ドロテ・ジルベール、芸術性を極めたパフォーマンス(2) ドロテとマチューが率いる夏の来日公演「ル・グラン・ガラ」。見どころは?

パリ・オペラ座の頂点に立つベテランエトワール、ドロテ・ジルベールとマチュー・ガニオを中心に生まれた「ル・グラン・ガラ」。エトワールに任命されて間もないジェルマン・ルーヴェとユーゴ・マルシャンというフレッシュなふたりにプルミエール・ダンスーズのオニール八菜が加わって、第1回が開催されたのは2018年だった。2回目の2019年には、レオノール・ボラック、アマンディーヌ・アルビッソン、オードリック・ブザールといった豊かな経験を持つ優れたダンサーたちが参加し、公演に深みをプラス。2回とも、イタリア人振付家ジョルジオ・マンチーニの創作をメインに構成されたユニークなプログラムだった。

この後、新型コロナ感染症やダンサーたちの都合などから4年が経過し、この夏に待望の第3回が開催されることになった。この「ル・グラン・ガラ 2023」は“マチュー・ガニオとドロテ・ジルベールからの贈りもの”と謳われていて、ふたりがメンバーを選び、ダンサーたちと話し合って演目を決定してプログラムを組んでいる。4年間のブランクの後に名古屋、東京、大阪の3都市で開催されるガラはいったいどんな内容なのだろうか。

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左: ドロテ・ジルベール 右: マチュー・ガニオ photos:James Bort

座長のひとりであるドロテ・ジルベールにこの3回目の見どころを聞くと、彼女らしく笑いながら「私だけでなく、リュドミラ・パリエロ、オードリック・ブザール、マチュー・ガニオ、それにゲスト参加するフリーデマン・フォーゲル(シュツットガルト・バレエ団プリンシパル)もみんな引退年齢からそう遠くないので、この先日本でこうして踊れる機会もあまりないと思うの。だから、ぜひ大勢に見に来てほしいわ!」と。

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ドラマティック・バレエの世界へ。

引退年齢が近い。つまり経験を積み、基本となる技術の確実さに加え、芸術面でも見事な実力を発揮しているダンサーたちという意味だ。こうしたダンサーたちがその卓越ぶりを披露できる演目として、ドロテとマチューは演劇性の高い作品を選ぶことにした。『マイヤリング』『マノン』『オネーギン』『椿姫』『ル・パルク』『カルメン』……今回の参加メンバーだからこそ組めることができたプログラムだと、ドロテは自慢する。

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ケネス・マクミラン振付のドラマティック・バレエから、ドロテ・ジルベールとユーゴ・マルシャンは『マノン』(左)と『マイヤリング』を踊る。photo:(右)Ann Ray

「短い抜粋の中にもエモーションを込めて、観客を作品の世界に引き込むことができるダンサーが揃っているガラなのでできることね。日本でのガラの参加が珍しいリュドミラ・パリエロもオペラ座の主要なエトワールのひとりで、こうした作品の素晴らしい踊り手です。私が来日前にオペラ・ガルニエでユーゴと踊るのは『マノン』で、この作品の最後のパ・ド・ドゥを日本で踊りたかったのだけど、あいにくとこれは全幕以外では踊ることが許されていないの。私たちは第1幕の出会いのパ・ド・ドゥを踊ります。リュドミラとフリードマンが同じ『マノン』から第2幕の寝室のパ・ド・ドゥを踊るので、ふたつを続けてお見せすることでちょっとしたミニ・バレエという感じを味わってもらえるのではないかしら」

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左:『イン・ザ・ナイト』。その1組目を踊るのは、昨年オペラ・ガルニエの『マイヤリング』でストーリーを見事に語りあげて好評を博したリュドミラ・パリエロとマチュー・ガニオだ。 右:『カルメン』。リュドミラは2009年に、オードリック・ブザールは2012年にプルミエール・ダンスーズに昇級したコンクールで踊ったのがこの『カルメン』である。そのふたりによるパ・ド・ドゥは舞台装置も生の演奏もないガラでも、物語の世界へと観客を一気に誘う。photos:(左)Julien Benhamou/ OnP、(右)Ann Ray

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Aプログラムに入っている『イン・ザ・ナイト』もパリ ・オペラ座の頂点に立つ今回の充実したメンバーがいて踊れる作品である。3カップルの組み合わせは若い恋人同士がリュドミラ×マチュー、結婚したての夫婦がアマンディーヌ×オードリック、そして別れが近いふたりがドロテ×ユーゴだそうだ。パリでは来シーズンの10月に踊られる作品だが、オペラ座のステージ並みの豪華な組み合わせなのではないだろうか。この作品はショパンの「夜想曲」にのせて踊られる。日本でピアノ演奏をするのはパリ・オペラ座のコレペティートル久山涼子ということで、これも楽しみな要素である。

「ユーゴを除いて全員がどこかで一度はこの作品を踊ってるのよ。そのユーゴにしても公演はなかったけれど代役としてしっかりと稽古をしてるし……。ほかのダンサーはどうかわからないけれど、私はこれまで第1、第2、第3パ・ド・ドゥのすべてを過去に踊ってるのよ。歳をとるにつれて、というのもおかしいけれど(笑)」

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左からリュドミラ・パリエロ、アマンディーヌ・アルビッソン、レオノール・ボラック。photos:James Bort

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左: ユーゴ・マルシャン 右: オードリック・ブザール photos:(左)James Bort、(右)Mary Brown

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ゲストのフリーデマン・フォーゲルがもたらすこと。

「今回のガラには世界的に有名で、かつグループの女性ダンサーたちが満足できる男性ダンサーを探したのよ。彼は素晴らしい踊り手であるだけでなく、オペラ座のレパートリーと共通する作品を多く踊っているでしょ。彼女たちはみんな彼と踊れることになって、とても喜んでいるわ。私は彼とは2021年のワールド・バレエ・フェスティバルで偶然に一緒に踊ることになったの。というのも、『オネーギン』を一緒に踊るはずのユーゴが日本に着いた時の空港での検査でコロナ陽性と出て、隔離されてしまって……急遽フリーデマンが私のパートナーを務めてくれたの。彼は今回のガラでさっきも話したようにリュドミラと『マノン』を、そしてアマンディーヌとはジャン=クリストフ・マイヨーの『くるみ割り人形』、レオノール・ボラックとはマルコ・ゲッケ創作の『悪夢』と『3つのグノシエンヌ』を踊ることになってる。彼が参加することによって、このようにオペラ座のレパートリーにはない新しい作品が私たちのガラにもたらされるのもうれしいことね」

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日本でもおなじみのフリーデマン・フォーゲルが特別出演! photo:Sebastien Gaultier

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若手ダンサーたちがエネルギッシュに舞う。

こうした“熟成”のダンサーたちが感情豊かにドラマチックなステージを展開するのが公演のひとつの柱なら、4名の若手ダンサーたちが超技巧を披露するステージはふたつ目の柱だろう。ビアンカ・スクダモアとトマ・ドキール、クララ・ムセーニュとニコラ・ディ・ヴィコの2カップルだ。

「3回目のグラン・ガラは2020年に開催の予定で、当時の若手だったビアンカとトマをグループに誘っていたの。それから3年が経過。その間にふたりとも良い配役も得てドゥミ・ソリストとして活躍するダンサーに成長し、彼らはいまや若手というより中堅ですね。見どころのある舞台を見せてくれるはずよ。ビアンカは最近ではピエール・ラコット創作の『赤と黒』の令嬢役でユーゴをパートナーにパ・ド・ドゥを踊ってるし、素晴らしいテクニックの持ち主。彼女独特の世界を持っていて、こうしたインターナショナルなガラに参加することは、より大きな自信にも結びつくのではないかしら。それにガラではオードリックとフォーサイスを踊るのよ。彼も彼女をすごくプッシュすると思うし……。トマは私が2019年に『白鳥の湖』を踊った時のロットバルトだった。とても大きな可能性を秘めたダンサーで、レオノール・ボラックと一緒に『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』も踊ります」

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愛らしい笑顔で知られるビアンカ・スクダモア(左)とクールな美青年のトマ・ドキール。ふたり一緒にAプロでは『海賊』『サタネラ』、Bプロではケネス・マクミランの『コンチェルト』を踊る。photos:Julien Benhamou/ OnP

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クララ・ムセーニュ(左)とニコラ・ディ・ヴィコ。ふたりはAプロで『ドン・キホーテ』、Bプロで『パリの炎』を踊る。photos:(左)Yumiko Inoue、(右)Julien Benhamou/ OnP

ちなみにジョゼ・マルティネスが芸術監督に就任以降、ビアンカは公演『ジョージ・バランシン』の2作品で重用されていて、『ダンテ・プロジェクト』でも彼女の見せ場がたっぷり。トマもまた『ダンテ・プロジェクト』では新エトワールのギヨーム・ディオップの踊るパートの第2配役に選ばれている。ふたりとも新監督の期待を担ったダンサーと言えそうだ。

彼らに加えて、超技巧を披露して観客を沸かせる作品を踊れる“新星”として、ビアンカとトマの次のジェネレーションからドロテたちが白羽の矢を立てたのは、クララとニコラ。「ふたりともオペラ座の期待の星よ。クララはとても仕事熱心で、気持ちも前向き。ニコラもそうなの。私、ふたりとも大好きよ」とドロテ。クララは入団後、2回目と3回目のコンクールで昇級し、若いながらも現在スジェである。彼女は昨年、日本でのガラに参加しているが、ニコラはこれが初の来日だ。さて、日本での公演に向けて彼らの指導にあたるのは……。

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エルヴェ・モローがステージ・マネージャーとして参加。

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2021年にエレオノーラ・アバニャートのアデュー公演で姿を見せて以来、久々にエルヴェがオペラ座のステージに上がったのは今年2月。往年のエトワールが勢揃いしたガラ「パトリック・デュポンへのオマージュ」のデフィレでのことだ。同世代エトワールのカール・パケット、マリー=アニエス・ジロと共に。photo:Mariko Omura

クララの入団は2020年、ニコラの入団は2022年だ。彼らとすれ違うことなく2019年にオペラ座を去ったエトワールのエルヴェ・モローが、若手ダンサーの指導を担当するそうだ。また、彼自身も踊ったことのある『イン・ザ・ナイト』ではエトワールたちのリハーサルコーチも務める。現役時代の彼を知るバレエファンは彼の端正な容姿、ノーブルで詩情あふれるダンスを忘れていないだろうが、ドロテによると彼は素晴らしい指導者でもあるという。このガラでエトワールたちによって踊られる作品の多くを彼自身も踊っているので、縁の下の力持ちとしてこのガラに貢献するのだろう。来日に際してはステージ・マネージャーの役割も果たす。

4年ぶりの「ル・グラン・ガラ」。パリ・オペラ座の現在と未来のスターたちが織りなすふたつの意欲的なプログラムが5月9日に発表された。指折り数えて公演開催を待とう。

『ル・グラン・ガラ 2023』 公演情報

名古屋:愛知県芸術劇場大ホール
Aプロ 7月30日(日)13:30開演
https://hicbc.com/event/le-grand-gala2023

東京:東京文化会館ホール
Aプロ 7月31日(月)19:00開演、8月1日(火)13:30開演、8月2日(水)13:30開演、Bプロ 8月2日(水)18:30開演、8月3日(木)18:30開演
https://le-grand-gala.com

大阪:フェスティバルホール
8月5日(土)17:00開演
www.ktv.jp/event/legrandgala2023

【Aプログラム】
『ソナタ』
振付:ウヴェ・ショルツ
レオノール・ボラック マチュー・ガニオ

『カルメン』
振付:ローラン・プティ
リュドミラ・パリエロ オードリック・ベザール

『くるみ割り人形』
振付:ジャン=クリストフ・マイヨー
アマンディーヌ・アルビッソン フリーデマン・フォーゲル

『ル・パルク』
振付:アンジュラン・プレルジョカージュ
ドロテ・ジルベール ユーゴ・マルシャン

『海賊』
振付:マリウス・プティパ
ビアンカ・スクダモア トマ・ドキール

『ドン・キホーテ』
振付:マリウス・プティパ
クララ・ムーセーニュ ニコラ・ディ・ヴィコ

『3つのグノシエンヌ』
振付:ハンス・ファン・マーネン 音楽:エリック・サティ
レオノール・ボラック フリーデマン・フォーゲル
ピアノ:久山亮子

『サタネラ』
振付:マリウス・プティパ 音楽:チェーザレ・プーニ
ビアンカ・スクダモア トマ・ドキール

『イン・ザ・ナイト』
振付:ジェローム・ロビンス
リュドミラ・パリエロ マチュー・ガニオ アマンディーヌ・アルビッソン オードリック・ベザール ドロテ・ジルベール ユーゴ・マルシャン

【B プログラム】
『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』
振付:ジョージ・バランシン
レオノール・ボラック トマ・ドキール

『マノン』より“寝室のパ・ド・ドゥ”
振付:ケネス・マクミラン
リュドミラ・パリエロ フリーデマン・フォーゲル

『オネーギン』
振付:ジョン・クランコ
アマンディーヌ・アルビッソン マチュー・ガニオ

『イン・ザ・ミドル・サムホワット・エレヴェイテッド』
振付:ウィリアム・フォーサイス
ビアンカ・スクダモア オードリック・ベザール

『うたかたの恋 マイヤーリング』
振付:ケネス・マクミラン
ドロテ・ジルベール ユーゴ・マルシャン

『パリの炎』
振付:ヴァシリー・ワイノーネン
クララ・ムーセーニュ ニコラ・ディ・ヴィコ

『ヴィヴァルディ・パ・ド・ドゥ』
振付:ジル・イゾアール
リュドミラ・パリエロ マチュー・ガニオ

『椿姫』
振付:ジョン・ノイマイヤー
アマンディーヌ・アルビッソン オードリック・ベザール

『マノン』より“出会いのパ・ド・ドゥ”
振付:ケネス・マクミラン
ドロテ・ジルベール ユーゴ・マルシャン

『悪夢』
振付:マルコ・ゲッケ
レオノール・ボラック フリーデマン・フォーゲル

  『コンチェルト』
振付:ケネス・マクミラン
ビアンカ・スクダモア トマ・ドキール

editing: Mariko Omura

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