もコンテンポラリー作品で、振付け家ホフェッシュ・シェクターの2作品による公演だ。彼もまたイスラエル出身の振付け家である。今回レパートリー入りするのは、彼自身が音楽も担当の『Uprising』と『In Your Rooms』。彼の作品がオペラ座で初めて踊られたのは2017年のことで、女性ダンサーばかり9名による『The Art of Not Looking Back 』だった。開幕前に劇場内で耳栓が配られたことは記憶に新しい。今回の『Uprising』は男性ダンサーばかりが踊る。これもまた力強い作品のようだ。ロンドンベースの振り付け家だが、パリでもその名前がメディアにのることが今年は多くなりそうである。というのも、セドリック・クラピッシュの次回作『En Corps』で怪我をしたバレリーナがコンテンポラリー作品に目覚める際の作品の振付け家が彼なのだ。ちなみに、この作品の主演はプルミエール・ダンスーズのマリオン・バルボー。1月28日に開催されたガラのデフィレに彼女が不在だったのは、この映画の撮影中だったからだ。彼女は『The Art of Not Looking Back』を踊ったダンサーのひとりでもある。

『ホヘッシュ・シェクター』のトレーラー。このシーズンにオペラ座のレパートリーに入るゆえ、映像は彼のカンパニーによる公演から。3月15日〜4月3日。

2022年最初のクラシック作品は『ラ・バイヤデール』。これはルドルフ・ヌレエフが手がけた最後の作品である。昨年末にパリ・オペラ座に生まれたデジタルプラットフォームで販売された最初のバレエ作品が、12月13日に無観客で踊られライブ配信された『ラ・バイヤデール』。この公演では3幕のバレエを3組の配役が踊るというフェスティバル的面に加え、ポール・マルクのエトワール任命もあり、画面越しに鑑賞する人々を喜ばせた。なおオペラ・バスティーユで踊れるこの公演の後半、オペラ・ガルニエでは学校公演が開催される。

『ラ・バイヤデール』のトレーラー。昨年無観客で踊られた公演より。第1幕がジェルマン・ルーヴェとドロテ・ジルベール、第2幕がユーゴ・マルシャンとアマンディーヌ・アルビッソン、第3幕がマチアス・エイマンとミリアム・ウルド=ブラームという豪華な3配役で踊られた。4月3日〜5月6日。

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舞台となるインドの雰囲気がステージを包み込む。photo:Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris

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5月には、『マッツ・エク』のトリプル・ビルが待っている。数年前に引退宣言をしたマッツ・エクだが、シーズン2018-19を締めくくる公演のために2作品『Another Place』と『ボレロ』を創作。レパートリー入りした『カルメン』との3作によるプログラムで公演が行われた。今回も同じ3作品のプログラムだ。前回、『カルメン』で主役を踊ったエレオノーラ・アバニャート、パ・ド・ドゥの『Another Place』を踊ったプルミエ・ダンスールのアレッシオ・カルボーネが引退。強い個性と存在感が光っていた彼らに代わって配役されるダンサーは誰か。配役発表を待とう。

『マッツ・エク』のトレーラー。アマンディーヌ・アルビッソンが踊る『カルメン』を含め、3作品を紹介。5月7日〜6月5日。

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左:『Another Place 』 右:『ボレロ』 photos:Anne Ray/ Opéra national de Paris

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6月、オペラ・バスティーユでジョージ・バランシンの『真夏の夜の夢』が踊られる。やっとネオクラシック作品の出番である。この作品は2017年にパリ・オペラ座のレパートリー入りをし、その際、コスチュームと舞台装置がクリスチャン・ラクロワに依頼された。彼独特のカラフルな世界がステージ上に広がる作品だ。

バランシン、そしてジェローム・ロビンスについては彼らの流れをくむバンジャマン・ミルピエが芸術監督だった時代には、これでもか! というほどこの2人のネオクラシック作品がプログラムにあった。デュポン芸術監督下のプログラムでは、そうしたネオクラシック作品が占めていた位置がイスラエル系振付け家によるコンテンポラリー作品に取って代わられてゆく感がある。

『真夏の夜の夢』のトレーラー。メンデルスゾーンの音楽とクリスチャン・ラクロワのコスチューム&舞台装置に酔う。6月18日〜7月16日。

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photo:Agathe Poupeney / Opéra national de Paris

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このシーズンを『真夏の夜の夢』とともに締めくくるのは、ロマンティックバレエの傑作『ジゼル』。2021年6月11日、「ローラン・プティへのオマージュ」でエレオノーラ・アバニャートのアデュー公演が行われる予定である。また来シーズン2021-22でアリス・ルナヴァンも引退だそうだ。男性のエトワール数に比べ女性のエトワールが圧倒的に多いことから、『ドン・キホーテ』を踊って2018年1月5日に任命されたヴァランティーヌ・コラサント以降、女性のエトワールの次は誰がという噂すら立たない状況なのだが、2名が去ることで男女のエトワール数のバランスの悪さが少し解消される。このシーズン中ひょっとすると任命があるかもしれない、などとちょっと期待してみたり……。

『ジゼル』のトレーラー。アマンディーヌ・アルビッソンとステファン・ブリヨンによる公演より。6月25日〜7月16日。

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昨年の来日公演で踊ったドロテ・ジルベールとマチュー・ガニオによる第2幕より。photo:Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris

大村真理子 Mariko Omura
madameFIGARO.jpコントリビューティング・エディター
東京の出版社で女性誌の編集に携わった後、1990年に渡仏。フリーエディターとして活動した後、「フィガロジャポン」パリ支局長を務める。主な著書は『とっておきパリ左岸ガイド』(玉村豊男氏と共著/中央公論社刊)、『パリ・オペラ座バレエ物語』(CCCメディアハウス刊)。
Instagram : @mariko_paris_madamefigarojapon
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