クラピッシュ監督の新作『En Corps』、主役はマリオン。

フランスにおけるコンテンポラリーダンスへの熱がますます高まりそうな映画『En corps』が3月30日にフランスで封切られる。クラシックバレエが踊られるセリフなしの15分で始まり、4分のコンテンポラリーダンスで終わる映画はセドリック・クラピッシュ監督の新作だ。若い時から劇場に通ってコンテンポラリーダンスに親しんでいたという彼。『ロシアン・ドールズ』(2005年)の撮影時にはマリインスキー劇場でディアナ・ヴィシュネヴァ、映画にも出演するエフゲニア・オブラツォーヴァのおかげでクラシックバレエに触れる機会を得た。パリ・オペラ座では過去において現芸術監督オーレリー・デュポンがエトワールの時代にドキュメンタリーを撮影している。そして2020年春のロックダウン中、オペラ座のダンサーたちによる新型コロナの患者の治療に勤しむ医療従事者に捧げるビデオ「Dire Merci」の編集を担当し、その際に“ダンスをテーマにした映画を作る時期が来た!”と、この2時間の映画が生まれたのだ。

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『En corps』の公式ポスター。制作・配給はSTUDIOCANAL。

彼のコンテンポラリーおよびクラシックのダンス、ダンサーへの愛とリスペクトが込められたこの『En corps』で、主役エリーズを演じるのはパリ・オペラ座バレエ団のプルミエール・ダンスーズ、マリオン・バルボーだ。彼女にとって女優デビュー作品となる。監督との出会いをこう語る。

「セドリックは2018年に公演のあった『ティエレ/ シェクター/ペレーズ/パイト』をオペラ座の依頼で毎晩舞台を撮影していました。こうして彼はシェクターと出会い、私とも出会って。彼と私の間にはお互い通じ合うものがありました。撮影の1年くらい前に彼から連絡があって映画のことを知りました。シナリオを書くにあたり、ダンサーの証言が必要だったのですね。それで私のダンサーの経験、ダンスについて思うことなどいろいろ彼に語りました。その後連絡がなかったのだけど、2020年春に彼が「Dire Merci」を編集した時期から急に映画のプロジェクトが進展したようで、6月にキャスティングに来るようにと言われたんです」

『ブラック・スワン』のようにダンスシーンは吹き替えを使うというごまかしの発想はクラピッシュ監督にはなく、ダンサーが演じることを求めていたのである。作品は怪我によりダンサーのキャリアを断念するクラシックバレエのカンパニーに属する26歳のエリーズがコンテンポラリーダンスに出合い、これまでと違う踊り方を知ることによって人生を再構築して飛び立つという物語だ。キャスティングによって、マリオンが主役に選ばれた。その通知を受けた日、20年間不眠症に悩む彼女が、この晩はよく眠れたそうだ。

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左: 『ラ・バイヤデール』の初日を踊る直前のエリーズ。 右: くるぶしを痛め、リハビリに努めるのだが……。『En corps』より。©️Emmanuelle Jacobson-Roques

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「ヒロインのエリーズは『ラ・バイヤデール』の主役ニキアを踊る初日の公演で、舞台に出る直前にボーイフレンドがほかのダンサーを抱きしめているのを目撃したために心乱れ、怪我をしてしまうのです。こうしてクラシックからコンテンポラリーへという展開と並行して、エリーズの亡き母の喪からの解放という物語でもあります。撮影は2020年12月から2021年の3月30日までで、私は久しぶりにクラシックを踊りました。映画で踊られる『ラ・バイヤデール』はオペラ座で踊られるヌレエフ版ではなく、元オペラ座のエトワールのフロランス・クレールがボストン・バレエ団のために振り付けたバージョン。カメラワークのために監督の希望で少し変更はされています。フロランスは私のお気に入りのコーチで、この映画のためにソロをクリエイトしたのだけど残念ながら編集でカットされてしまいました。でもこのソロをベースにショパンの音楽を使ったひとつの作品を作るというプロジェクトがあって、これはぜひ実現させたいと思っています」

キャスティングに参加する前に、マリオンがクラピッシュに語ったダンサーの仕事、ダンサーとして感じることといった証言がシナリオに役立ち、またシナリオが上がった時点でも監督はダンサーとしての彼女の意見を求めたそうだ。

「もちろん私が彼に語ったことがすべてセリフになっているわけではありません。私が彼にいろいろ語った時、コンテンポラリーは自由でクラシックは自由じゃないとか世間一般で思われているようだけど、クラシックにも自由があり、全てはミックスされているのだ、ということが映画の中で語られたら、という思いがありました。空間との関係でも、クラシックは常に軽く空気のようなものではない。ジゼルの精霊が下から出てくるようにクラシックでも地が必要です。ホフェッシュの追求していることもそれを超えて、もっと神秘的なものだし……。バランシンの『コンチェルト・バロッコ』を踊った時にヒエラルキーを超えた女性ダンサーたちの群の中でコンテンポラリーに感じるようなコネクションを感じたことなど……あれこれとセドリックに語ったんです。映画の最後にコンテンポラリーのカンパニーのレジデンスから戻ったエリーズが、かつて属したクラシックバレエのカンパニーの友人と会話をするシーンがあります。この友人はクラシックバレエは常に空へと向かうけれどコンテンポラリーは床、地へと向かう、と語るシーンがあります。彼女はコンテンポラリーが嫌いなんですね。この友人との会話でエリーズが語るセリフに、私の言葉を見いだしました」

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ホフェッシュ・シェクターのレジデンスのシーン。彼のカンパニーのダンサーたちも出演しているのだが、その中にパリ・オペラ座のマリオン・ゴティエ・ドゥ・シャルナッセ(中)の姿が見える。撮影時期、偶然にも彼女はサバティカルイヤーをとってホフェッシュのカンパニーで仕事をしていた偶然からだ。

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映画で踊られるホフェッシュ・シェクターの『Political Mother』はドキュメンタリーのように撮影されている。『En corps』より。©️Emmanuelle Jacobson-Roques

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作品中、エリーズがコンテンポラリーダンスに出合う場は、ホフェッシュ・シェクターのレジデンスという設定である。クラピッシュ監督はオペラ座で撮影した際に親しくなったシェクターとの間に強い結びつきを感じていて、この映画は彼と一緒に!という確かな思いがあったそうだ。ちょうど新型コロナ禍で彼のカンパニーも公演が行えない時期で、撮影に参加できるよいタイミングでもあった。作品の最後に踊られるのは彼が過去に創作した『Political Mother』で、クラピッシュ監督もパリのヴィレットでカンパニーが公演した際に見ていた作品である。シェクターは彼の振り付け作品でも音楽を自分で作っていて、この映画でも音楽を担当しているが、それだけでなく自分の役で俳優としても参加。演技初体験ということでは彼もまたマリオン同様である。

クラピッシュ監督作品の常連俳優を含めベテランに囲まれての撮影。彼らは誰もがマリオンの自然な演技を高く評価している。セリフのある仕事はマリオンにとって初めてのことだったが、「セリフの仕事はすごく気に入りました。撮影中、コーチをつけてセリフだけでなく役作りの指導も受け、セドリックもとても親切にしてくれ、開始当初はともかくストレスなしに撮影に取り組めました。カメラマンのアレクシ・カヴィルシーヌの存在を隠した控えめな仕事のおかげで、カメラを意識することもなく演技ができました。この映画出演も私の人生を変える新しい発見があって、機会があればまたチャレンジしたいですね。42歳の定年を待つのではなく、ダンスを続けながら並行してできたらと思います。でも、映画に出たことによって、もっと踊りたいという欲も出ました。驚くほど豊かな身体言語の仕事をできるチャンスをもっともっと、と」

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左: クラピッシュ監督の『パリのどこかで、あなたと』の主演を務めたフランソワ・シヴィルが整体師役で出演。 右: 父親役はドゥニ・ポダリデスが演じている。クラピッシュ監督と仕事をしたいと願っていた彼は、シナリオを読むことなく出演依頼に応じたそうだ。『En corps』より。©️Emmanuelle Jacobson-Roques

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左: 性格俳優として、またワンウーマン・ショーでも知られる女優ミュリエル・ロバンが演じるのは、シェクターのレジデンスで働く脚の不自由な女性。怪我をしたエリーズと打ち解ける。 右: レジデンスの舞台となるブルターニュにて、ホフェッシュ・シェクターと。『En corps』より。©️Emmanuelle Jacobson-Roques

editing: Mariko Omura

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