コール・ド・バレエが活躍し、エトワールが2名誕生した公演『ジョージ・バランシン』。

2月8日から始まり3月10日まで18公演のあった『ジョージ・バランシン』。その間に3日間、「パトリック・デュポンへのオマージュ」公演が行われ、その後1週間もしないうち『ジゼル』の韓国ツアーにエトワール6名を含む大勢の団員が旅立った。パリ・オペラ座の年明けはいつになくフル回転。したがって約150名の団員だけでは足らず。『ジョージ・バランシン』では、大勢の契約団員たちが憧れのパリ・オペラ座のステージで踊れることになったのだ。また日頃活躍の機会に恵まれなかったカドリーユやコリフェのダンサーたちが、この公演でレパートリー入りした『Ballet Impérial』『Who Cares?』で留守を守って良い配役について……。なかなか楽しい発見のあるステージがオペラ・ガルニエで展開された。

1. ビアンカ・スクダモアが明るく輝き、アントニオ・コンフォルティがスウィング!

『Ballet Impérial』、ビアンカ・スクダモア(スジェ)が魅力満開。

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『Ballet Impérial』のリハーサルより。右から2人目がビアンカ。彼女の得意技はピルエットだそうだ。2020年3月の日本ツアーの『ジゼル』では、トマ・ドキールとペザントのパ・ド・ドゥを踊っている。

チャイコフスキーのピアノ協奏曲第2番 ト長調 Op.44を音楽に、ジョージ・バランシンが1941年に創作した『Ballet Impérial(バレエ・アンペリアル)』。古典バレエが開花し、振り付け家マリウス・プティパが活躍した華やかな帝政ロシア期に彼がオマージュを捧げた作品だ。バランシンが後に創作した『ジュエルズ』は、彼の人生にまつわる3カ国のダンスにインスパイアされたもので、フランスの「エメラルド」、アメリカの「ルビー」、ロシアの「ダイヤモンド」の3部構成。その「ダイヤモンド」のチュチュの世界の煌めきと、ジョン・クランコの『オネーギン』の舞台となった帝政ロシアの華麗さがミックスされたようなステージがバランシン・ブルーのシンプルな背景の前に展開する。オペラ座内のデザイナー、グザヴィエ・ロンゾが担当したコスチュームも素晴らしい。花びら餅のような上品な薄桃色のチュチュは20名の女性ダンサーたちが動くたびに、可憐な花々がステージで開花するようだった。

パリ・オペラ座の公演、音楽はもちろん録音ではなくオーケストラだ。この作品では素晴らしいピアノ演奏にうっとりさせられる。また第2章ではバイオリンとチェロの掛け合いも楽しいし、そして第3章のアレグロ・コン・フォーコではエネルギッシュな演奏。それに乗せてステージ上に舞うダンサーたちの身体能力とその美しさに圧倒される40分だった。

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『Ballet Impérial』より。中央はポール・マルクをパートナーにファースト・ソリストを踊ったリュドミラ・パリエロ。テクニックを見せる作品でも芸術面が要求される作品でも、常にパーフェクトなエトワールである。photo:Agathe Poupeney/ Opéra national de Paris

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コスチュームにも注目を。なおファースト・ソリスト役のパプロ・ルガザ(左)は怪我で公演途中に降板。彼の代わりにトマ・ドキールがファースト・ソリストとして踊った。photo:Agathe Poupeney/ Opéra national de Pari

ステージ上でこの作品を踊るダンサーは女性20名、男性11名。その中で明るいオーラを惜しみなく放っていたのがセカンド・ソリストとして踊ったビアンカ・スクダモアだ。彼女が登場するや、まるでそこで太陽が輝いているよう。テクニックを要する振り付けにも、彼女は愛らしい“ビアンカ・スマイル”を絶やすことなくステージを満喫している様子。彼女が味わっている、踊ることから得られる幸福感が観客席まで伝わってきた。

オペラ座のバレエ学校で2年学んだのち、2017年に入団した彼女。フランス語が話せるようになるより前に、憧れのフレンチ・スタイルの体得に励んだそうだ。クラシック作品で見せる技量、舞台上での存在感……ダンス関係者からも高く評価されている彼女は、この夏、東京・名古屋・大阪で開催される『グラン・ガラ』のメンバーの一員だ。Aプロではトマ・ドキールと『海賊』『サタネラ』、Bプロではオードリック・ブザールと『イン・ザ・ミドル・サムホワット・エレヴェイテッド』が予定されている。トマ・ドキールとともにグラン・ガラに初参加する彼女。『海賊』では確かな技術、『サタネラ』ではフレッシュな魅力、『イン・ザ・ミドル・サムホワット・エレヴェイテッド』では弾けるエネルギーをステージ上で発揮するだろう。

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アントニオ・コンフォルティがリズムに揺れて、『Who Cares?』

この公演で踊られたふたつ目の『Who Cares?』では、トロンボーン、チューバといった金管楽器がオーケストラボックスを占めてジョージ・ガーシュウィンの曲を軽快に演奏。最後は「I Got Rhythm」に乗せて、約30名が全員が陽気に踊って……コスチュームの色と背景もあいまってまるで上質なブロードウェイの舞台を見ているようだった。

ジャジーなサウンドに見事に乗っていたのは、今年1月スジェに上がったアントニオ・コンフォルティだ。身体のしなやかさを生かし、リズミカルで小粋に踊る彼。クラシック作品でも力を発揮していたが、この作品がレパートリー入りしたことによって彼がこれまで見せる機会のなかった魅力を観客に披露できたようだ。2012年の入団後、コリフェに上がるまで少々時間がかかった彼だが、今年スジェとなり、これから良い配役に恵まれてゆくことを彼のために祈りたい。なお、女性のコール・ド・バレエについていえば、アンブル・キアルコッソ(カドリーユ)が小柄な身体を小気味よくスウィングさせて光っていたのが印象的だった。

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『Who Cares?』中、「Bidin’ My Time」を踊るフランチェスコ・ムラ、トマ・ドキール、アントニオ・コンフォルティ、グレゴリー・ドミニアック、アントワーヌ・キルシェール。photo:Agathe Poupeney/ Opéra national de Paris

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全員で踊る「I Got Rhythm」。この晩の男性ソリストはジェレミー=ルー・ケール(中央)。ドロテ・ジルベール(ピンク)と『Man I Love』、ロクサーヌ・ストヤノフ(パープル)と『Embraceable You』、そしてビアンカ・スクダモア(レッド)と「Who Cares?』を踊った。photo:Agathe Poupeney/ Opéra nationail de Pari

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2. 3月2日、オニール八菜とマルク・モローがエトワールに

すでに日本の多くのメディアが報じているように、3月2日、オペラ・ガルニエでダブル・ビル公演『ジョージ・バランシン』の『Ballet Impérial』を踊ってオニール八菜とマルク・モローの2名がエトワールに任命された。12月に芸術監督に就任したジョゼ・マルティネスによる初のエトワールの誕生である。公演終了後のカーテンコールにて、というのが通例なので、公演の途中でという任命劇にこの晩会場にいた人々には実に意外な瞬間だっただろう。

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オペラ・ガルニエにて3月2日、『Ballet Impérial』でファースト・ソリストとして踊ったオニール八菜とマルク・モローがエトワールに任命された。photo:Agathe Poupeney/ Opéra national de Paris

マルクにとってはその晩、幕間を挟んで踊られた『Who Cares?』が、オニール八菜にとっては翌日の『Who Cares?』での「I ‘ll Build a Stairway to Paradise」のソロがエトワールとしての初ステージとなった。彼女は『ジゼル』のミルタ役、そしてこの『Ballet Impérial』でもそうだったが、とりわけテクニック満載のソロを踊る時に本領を発揮し、オーラを放って華のあるステージを見せる。過去にコンクールで培った力だろうか。さてこの後、ふたりとも4月29日からオペラ・ガルニエで始まるウェイン・マクレガーの『The Dante Project』に配役されている。またマルクはこの公演と並行してオペラ・バスティーユで踊られる『モーリス・ベジャールの夕べ』でも、後半、ギヨーム・ディオップと『Le Chant du compagnon errant』を初役で踊るようだ。長らく待たれていた新たな男性エトワールのマルク、これから忙しくなりそう!

ふたりの新エトワール。7月後半には彼らの踊りを東京でも堪能できる機会がある。東京文化会館で開催の「オペラ座ガラ −ヌレエフに捧ぐ−」に出演する14名のダンサーのメンバーなのだ。ふたりは『白鳥の湖』第3幕のグラン・パ・ドゥ・ドゥをともに踊る予定。興味深い舞台となるだろう。

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左: Hannah O’Neill (オニール八菜)。2011年に入団。2014年にコリフェ 、2015年にスジェ、2016年にプルミエール・ダンスーズに上がった。美貌と確実な技術の持ち主。 右: Marc Moreau(マルク・モロー)。1999年にパリ・オペラ座バレエ学校に入学し、2004年に入団。2009年コリフェに、2011年にスジェに、2019年にプルミエ・ダンスールに上がった。コンテンポラリー作品に配されることがこれまでは多かったが、今後はクラシック作品を踊る機会も増えるだろう。photos:Julien Benhamou/ Opéra national de paris

editing: Mariko Omura

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