目指せエトワール! コール・ド・バレエの若き男性ダンサーたち。
パリとバレエとオペラ座と 2021.07.25
2021年度のパリ・オペラ座バレエ団の入団コンクールが7月初旬に行われた。その結果、内部から4名、外部から2名の合計6名が9月に入団する。彼らが正式団員となるのはその半年後だ。昨年9月には女性7名、男性3名と大勢が入団。その前の2019年の入団者たちは女性が内部外部含め6名、男性は内部から2名が入団しているものの、新型コロナ感染症蔓延防止策としての劇場封鎖のあおりで正式団員となってから観客を前にステージに立つチャンスには恵まれなかった。今年5月の劇場再開後に公演のあったトリプルビル『ローラン・プティへのオマージュ』中の『ル・ランデブー』と『カルメン』、そしてオペラ・バスティーユの『ロミオとジュリエット』のおかげで、2019年&2020年の入団者たちはようやくプロのバレエ人生を歩み始めたと感じられているのではないだろうか。

『ル・ランデヴー』。左から、イネス・マッキントッシュ、マックス・ダーリントン、ケイタ・ベラリ、マリウス・ルビオ、シュン・ヴィン・ラム。photo:D.R.

『カルメン』。左から、アレクサンドル・ガス、ジョルジオ・フーレス、ナタン・ブリソン、シュン・ヴィン・ラム、マリウス・ルビオ、ノア・ベンズィ=ドライトン。photo:Michel Lidvac

左: 左からマリウス・ルビオ、ケイタ・ベラリ、マチュー・コンタ。 右: ジョルジオ・フーレス。photos:Michel Lidvac
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今シーズン、久々にプログラムされた『若きダンサーたち』は3月の予定が延期され、7月9日から14日に6公演が開催された。プログラムは超古典とコンテンポラリーという両極端の10演目で構成されていて、そのうちオペラ座のレパートリー入りが6作品というのは、デュオで踊られる作品を求めた結果だろう。それらはアラン・ルシアン・オイエンの『…アンド・キャロライン』、イヴァン・ファヴィエの『水に流して…』、クロード・ブルマションの『アンドンプテ』、クリストファー・ウィールドンの『アフター・ザ・レイン』、アンジュラン・プレルジョカージュの『ロミオとジュリエット』の墓場のパ・ド・ドゥというコンテンポラリー作品、そしてヴァシリー・ワイノーネンの『パリの炎』だ。今回まったく含まれていないネオクラシック作品は今後パリ・オペラ座バレエ団でどのように扱われるのだろうか、といささか気にならなくもないプログラム内容である。

レパートリー入りした作品から。プレルジョカージュの『ロミオとジュリエット』から墓場のパ・ド・ドゥ。アレクサンドル・ガスとニンヌ・セロピアンの1配役が6公演を務めた。音楽はヌレエフ版と同じプロコフィエルだが、それぞれが死者相手に踊るパ・ド・ドゥはプレルジョカージュらしく暴力的かつセクシュアルだ。photos:Svetlana Loboff / Opéra national de Paris

レパートリー入りした『アンドンプテ』は男性ふたりのデュオだ。アレクサンドル・ボカラ×アンドレア・サーリ(写真)、ジョルジオ・フーレス×シュン・ヴィン・ラムの2組が踊った。photo:Svetlana Loboff / Opéra national de Paris
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『若きダンサーたち』の6公演で、ソリストとしてオペラ・ガルニエの舞台で踊ったダンサーは36名。3月に無観客で2回行われた公演時から配役に大きな変更があり、ジェレミー=ルー・ケール、アレクサンドル・ガスといった入団10年前後のベテラン・コール・ド・バレエのダンサーたちも配役に加えられた。怪我で降板した若手ダンサーの代わりでもあり、また経験豊富なダンサーの参加によって、チケットを購入して会場に集まった観客に見せるに足る厚みのある公演として成立させる目的もあったのかもしれない。前回『若きダンサーたち』は2014年の4月で、3公演が行われた。この時に踊ったダンサーの中から、ジェルマン・ルーヴェ、レオノール・ボーラック、ユーゴ・マルシャンの3名がエトワールに。ちなみに、この時踊った中の6名が今回の公演にも参加した。

『白鳥の湖』から第3幕のパ・ド・トロワ。写真はマチュー・コンタ(右)と今年スジェに上がったカミーユ・ボン。もうひと組はビアンカ・スクダモアとジェレミー=ルー・ケールだった。ロットバルト役は2配役ともアントニオ・コンフォルティ。この男性3名は2014年の『若きダンサーたち』でも踊っている。photo:Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris
さて長い期間、オペラ座バレエ団の公演から遠ざかっていた観客にとって、名前、顔、その踊りが一致しないコール・ド・バレエの若者たちがいまのカンパニーに大勢いることになる。女性エトワール10名に対し、男性エトワールは現在6名。このタイトルにふさわしい男性ダンサーの出現が待たれるオペラ座である。この『若きダンサーたち』に配役されたコール・ド・バレエのダンサーの中から、ジェルマン、ユーゴに続きカンパニーのピラミッドをエトワールに向かって上がってゆく男性ダンサーは誰だろう。
今回活躍したのは、2020年に入団したケイタ・ベラリだろう。『ゼンツァーノの花祭り』『眠れる森の美女』というふたつの超クラシック作品に配役された彼は、ヴァリアッションではテクニシャンぶりを披露し、パ・ド・ドゥはさほど経験はないはずだがサポートもしっかりとしていた。しなやかな爪先が印象的なダンサーである。踊りも安定した長身の男性が少ないオペラ座で、これからどのように彼が配役され育ってゆくのか。軽やかに弾む彼の踊りを見ていると、ふと『ジゼル』のアルブレヒト役はどうだろうか?という気がするが、まずはペザントのパ・ド・ドゥで彼を見られることを期待しよう。

『眠れる森の美女』のケイタ・ベラリ。パートナーはブルーエン・バティストーニ。photo:Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris
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クラシック作品で先が楽しみなダンサーという点では、『眠れる森の美女』を踊ったギヨーム・ディオップも忘れてはならない。ジェルマン・ルーヴェに代わって『ロミオとジュリエット』で、カドリーユながら主役を務めた彼。この異例の抜擢に見事に応えることができ、自信もついたに違いない。3月の無観客公演時に比べると成長がみられ、ヌレエフの『眠れる森の美女』第3幕のパ・ド・ドゥではホイユン・カングを巧みにサポートし、フィッシュダイブもきれいに決まっていた。愛らしい笑顔という武器の持ち主でもある。注目に値するダンサーだ。

公演を締めくくった『眠れる森の美女』第3幕のパ・ド・ドゥ。ホイユン・カングとギヨーム・ディオップ。photos:Svetlana Loboff
バレエ学校時代からクラシック作品で活躍していたナタン・ブリソンの名前もあげておこう。その軽やかな踊りは、目にとても快適だ。体幹のしっかりしたブレのない正確さがダンスに感じられる。『ゼンツァーノの花祭り』は華奢な彼が組んだのは比較的骨格のしっかりとしたダンサーゆえか、作品の魅力がいささか欠けてしまったのが惜しい。もっとも彼女が同じ作品をケイタ・ベラリと踊った際はじつによい組み合わせに見え、これはパ・ド・ドゥにおける身体的なバランスのよさの大切さを再認識させる機会となった。ナタンは『ローラン・プティへのオマージュ』では『ル・ランデヴー』『カルメン』でコール・ド・バレエに配役されていた。前者の“運命”役では、演技者としても力も発揮。いつ再演が望めるかはわからないが、『リーズの結婚』のコラス役などで見てみたい。

『ゼンツァーノの花祭り』のナタン・ブリソン。photo:Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris
4月半ばに昇級コンクールがあり、その結果カドリーユからコリフェに上がった香港出身のシュン・ヴィン・ラム。『眠れる森の美女』と『アンドンプテ』の2演目に彼は配役され、クラシックとコンテンポラリーのどちらでも力を発揮するダンサーであることを証明した。小柄な彼なのでパートナーとのサイズの問題があるクラシック作品に比べ、コンテンポラリーでよりパワーを発揮するようだ。『アンドンプテ』では、エネルギーの塊のようなジョルジオ・フーレスとのデュオで盛大な拍手を得ていた。この伊仏ミックスのジョルジオはアレッシオ・カルボーネ率いる“オペラ座のイタリア人ダンサーたち”のメンバーで、『海賊』『パリの炎』といった作品で超技巧で会場を沸かせるダンサーである。『カルメン』ではジョルジオが盗賊団のチーフでシュンがその相棒という関係で、ほかの配役では見られないコミカルで息の合った演技で会場を笑わせたふたり。それとはまったく異なる『アンドンプテ』ではあるが、彼らの呼吸はじつにぴったり。ふたりの緩急の動きを観客は息を飲んで11分間追い続けた。
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『水に流して…』に配された男性ダンサーは、パリ・オペラ座バレエ学校出身で2019年に入団したマックス・ダーリントンとマリウス・ルビオ。『ル・ランデブー』『カルメン』の公演ではほぼ毎晩のように舞台にたったふたりである。長身細身のマックスは長い手脚をエレガントに駆使するダンサー。マリウスは現代を代表する若者といった風貌で個性を輝かせる。それぞれが特性を発揮して好演。パートナーとの信頼関係も強く感じさせ、もし周囲にこうしたカップルがいたら誰もが温かく受け入れるに違いないという清々しい印象を残したパフォーマンスだった。
2017年の学校公演『ライモンダ』でアブデラフマンをパワフルに踊ったルー・マルコー=ドゥルアール。その翌年に入団したもののコール・ド・バレエとしてこれまで目立った活躍はしていなかったのだが、『若きダンサーたち』では『…アンド・キャロライン』で今年スジェに昇格した第一配役のアンドレア・サーリにも負けない素晴らしいパフォーマンスを披露し、パートナーのアポリーヌ・アンクティルとふたり、会場からの歓声に包まれた。重心低く踊るコンテンポラリー作品は合格点の彼であるが、クラシック作品ではどのように配役されてゆくのだろうか、と気になる。

『…アンド・キャロライン』のルー・マルコー=ドゥルアール。パートナーはアポリーヌ・アンクティル。photos:Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris
今年の昇級コンクールでスジェに上がったひとりがニコラウス・チュドランである。3月の無観客公演時は、怪我で降板したジョルジオ・フーレスに代わり『パリの炎』を踊ることが前日に決まったそうだが見事にステージを果たした。今回もセリア・ドルゥーイのパートナーとして配役されていたのだが、今度は彼が怪我で降板という結果に。彼の代わりはスジェのジェレミー=ルー・ケールが務めた。『ロミオとジュリエット』ではマーキュシオの4名の友達のひとりとしてステージを楽しんでいる様子が頼もしかっただけに、よけい残念である。来季の活躍に期待しよう。

ワイノーネンの『パリの炎』。写真はセリア・ドゥルーイとニコラ・チュドランに代わって踊ったジェレミー・ルー・ケール。photo:Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris
プログラムの10作品と配役されたダンサーは以下のとおりだ。
ヴィクトリア・アンクティル(2015年入団、コリフェ)× マリウス・ルビオ(2019年入団、カドリーユ)、ナタン・ビッソン(2018年入団、カドリーユ)、オルトンス・パトラー(2019年入団、カドリーユ)× ケイタ・ベラリ(2020年入団、カドリーユ)
La Belle au bois dormant / l'Oiseau bleu 「青い鳥のパ・ド・ドゥ」(『眠れる森の美女』(ヌレエフ)第3幕より)
ルナ・ペイニェ(2019年入団、カドリーユ)× シュン・ヴィン・ラム(2015年入団、コリフェ)
ユージェニー・ドリオン(2014年入団、カドリーユ)× エンゾ・ソーガー(2020年入団、カドリーユ)
...And Carolyn 「…アンド・キャロライン」(オイエン)
クレマンス・グロス(2013年入団、スジェ)× アンドレア・サーリ(2016年入団、スジェ)、アポリーヌ・アンクティル(2019年入団、カドリーユ)× ルー・マルコー=ドゥルアール(2018年入団、カドリーユ)
Les Flammes de Paris 「パリの炎」(ワイノーネン)
セリア・ドゥルーイ(2016年入団、コリフェ)× ジェレミー=ルー・ケール(2011年入団、スジェ)、イネス・マッキントッシュ(2019年入団、コリフェ)× アントワーヌ・キルシェール(2013年入団、スジェ)
Non rien de rien 「水に流して...」(ファヴィエ)
ルーシー・ドゥヴィーニュ(2018年入団、カドリーユ)× マックス・ダーリントン(2019年入団、カドリーユ)、オルトンス・パトラー × マリウス・ルビオ(2019年入団、カドリーユ)
<幕間20分>
Les Indomptés 「アンドンプテ」(ブルマション)
アンドレア・サーリ(2016年入団、スジェ)x アレクサンドル・ボカラ(2017年入団、カドリーユ)、
シュン・ヴィン・ラム(2015年入団、コリフェ)xジョルジオ・フーレス(2016年入団、カドリーユ)
Le Lac des Cygnes / Pas de trois du Cygne noir 「黒鳥のパ・ド・ドゥ」(『白鳥の湖』(ヌレエフ)第3幕より)
カミーユ・ボン(2015年入団、スジェ)× マチュー・コンタ(2011年入団、コリフェ)+アントニオ・コンフォルティ(2012年入団、コリフェ)、ビアンカ・スクダモール(2017年入団、スジェ)× ジェレミー=ルー・ケール(2011年入団、スジェ)+アントニオ・コンフォルティ2012年入団、コリフェ)
After the Rain 「アフター・ザ・レイン」(ウィールドン)
ロクサーヌ・ストヤノフ(2013年入団、スジェ)× フロラン・メラック(2010年入団、スジェ)
Roméo et Juliette / Pas de deux de la tombe 『ロミオとジュリエット』(プレルジョカージュ)より墓所のパ・ド・ドゥ
ニンヌ・セロピアン(2019年入団、コリフェ)× アレクサンドル・ガース(2007年入団、コリフェ)
La Belle au bois dormant / Pas de deux de l’Acte lll 『眠れる森の美女』(ヌレエフ)より第3幕のパ・ド・ドゥ
ブルーエン・バティストーニ(2017年入団、コリフェ)× ケイタ・ベラリ(2020年入団、カドリーユ)、ホイユン・カング(2018年入団、コリフェ)× ギヨーム・ディオップ(2018年入団、カドリーユ)
editing: Mariko Omura