6月、エトワールが去り、生まれ。そして新星カドリーユが登場。

5月19日、フランス中の劇場の再開が可能となった。オペラ・ガルニエでも、さあ5月30日に『ローラン・プティへのオマージュ』が初日だ!!とパリのバレエファンは盛り上がったのだが……あいにくと、ステージ周辺の何かの工事とやらで、6月2日に初日がずれ込んでしまった。

6月8日までは劇場の35%だけの席の販売制限に加え、21時からの夜間外出制限に備えて公演開始が18時からと早かったためだろう、再開当時は空席がかなり目立った。6月9日からは公演開始は通常の19時30分からに戻り、販売席数は65%に。1000席以上の集まりの参加にパス・サニテール(衛生パス)を国が義務づけたことを受け、オペラ・ガルニエとオペラ・バスティーユでも6月15日以降の公演には、ワクチン摂取2回終了後2週間経過の証明あるいはテストによる48時間以内の陰性証明がないと入場できないことに……。こんな状況ではあるにしても、久しぶりに劇場の椅子に座り、公演を堪能した後に来場者の口から出るのは喜びの言葉ばかりだ。

6月11日、エレオノーラ・アバニャートがオペラ座で最後の公演。

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子ども時代、イタリアでローラン・プティに見いだされたエレオノーラ・アバニャート。2013年、彼の『カルメン』を踊り、彼女はエトワールに任命されている。6月11日のアデュー公演では、『ランデヴー』(写真左)と『若者と死』を踊った(ウィッグなしの、リハーサル時の写真)。photo:Ann Ray/ Opéra national de Paris

公演『ローラン・プティへのオマージュ』は2011年に亡くなったプティの没後10周年を記念しての企画で、『ランデヴー』『若者と死』『カルメン』のトリプルビルだ。まずはジジ・ジャンメール(昨年逝去)が8歳の時の出会いから夫を語る映像で、公演はスタートする。『ランデヴー』と『カルメン』がオペラ座で前回踊られたのは、2013年3月とかなり以前である。また『若者と死』は2010年秋がオペラ座での最後の公演で、2014年7月9日にニコラ・ル・リッシュがガラ形式のアデュー公演を行った際にエレオノーラ・アバニャートを相手にこの作品を踊ったのだが、今度はそのエレオノーラの番。今回の公演中、5月11日にステファン・ビュリョンとこの作品を、『ランデヴー』をマチュー・ガニオと踊り彼女はオペラ座に別れを告げた。オペラ座で久々、そして最後の舞台で華やかで圧倒的な存在感を発揮し、彼女を知らない世代も魅了する見事なアデュー公演だった。

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左:『若者と死』の後、恒例の星吹雪。その中でおどけて踊ってみせるエレオノーラ。 右:総裁アレクサンダー・ネーフと芸術監督オーレリー・デュポンに囲まれて。photo:(左)Yonathan Kellerman/ Opéra national de Paris 、(右) Mariko Omura

公演後、いつものようにゴールドの星が降るステージ上で、最初はステップを軽く踏んで陽気に振舞おうとしていた彼女だが、途中から涙が込み上げて……。元フットボーラーの夫フェデリコ・バルザレッティ、その子どもたち、それにエレオノーラとの間に生まれた子どもたちもステージ上に花束を抱えて登場。また、バンジャマン・ペッシュ、カール・パケット、レティシア・プジョルといった懐かしのエトワールに混じって、いつの間にかオペラ座からフェードアウトしてしまったエルヴェ・モローも久々に舞台の上に姿を現した。振付家ピエール・ラコットとギレーヌ・テスマール夫妻、元学校長のクロード・ベッシー、往年のエトワール、イザベル・ゲランなどの姿は、会場に集まった往年のバレエファンたちを喜ばせていたようだ。こうした同窓会的な温かい雰囲気に包まれ、20分近くスタンディング・オベーションは続いた。オペラ座でエトワールとして踊ることと並行して、2015年から祖国イタリアでローマ歌劇場バレエ団の芸術監督も務めていた彼女。しっかりと準備していた第二の人生に、これからは専念するのだろう。エトワール任命まで時間がかかった彼女だが、なかなか素晴らしい人生では?

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左 : バンジャマン・ペッシュが舞台の上手から登場した後、下手から現れたのはエルヴェ・モロー! 右:過去のエトワールたち、いまのエトワールたちが舞台上に揃ってエレオノーラに拍手を。photos:Mariko Omura   

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その前日6月10日、セウン・パクがエトワールに任命された。

6月10日はオペラ・バスティーユで『ロミオとジュリエット』の初日だった。この晩に踊ることになっていた配役はレオノール・ボラックとジェルマン・ルーヴェだったが、彼は怪我で降板。3公演目の16日に踊ることになっていたセウン・パクとポール・マルクが初日を踊ることになったのだ。ちなみにポール・マルクは昨年12月13日、オンライン配信での『ラ・バヤデール』でブロンズアイドルを踊り、無観客の会場でエトワールに任命されている。若いフレッシュなエトワールと彼女が踊るということで、もしかするとセウンの任命もあるのでは?と、配役が発表された時から噂されていたのだが、それが現実となった。演目は異なるものの時を同じくしてエレオノーラが去り、新しいエトワールが生まれたのだ。2014年、『オネーギン』の公演中、2月にイザベル・シアラヴォラが引退し、3月にアマンディーヌ・アルビッソンがエトワールに任命されて。この時の世代交代を思い出させる出来事だったが、いずれにしても男女エトワール数のアンバランスは解消されないままだ。

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6月10日、『ロミオとジュリエット』の初日、ジュリエットを踊りセ・ウン・パクはエトワールに任命された。

セウン・パクはその名前から察せられるように韓国出身のダンサーである。ソウルに生まれ、今年32歳。2007年にローザンヌ国際バレエコンクールで優勝の結果、ニューヨークのアメリカン・バレエ・シアターIIへと。その後韓国に戻り、国立バレエ団で踊り、2010年にはソリストに上がった。その翌年、パリ・オペラ座で契約団員となり、2012年から正式団員である。フレンチ・スタイルへの愛ゆえ、パリにきた彼女である。パリ・オペラ座のバレエ学校でまったく学んでいないにもかかわらず、見事にそのスタイルをマスター。努力家でもあるのだろう。舞台をダンサーの顔で見る観客にはアジア人ダンサーとしか見えないのだろうが、彼女の踊りを見れば、優美な腕の使い方としなやかな身体の使い方はバレエ学校出身のフランス人ダンサーと変わらない。優れたテクニック、軽やかさ、清々しい美しさの持ち主である。プルミエール・ダンスーズ時代から『オネーギン』『白鳥の湖』の主役を踊るなど、配役に恵まれていた彼女。これからどのような活躍をするのかが楽しみなエトワールの誕生である。

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パートナーは昨年エトワールに任命された最新エトワールのポール・マルク。今後ほかの作品でも見たいと思わせる組み合わせだ。photo:Agathe Poupeney/ Opéra national de Paris

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6月15日、カドリーユのギヨーム・ディオップが主役ロミオを。

さて、『ロミオとジュリエット』ではエトワールのジェルマン・ルーヴェに代わって、誰がレオノール・ボラックのパートナーを務めることになったのか。ジェルマンが自身のインスタグラムで足首の故障でロミオを踊らないことを報告し、そしてエールを送ったレオノールのパートナーはギヨーム・ディオップ。2018年にカンパニーに入団した、今年21歳のカドリーユだ。

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ジェルマン・ルーヴェに代わり、レオノール・ボラックのパートナーを務めたギヨーム・ディオップ。photo:Agathe Poupeney/ Opéra national de Paris

なぜオペラ座のピラミッドのいちばん下のクラスのカドリーユが主役を踊るのか、というのはレオノールと彼の6月15日の初日の公演を観に来た観客たちの中にも、疑問に思う声があった。答えはごく簡単。ギヨーム・ディオップはもともとロミオの代役に選ばれていて、公演があるかないかはわからないものの、ロミオ役のほかのダンサーたちとともに最初の時期からリハーサルを重ねていたのである。たった6名しかいない男性エトワールたちはガルニエとバスティーユでフル活動中。さらにいまの時期、将来を有望視されているスジェのダンサーたちが怪我で不在中ということもあり、代役の彼がストレートにその役割を果たすことになったというわけだ。ヌレエフの古典大作の主役を21歳のダンサーが踊る……意外に聞こえるが、2004年、『ドン・キホーテ』でやはり代役から、大先輩エトワールのアニエス・ルテステュを相手に主役バジリオを踊ることになったマチュー・ガニオは20歳だった。彼の場合すでにスジェだったが、それでも当時は驚きをもって迎えられた配役。大役を果たしたマチューは、公演後、飛び級でエトワールに任命された。

代役。これはコール・ド・バレエのダンサーにとって、もしかすると舞台で踊れるかもしれないという大きなチャンスである。もちろん稽古を必死に重ねても、舞台に立つ機会がないまま終わるケースのほうがはるかに多いのだが。ポール・マルクはコリフェの時代、『ゴールドベルク変奏曲』で配役されていたソリストたち全員が降板したため、代役だった彼が突然にソリストとして毎晩のように舞台を務めることになった。その結果、彼はドゥミ・ソリストで踊る彼より上のクラスのスジェのダンサーたち以上に、よい役につけたことになる。たった1日でソリストの踊りすべてをマスターし、舞台を遂行した彼。これによってバレエ団上層部に彼の名前がしっかりと刻まれたのは間違いないだろう。その5年後のいま、彼はエトワールだ。

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大きな瞳が印象的。長身ダンサーのソリストが少ないいまのオペラ座で、期待の新人といえるだろう。photo:Agathe Poupeney/ Opéra national de Paris

さて、ギヨーム・ディオップに戻ろう。彼はジェルマン・ルーヴェのようにほっそりとした身体つきで、ジェルマンより少しばかり長身。ジェルマンに通じるしなやかさ、現代性の持ち主で、それゆえか6月25日にアンヴァリッドで開催されたディオールのメンズコレクションにはジェルマンとともに彼もショーに招かれている。彼がジェルマンの代わりにロミオを踊るとなった時、昨年末に出たル・モンド紙の木曜版に付く雑誌「M」の記事が再びパリでは話題となった。これはオペラ座のアレクサンダー・ネーフ新総裁に、ダイバーシティを推進する公開書類を提出した有色ダンサー5名を取り上げたもの。ギヨームもそのひとりだった。この後、総裁が多様性に取り組むうえで、レパートリーの中から消えるヌレエフ作品もあるなどと発言したことで、ちょっとした騒ぎを招いたりも。白人中心のキャスティングが問題化される時期に、こうしてギヨームが主役を踊ることでこの問題へのひとつの回答ともなるだろう、という声もあった。

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雑誌「M」(2020年12月26日号)のカバーを飾ったKarim Sadli撮影による美しい写真。上奥から時計周りにアワ・ジョワネ、イザック・ロペス・ゴメス、ジャック・ガシュトゥットゥ、レティツィア・ガロニ、ギヨーム・ディオップ。

こうした見方もあるせよ、それだけで大事な舞台を任されるはずがない。彼にとって初の大役だが、若さゆえに気楽でちょっと向こう見ずなロミオをレオノールを相手にのびのびと踊ってみせた。テクニック面も無難にこなし、ストレスも感じさせず踊る姿もなかなか頼もしい。3月に行われた昇級コンクールでカドリーユからコリフェへ上がれたのは2名だけで、3位だった彼は昇級ができなかった。今回の実績がものを言うかもしれない次回のコンクール。期待をしよう。

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ふたりの初日でパートナーのレオノールは初主役に挑む彼を気遣いながら、大きな信頼を寄せて舞台を楽しんでいる様子だった。photo:Agathe Poupeney/ Opéra national de Paris

大村真理子 Mariko Omura
madameFIGARO.jpコントリビューティング・エディター
東京の出版社で女性誌の編集に携わった後、1990年に渡仏。フリーエディターとして活動した後、「フィガロジャポン」パリ支局長を務める。主な著書は『とっておきパリ左岸ガイド』(玉村豊男氏と共著/中央公論社刊)、『パリ・オペラ座バレエ物語』(CCCメディアハウス刊)。
Instagram : @mariko_paris_madamefigarojapon
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