ジェルマン・ルーヴェ、6年ぶりの世界バレエフェスティバル。

待望の第17回世界バレエフェスティバルが7月31日に開幕する。3年に一度のバレエの祭典で、前回2021年は新型コロナウイルス感染予防対策ガイドラインに沿っての開催だったため、AプロとBプロのみでフェスティバルを華やかに締めくくるガラはあいにく中止となってしまった。もちろんファニーガラもなし。出演ダンサーたちも日本に入国するための書類や検査など通常以上に面倒な準備をしての来日で、見る側も踊る側もなかなか大変なフェスティバルだった。それだけに6年ぶりの今回のフェスティバルは、見たくても抽選の結果次第!というガラが8月12日に行われることもあり、期待は盛り上がる。

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ジェルマン・ルーヴェ。彼にとってシーズン2023/24の最後の公演『白鳥の湖』より。photography: Juien Benhamou/ OnP

パリ・オペラ座からはユーゴ・マルシャンとドロテ・ジルベール、オニール八菜とジェルマン・ルーヴェの2組が参加する。ジェルマンは2018年のフェスティバルに続く、2回目の参加となる。前回はレオノール・ボラックがパートナーだったが、今回はマチアス・エイマンの降板を受けて、彼と踊る予定だったオニール八菜がジェルマンのパートナーだ。パリ・オペラ座のシーズン2023/24で『ドン・キホーテ』『ジゼル』『白鳥の湖』で素晴らしいステージを作り上げたジェルマンと八菜。ふたりの息の合ったところをAプログラムでは、アンジュラン・プレルジョカージュの『ル・パルク』の有名な"フライングキス"、Bプログラムではジョージ・バランシンの『ソナチネ』で見せてくれることだろう。

この演目の選択について、ジェルマンはこう語っている。

「この2演目は八菜とマチアスが踊ろうと決めていた作品なんです。彼の代わりにフェスティバルで彼女と僕が踊ることになった時に、彼女から演目の相談をされました。僕はどちらも踊るのが好きな作品なので、このアイデアをキープすることにしたんです。とりわけ『ル・パルク』は新型コロナ感染症予防で劇場が封鎖されている時に八菜と稽古をし、カンパニーの内輪の公演で踊っただけ。だから僕たちが『ル・パルク』を観客を前に踊るのは、日本が初めてとなります。『ソナチネ』を初めて踊った時、レオノール・ボラックがパートナーでした。ヴィオレッタ・ヴェルディへのオマージュを捧げる公演で、僕は23歳ととても若かった。今回この作品を再び踊れる機会となり、とてもうれしい。ガラでは......」

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シーズン2023/24を彼はジェローム・ロビンスの『En Sol』でスタートした。パートナーはレオノール・ボラック。photography: Svetlana Lobobb/ OnP

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年末にはパク・セウンと『くるみ割り人形』。その後『ジゼル』でも降板したマチアス・エイマンに代わりジェルマンがセウンと踊ることになった。photography: Agathe Poupeney/ OnP

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ガラの演目、これはまだ秘密! AプロもBプロも2月のパリ・オペラ座公演『白鳥の湖』とはタイプの異なる作品である。これまでふたりが披露できるチャンスがなかった新たな魅力を、このフェスティバルで発見できそうだ。世界バレエフェスティバルならではの興奮が沸き立つ雰囲気の中で、日本の観客を前に踊れることを彼はとても喜んでいる。

「ロベルト・ボッレ、フリーデマン・フォーゲル、オルガ・スミルノヴァといった世界の素晴らしいダンサーたちとステージで再会できることも、待ち遠しいです。6年前は僕にとって初めてのフェスティバルでした。心に残る思い出は参加していたオーレリー・デュポン、そしてタマラ・ロホと仕事する機会に恵まれたことです。またガラの終わりのファニー・ガラで、イサック・エルナンデスとポワントで『カルメン』の競い合いを行ったことも。これは笑いあふれる楽しい思い出ですね」

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ジェルマンと八菜は入団以来の仲良しだ。『ドン・キホーテ』でも息の合ったところをステージで披露。photography: Yonathan Kellerman/ OnP

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よく知られているように、今回のパートナーのオニール八菜と彼はステージの外でも仲が良い。彼女とは人間的なコンタクトがあると以前にも語っていたが、いまや13年来の仲良し。ダンサーの彼女をおおいにリスペクトしている彼は、彼女の仕事の仕方や動きの知的な使い方などに共通の面を見いだしているそうだ。

「ステージ上で僕たちはどちらかが支配的ということはないんです。平等な関係。とてもバランスが取れています。だから八菜と一緒に踊るのはとてもうれしくて、大きな感動を得ることができます。これまで一緒に踊った作品の中で心に強く残っているのは、ピエール・ラコットが創作した『赤と黒』。僕のパートナーではなかったけれど、公演直前に代役で彼女が僕と踊ることになって。彼女も僕も"ラコットの子ども"といった感じなので、とても素晴らしい時間を過ごせたことを覚えています」

ジェルマンはパリ・オペラ座のバレエ学校の最終年の公演『コッペリア』で、創作者ピエール・ラコットから主役フランツに選ばれている。また正式入団前のオニール八菜が稽古場で踊るのを見て、故ラコットが"未来のエトワールがいる!"と言ったのは有名なエピソードだ。

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オニール八菜と踊った『ジゼル』。この第2幕では、とても美しいアントロシャ・シスを見せた。photography: Julien Benhamou/OnP

7月14日、彼は『白鳥の湖』を八菜と踊ってパリ・オペラ座のシーズン2023/24を締めくくった。彼にとってどんなシーズンだったのだろう。配役されたのはジェローム・ロビンスの『En Sol』、ルドフル・ヌレエフの『くるみ割り人形』『ドン・キホーテ』『白鳥の湖』。そして『ジゼル』だ。なお『白鳥の湖』はオペラ・バスティーユだけでなく2月の来日公演でも踊っている。

「今シーズンは過去に踊った作品を新しいパートナーと踊れる機会があったうえに、エリザベット・モーランやフローランス・クレールのようにこれまでと違うコーチとも仕事ができました。『ジゼル』のアルブレヒトや『白鳥の湖』のジークフリードといった若い時に出会った役に、何年か後に再び取り組むことができたのはうれしい限り。これらは僕のキャリアとともに歩んでいる役です。今シーズンの最高の喜びを語るなら、それはオペラ座でこれまで一緒に踊る機会が少なかった八菜とともに何度もステージに立てたことです。来シーズンは今シーズンと打って変わって、ほとんどが初役で踊る作品ばかりなんですよ。『パキータ』のルシアン、『マイヤリング』の皇太子ルドルフ、それにこれまで仕事をしたことのないマッツ・エクの『アパルトマン』も踊ることになるようで、新しい役柄、新しいチャレンジが待っています。どちらかというとネオ・クラシックなシーズンですね」

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プリンス役が似合うジェルマン。世界バレエフェスティバルでは新しい面を見せてくれるだろう。photography: Julien Benhamou/ OnP

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最後にひとつ、オペラ座の仕事以外のトピックを。彼が3年をかけて書き、2022年2月に出版された『Des choses qui se dansent』(Fayard刊)が最近ポケット版になって出版されたのだ。

「出版社の僕の担当のエディターから、ポケット版が出ると聞いた時、すごく幸せな気持ちになりました。これはハード版が大勢に読まれてポケット版化に値すると見なされたことだし、手頃な価格のポケット版となるとさらに多くの人に読んでもらえることになるので......」ととても喜んでいる。読者からの反応により、ダンスの世界に無縁の人たちが多くこの本を読んでいることがわかった。「また若いダンサーたちからの反応もあって、男性がクラシックダンスをする時に出合う難しさとか......ダンスは女性的なものと見なされているし、また将来職業にしようかといったさまざまな迷いがあります。そうした若いダンサーたちに、この本が微笑みを与えたり、踊ろうという気持ちを取り戻すことに役立ったようなのでうれしいです。僕の心にすごく響きます」

ジェルマンの繊細な感性が行間に読み取れる素晴らしい一冊。日本語版が近いうちに出版されることを祈りつつ、フェスティバルで彼のダンスを堪能しよう。

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『Des choses qui se dansent』(Fayard刊)。パリ市内の書店、パリ・オペラ座のブティックで販売している。

第17回世界バレエフェスティバル
会場:東京文化会館
●Aプログラム
7月31日(水)18:00、8月1日(木)18:00、8月2日(金)14:00、8月3日(土)14:00、8月4日(日)14:00
●Bプログラム
8月7日(水)18:00、8月8日(木)18:00、8月9日(金)14:00、8月10日(土)14:00
入場料:S ¥29,000、A ¥27,000、B ¥23,000、C ¥19,000、D ¥16,000、E ¥10,000 コーセーU25シート ¥5,000

問い合わせ先:
NBSチケットセンター
03-3791-8888
https://www.nbs.or.jp/

editing: Mariko Omura

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