エトワールのユーゴ・マルシャン、オペラ座の外でも大きく羽ばたく。

2021年の世界バレエフェスティバル以来、2年ぶりに日本で踊るユーゴ・マルシャン。その間にパリ・オペラ座のエトワールというだけにとどまらず、彼の活動半径が大きく広がっている。7月30日に名古屋から始まる「ル・グラン・ガラ2023」の公演に向けてパートナーのドロテ・ジルベールと稽古が続くいま、オペラ座外での活動について彼に語ってもらった。

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ユーゴ・マルシャン photo:Laura Gilli

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チケット13ユーロで「レゼトワール・オ・シャトー」。

5月末にオペラ・バスティーユで『モーリス・ベジャール』が、オペラ・ガルニエで『ダンテ・プロジェクト』が終わり、その週末の6月3~4日にオペラ座の団員たちは待ってましたとばかりに地方や海外でのガラ公演に参加した。室内装飾界の巨匠ジャック・ガルシアがノルマンディー地方に所有するシャン・ド・バタイユ城で開催されたのは、『Les Etoiles Au Château(レゼトワール・オ・シャトー)』。ユーゴ・マルシャンを含め7名のオペラ座のダンサーが踊ったのだが、この公演をオーガナイズしたのはユーゴ自身である。

彼は昨年「Hugo Marchand pour la danse(ユーゴ・マルシャン・プール・ラ・ダンス)」というアソシエーションを設立した。その活動の中心がダンス公演の「レゼトワール・オ・シャトー」なのだ。2021年にイタリアのラヴェッロの近くで素晴らしい建築遺産であるシャトーで踊った際に、こうしたパトリモワンヌの前で踊ることの素晴らしさから浮かんだアイデアだという。

「オペラ座にも話してみたのだけど特に具体的な進展もなく、それで自分で始めることにしたんです。2021年~22年にいろいろと考え、整えるべき多くの要素があって時間が必要だったので今年の6月3、4日に公演が初めて実現できました。これは僕ひとりで始めたことで、まずは援助してくれるメセナを見つけるのにあちこちでプレゼンをしたんです。その結果、アリーヌ・フォリエル=デステゼというメセナに出会うことができました。彼女は僕のプロジェクトを信頼してくれて、“援助しましょう”と。これは嬉しかったですね」

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シャン・ドゥ・バタイユ城で開催された「レゼトワール・オ・シャトー」の初回公演より。左からマルク・モロー、アレクサンドラ・カルディナール、レオノール・ボラック、ユーゴ・マルシャン、ドロテ・ジルベール、ジェルマン・ルーヴェ、ブルーエン・バティストーニ、オフェリー・ガイヤール、エレナ・ボネイ。photo:Edouard Brane
https://hugomarchandpourladanse.org @hugomarchandpourladanse

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公演のための資金の目処がついたところで、ユーゴの頭の中に浮かんだのは公演実現に向け、アレクサンドラ・カルディナールに声をかけることだった。かつてオペラ座のダンサーで2018年の引退後、バレエのガラを多数プロデュースし、「Gala d’Etoiles」のアーティスティック・ディレクターを務める彼女は、この分野で豊かな経験の持ち主である。「入団して間もない頃に彼女のガラに参加したことがあり、その素晴らしい仕事ぶりを知っています。それに彼女はダンスにおける社会的な面にも関心を持っているんですね。僕のこのプロジェクトの目的はフランス国内の建築的な遺産に出向いていき踊るというものです。それもどちらかというと農業地でダンスの存在がほとんどないような土地へと。地元の人たちが見に来られるように、チケット料金を13ユーロと設定しました。映画館の料金が12ユーロで、それにチケットの手数料が1ユーロかかることからの金額設定です。毎回、開催する県の補助金や広報活動といった支援を得ることを必要としています」

レゼトワール・オ・シャトーの次の公演は9月9、10日にソーヌ・エ・ロワール県に所在する“シャロレー地方の真珠”と謳われる美しいディゴワンヌ城にて開催される。

「これについては県が最初から支援してくれていて、5月11日にプレスカンファレンスをオーガナイズしてくれたんです。集まったのは地元の主に農業関連のメディアなどですが、その結果、その5日後にチケットが売り切れました。2000名が公演を見に来ることになります」

メンバーはユーゴが選んだ。彼がダンサーとして評価し、彼の心に触れるダンサーたちである。エトワールのドロテ・ジルベール、レオノール・ボラック、ジェルマン・ルーヴェ、マルク・モロー、そしてプルミエール・ダンスーズのブルーエン・バティストーニ。こうしたダンサーたちに加え、ピアニストのエレナ・ボネイ、セロ奏者のオフェリー・ガイヤールがチームに参加している。9月の公演にはあいにくとブルーエンの日程が合わず、プルミエール・ダンスーズのシルヴィア・サン=マルタンが代わりに参加するというように、固定メンバーのガラであってもこうしたフレキシビリティがある。

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ドロテ・ジルベールとユーゴ・マルシャン。『白鳥の湖』のリハーサルより。photo:Edouard Brane

「6月3、4日の最初の公演はどう受け入れられるのか、不安がありました。それが2日とも立ち見がでて、天候にも恵まれて……みんなに喜んでもらえたと感じています。アレクサンドラとともに最初の賭けに成功したんですが、でも、ひとつうまくいっても、すべてがうまくゆくという保証はないのだから、そこにあぐらをかくことはしません。いまは来シーズンの公演を準備していて、会場を探しているところです。レゼトワール・オ・シャトーは野外だけの公演なので、天候を鑑み6月から9月の間に行います。ステージをシャトーの正面に設置し、建物が舞台背景となるんです。この舞台のためにダンス用床を購入しました。大きな投資ですが、これでダンサーたちが身体を痛めることなく踊れます。公演の開催はオペラ座の仕事が休みの日なので、僕は彼らを守らねばなりませんから」

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城の建物を背景に、ジェルマン・ルーヴェとレオノール・ボラック。photo:Edouard Brane

アイデアから実現までを振り返ってみて、いちばん難しかったのは財政面だという。13ユーロのチケットでは公演にかかる費用は賄いきれない。いかに資金を見つけるか?

「メセナを見つけ、さまざまなパートナーも見つけて、彼らにお金を出すように説得することが必要でした。フランス国民は全員が税金を払ってるのにダンスが行きわたってない土地がたくさんあります。僕はこのプロジェクトによって、ダンスを誰もが楽しめるようにしたいんです。出会いの場もオーガナイズしていて、ディゴワン城では公演後若い観客たち30名とダンスについて、ダンサーの仕事について話し合う機会を設けています。僕はオペラ座のダンサーだけど、突然、このようにイベントのオーガナイザーになったので大変でした。広報面、ビジュアルの準備、サイトの制作などに加え、メディアとアポイントをとり、また使用場所やダンサーのギャラなどの契約書のために弁護士が必要となり、会計士も必要で……こうしたすべての管理にはすごい時間とエネルギーがいります」

この活動とは別に彼は5年前からマスタークラスを開催している。これは生まれ故郷の近くの街ヴェルトゥで、オーガナイズは彼の両親が担当。毎回60~70名がフランス各地、ベルギーからも集まってくるそうだ。

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フランス最古のジュエラー、メレリオのアンバサダーとして。

ユーゴは今年1月から「Melleriio(メレリオ)」のアンバサダーを務めている。ラペ通り9番地にブティックを構え、いまも家族経営というのが珍しいフランス最古のジュエラーだ。最近、大阪の阪急うめだ本店にコーナーが生まれたので、日本にもファンが増えてゆくことだろう。ユーゴがメゾンのジェネラルディレクターのクリストフと知り合いだったことから、アンバサダーの提案があったそうだ。

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左: ユーゴをモデルにしたキャンペーン写真を飾る、メレリオの地下に設けられたゲストルーム。 右: ユーゴも日常的に身につけるというコレクション「リヴィエラ」。卵型のデザインはメレリオの歴史に欠かせないダイヤモンド“ボー・サンシー”へのオマージュだ。ボー・サンシーとはアンリ4世妃マリー・ドゥ・メディシスがつけていた34.98カラットのダイヤモンド。彼女がイタリアから来たメレリオにフランスでの商売を許可したという縁がある。photo:(左)Mariko Omura

「美しくハイクオリティのクリエイションが素晴らしいジュエラーです。だから、メレリオのアンバサダーになるという提案はとてもエキサイティングなことだと思いました。メレリオでは過去のジュエリーにインスパイアされた、モダンなクリエイションをしています。メゾンの14代目でアーティスティック・ディレクションを担当しているロール=イザベル・メレリオのジュエリーに対する嗜好も好きですね。彼女、そしてクリストフとは気兼ねなく意見交換ができ、ダイレクトな関係が築けています。人間的にお互い評価し合っていて……時々ロール=イザベルは地下のスペースにジャーナリストたちを集めてごく内輪なディナーを催すのだけど、とてもファミリアルな雰囲気で、貴重で豊かな時間が過ごせます」

ロール=イザベルはユーゴが踊れば公演を観にゆくし、さらにユーゴのアソシエーションの発展に力を貸してくれそうな人とユーゴの出会いの場を設けることでアソシエーションに寄与している。未来のパートナーとの食事会なども、彼女はこのスペースでセッティング。ダンスとジュエリーのエクセランスの出合いから、いろいろなことが生まれるのだ。

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左: ラペ通9番地にブティックを構えるメレリオ。 右: 創業を1613年に遡るジュエラー。地下のゲストルームには古い台帳やデザイン帳が保管されている。@melleriojoaillier www.mellerio.fr photos:Mariko Omura

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ル・グラン・ガラ2023 、ピエール・ラコットの思い出。

4年ぶりに開催される「ル・グラン・ガラ2023」では、円熟期のダンサーたちが演劇的名作バレエのパ・ド・ドゥで観客の心に呼びかけるプログラムである。このガラで彼はドロテ・ジルベールをパートナーに『マイヤリング』『マノン』『ル・パルク』のパ・ド・ドゥを踊り、さらに7月頭のプログラム変更によりジェローム・ロビンスの『イン・ザ・ナイト』に代わって踊られる3作品中、ユーゴとドロテはピエール・ラコット創作『赤と黒』のパ・ド・ドゥを選んだ。今年4月に亡くなったピエール・ラコットへのオマージュである。この作品は2021年10月16日にパリ・オペラ座で初演された創作で、ラコットは衣装、舞台デザインも自身で行っているほどこの創作には深い思い入れがあった。オペラ座で14公演が踊られ、それ以降パ・ド・ドゥとはいえこの作品が踊られるのは今回が初めてとなる。バレエの原作はスタンダールの小説。製材場の息子で美貌の野心家ジュリアン・ソレルが家庭教師に雇われた町長レナールの家で夫人と不倫関係に陥るのだ。ガラで踊られるのは敬虔なカトリック教徒で夫を裏切るなどジュリアンに会うまでは思ったこともなかったレナール夫人とジュリアン・ソレルの第1幕の寝室のパ・ド・ドゥである。

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『赤と黒』第1幕より。ジュリアン・ソレルが雇用されたレナール邸の庭でのディナー。photo:Svetlana Loboff / Opéra national de Paris

ユーゴとピエール・ラコットの出会いは彼の学校時代に遡る。最終年の公演がピエール・ラコットの『コッペリア』でユーゴはあいにくと舞台には立たなかったが主役の稽古をし、また彼が2016年日本でエトワールに任命されたのもラコットの『ラ・シルフィード』を踊ってのことである。

「ピエールはとても要求が厳しく、またとても感情的な人でした。だから彼とスタジオで稽古をするのはちょっと特殊な雰囲気でしたね。僕より前の世代のダンサーたちのようには、彼とやりとりができないまま終わってしまっています。だから、もっと彼のことを知りたかったのに、というフラストレーションが残っています。でも、彼はよく電話をくれたんですよ。励ましてくれたり、怪我を気遣ってくれたり……。僕がまだ若かった2015年に初めてドロテと『マノン』を踊った時に会場で誰よりも早く立ち上がって拍手をしてくれたのが彼で、その後舞台裏に来てくれた彼の目には波が浮かんでいて……。若い世代への愛情がある彼なので、きっと僕のステージを見てうれしく思ってくれたんでしょうね」

遺作となったこの『赤と黒』中、ジュリアン・ソレルとレナール夫人のパ・ド・ドゥはほかにもあるが、この第1幕の寝室はストーリーから取り出して踊るのにふさわしいということで彼らは選んだという。ジュール・マスネの音楽にのり、炎が燃え上がるようなパ・ド・ドゥ……Aプログラムのお楽しみだ。(@legrandgala le-grand-gala.com/

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『赤と黒』のパ・ド・ドゥ。photo:Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris

editing: Mariko Omura

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