オペラ座のダンサーも公演に参加。"ボーテ・ドゥ・ラ・ダンス"の3回目が開催された。

パリに隣接するブローニュ・ビヤンクールに、坂茂の設計による音楽複合施設の「La Seine Musicale(ラ・セーヌ・ミュジカル)」が2017年に完成した。ここには『スターマニア』のようなヒットミュージカルを上演する大ステージだけでなく、音響設備の整ったクラシック音楽のための1150席のオーディトリアムもある。1月7日、その会場で「Les Beautés de la Danse(レ・ボーテ・ドゥ・ラ・ダンス)」のサード・エディションが開催された。回を重ねるごとに内容が充実しているガラなので、次の公演日とパリ滞在がスケジュール的に合うのであれば、会場はいささか不便な場所ではあるけれど、ぜひ。

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「Les Beautés de la Danse」のプログラムおよびポスターのビジュアルがとても美しい。ファッション写真家Ken Browarと元ダンサーの写真家Deborah Oryによるle NYC Projectのために撮影された写真を使用していて、左のサード・エディションはリュドミラ・コノヴァロヴァ、右のセカンド・エディションではオルガ・スミルノヴァがモデルだ。写真集はwww.nycdanceproject.com/bookにて購入可能。

クラシックバレエのガラと銘打っていて、毎回、クラシック作品とネオクラシック作品でプログラムが構成されている。パリでこうしたガラも珍しければ、クラシックに特化したガラも珍しい。アーティスティック・ディレクションを意欲的に担当するのは、パリ・オペラ座とパリのコンセルヴァトワールの教師で、かつてオペラ座のダンサーだったジル・イゾアール。友人で音楽・ダンスの世界で多岐に渡る活動をするロシア出身のカティア・アナポルスカヤとこのガラを企画したのだ。当初の意図はロシアのアーティストとフランスのアーティストによるガラというプロジェクトだったが、新型コロナ感染症そしてロシアのウクライナ侵攻があり方向転換せざるを得ず。2021年1月に予定されていた初回の公演は6月に延期されての開催となった。状況が状況ゆえ、この公演でステージに立ったのはパリ・オペラ座からはミリアム・ウルド=ブラム、ドロテ・ジルベール、リュドミラ・パリエロ、ナイス・デュボスク、アンブル・キアルコソ、マチュー・ガニオ、ユーゴ・マルシャン、ポール・マルク、フランチェスコ・ミュラの9名、そしてトゥールーズやモナコからといった近距離のダンサーたちだ。フランス国内の劇場封鎖が解除されて間もなくのことで、ステージに戻れた喜びをダンサーが観客と分かち合う素晴らしい公演となった。また、ジル・イゾアールが創作した『ヴィヴァルディ パ・ド・ドゥ』がリュドミラ・パリエロとマチュー・ガニオによって披露される機会でもあった。ダンスブームのいま、コンテンポラリー作品はテクニック的にも踊れるダンサーの幅が広いこともあり多数クリエイトされているが、クラシックバレエの新作というのは希少である。パリ・オペラ座バレエ学校創立300周年記念にピエール・ラコットによって創作された『セレブレーション』を踊ったふたりのダンサーが再び組んでいることからも察せられるだろうが、フレンチ・エレガンスの極みを踊る作品だ。もっともジルはクラシックのテクニックを用いているが周遊的なムーブメントというコンテンポラリーダンスの要素もこの作品に取り込み、いまの時代の作品に仕上げている。このパ・ド・ドゥの音楽に彼が選んだのは、カウンターテナーのヤクブ・ヨゼフ・オルリンスキが歌うヴィヴァルディの「Vedrò con mio diletto」。天に向かって上昇する崇高で超自然という点で、彼の歌声とクラシックのポワント・ワークが重なり合うということからだとジルは創作について語っている。

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レ・ボーテ・ドゥ・ラ・ダンスのサードエディションに参加したダンサーたちとジル・イゾアール(中央)。photo:Les beautés de la danse

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ジル・イゾアールの創作『Vivaldi Pas de deux』。リュドミラ・パリエロとマチュー・ガニオによって初回と2回目のガラで踊られた。photos:Francette Levieux/ Les beautés de la danse

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セカンド・エディションが行われたのは2022年7月7日。当初の企画通り、ロシア人ダンサーの登場である。ボリショイを去り、オランダ国立バレエ団に移籍したオルガ・スミルノヴァがコンスタンティンヌ・アレンと『グラン・パ・クラシック』で幕を開け、彼とともにハンス・ファン・マーネンの『Frank Bridge Variations, Duo』を踊り、彼女のソロ『瀕死の白鳥』で幕を閉じるというプログラムが用意された。12作品が踊られたセカンド・エディションで観客の心に深く突き刺さり人気をさらったのは、リュドミラ・パリエロとパリ・オペラ座のプルミエ・ダンスールであるオードリック・ブザールによる『カルメン』のパ・ド・ドゥだったといえる。オペラ座の公演時にふたりは組んでいないものの、ぴったりと合った呼吸と豊かな表現力で全幕作品でのパ・ド・ドゥを見ているような錯覚を起こさせる見事なものだった。舞台装置のないステージなのに、状況が見えてくるあっぱれなパフォーマンスでふたりは観客の心を奪ったのだ。英国ロイヤル・バレエ団のルカ・アグリとメーガン・グレース・ヒンキスが踊った『タランチュラ』は炸裂するようなふたりのエネルギーが会場にあふれ、拍手喝采だった。この回ではユーゴ・マルシャンとドロテ・ジルベールの『オネーギン』からのパ・ド・ドゥが予定されていたのだが、あいにくとユーゴが体調不良となり、ドロテは急遽フローラン・メラックとバンジャマン・ミルピエの『アモヴェオ』を……と、ユーゴの不在は残念だがガラ公演に突然の変更はつきものだ。

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3回目のレ・ボーテ・ドゥ・ラ・ダンスの第1部をプログラム順に。左: ミッシェル・ウィレム(Ballet de Zurich)とヤン・カジエ(Ballet de Zurich)、クレイグ・デイヴィッドソンの『ソナタ』。 右: マルガリータ・フェルナンデス(Bavarian State Ballet de Munich)とアントニオ・カザリーニョ(Bavarian State Ballet de Munich)。マリウス・プティパ版『La Esméralda , Diana et Actéon , pas de deux』

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左: ヴァランティーヌ・コラサント(Opéra de Paris)とポール・マルク(Opéra de Paris)。ルドルフ・ヌレエフ版『Le Lac de cygne, adagio d’e l’acte 2』。 右: マチュー・ガニオ(Opéra de Paris)。アラスター・マリオット『Claire de lune』。

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リュドミラ・コノヴァロヴァ(Opera de Vienne)とマシュー・ボール(Royal Ballet de Londres)。ルドルフ・ヌレエフ & ピーター・ライト版『la Belle au bois dormant, pas de deux』

思えば英国ロイヤル・バレエ団のダンサーをパリのガラで見られる機会はこれまであまりなかったようだが、今年1月7日に開催されたサード・エディションではジルの願いからマシュー・ボールが参加。しかも過去に踊ったことのないフレデリック・アシュトンの『精霊の踊り』を彼は初披露したのだ。この回の「ボーテ・ドゥ・ラ・ダンス」の初参加者は彼だけでなく、バイエルン州立バレエ団で最近プリンシパルに昇格したアントニオ・カサリーニョがマルガリータ・フェルナンデスと『エスメラルダ、ダイアナとアクテオン』のパ・ド・ドゥでさすがローザンヌ国際バレエ・コンクール2021年度受賞者だ!と納得させる素晴らしいテクニックで会場を沸かせ、そして『レ・ブルジョワ』のソロでは気負うことなく軽妙に踊ってパリのバレエファンにその存在を印象づけた。2回の参加となったチューリッヒ・バレエ団のミシェル・ウィレムス。パートナーは前回とは異なるが、今回も彼女はフレッシュな魅力とポエジー、そしてしっかりしたテクニックをステージ上で開花させていた。このようにマシュー・ボールといったスターだけでなく、ヨーロッパの小規模なカンパニーのダンサーをパリで発見する、という楽しみもあるガラなのだ。徐々に海外のダンサーもパリに来やすくなっている状況なので、どこのカンパニーから誰が参加するのか、と4回目の開催が早くも気になる。なおパリ・オペラ座からはリュドミラ・パリエロとマチュー・ガニオ、ポール・マルクとヴァランティーヌ・コラサントがサード・エディションに参加した。

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公演第2部よりプログラム順に。左: アントニオ・カザリーニョ(Bavarian State Ballet de Munich)。ベン・バン・コーヴェンベルグ『レ・ブルジョワ』 右: ミシェル・ウィレムス(Ballet de Zurich)とヤン・カジエ(Ballet de Zurich)。クリスチャン・スプーク『Nocturne』

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左: マシュー・ボール(Royal ballet de Londres)。フレデリック・アシュトン『Dance of the blessed spirits』 右: リュドミラ・コノヴァロヴァ(Opera de Vienne)とヤン・ギュ・チョイ(Dutch national ballet)。アグリッピナ・ワガノワ&サミュエル・アンドリアーノフ版『Le Corsaire, pas de deux』

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左: リュドミラ・パリエロ(Opéra de Paris)とマチュー・ガニオ(Opéra de Paris)。ジョージ・バランシン ©︎ The George Balanchine Trust 『Joyaux, Diamants, pas de deux 』 右: ヴァランティーヌ・コラサント(Opéra de Paris)とポール・マルク(Opéra de Paris)。ルドルフ・ヌレエフ版『Don Quichotte, pas de deux 』

editing: Mariko Omura

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