パリ・オペラ座、ダンスの新シーズンが華やかに開幕した。
パリとバレエとオペラ座と 2024.10.04
ジョゼ・マルティネスが2022年12月に芸術監督に就任し、長年のバレエファンにとっても、新たにダンスに関心を抱く人たちにとっても魅力を増し続けているパリ・オペラ座バレエ団。2024/25の公演プログラムは、前任者オーレリー・デュポンが去る前に決めていた内容も少し含まれているものの、マルティネス芸術監督のクラシック作品への愛とバレエ団の未来に目を向ける彼の意欲を感じさせる素晴らしいものである。
10月1日パリ・オペラ座バレエ団のシーズン開幕ガラが、Chanel(Grand mécène de l'Opéra national de Paris)とROLEX(Montre de l'Opéra national de Paris)のおおいなる協力を得てオペラ・ガルニエにて開催された。2015年に始まったAROP(l'Association pour le Rayonnement de l'Opéra de Paris/パリ・オペラ座振興会)が主催するダンスのガラの開催は今回が10回目。2018年からガラ公演のメセナとなったシャネルは、いまではパリ・オペラ座バレエ団のグラン・メセナである。ガルニエ宮はガラの晩は優美かつゴージャスに装飾され、セレブリティも大勢招待され......いまや、シーズン開幕ガラはパリの社交界が心待ちにするの秋の話題のイベントのひとつに数えられる。なお、今回は今年5月に亡くなった元パリ・オペラ座総裁(任期1995年~2004年)の功績を称え、彼にオマージュを捧げるガラとなった。
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ドレスアップした男女が劇場を埋め尽くしたこの宵。ガラ公演は恒例のデフィレからスタートした。生徒とカンパニーの正団員の間のポジションに、今シーズン新たに創設されたジュニア・バレエの団員18名も参加してのデフィレ。2年契約の彼らの中には、もしかすると来年の外部入団試験に受かって来季には団員としてデフィレに出るダンサーもいるのかもしれない。シャネルがメセナとなって以来、女性エトワールのチュチュの胴着部分にはルサージュの刺繍が施されるようになった。今回エトワールとして初デフィレとなったブルーエン・バティストーニのために、新たな1着が制作されたのだろう。なお前シーズンのデフィレがエトワールとして初登場となったオニール八菜の場合は、直前に引退したエトワール、アリス・ルナヴァンから譲られたものを着用するという衣装の継承というエピソードがあった。
誰もが一度は見てみたいと夢見るデフィレはこれまでガラだけのお楽しみだったが、今シーズンは特別に10月4日から始まる開幕公演『ウィリアム・フォーサイス/ヨハン・インガー』の最初の3晩(10月4日、9日、10日)にも行われる。そして10月10日のデフィレで、エトワールのローラ・エケがオペラ座にアデューを告げる。3月に行われた新シーズンのプログラム紹介の際には、来年3月の『オネーギン』でマチュー・ガニオと彼女のアデュー公演が行われるということだったのだが......。なお3月1日に予定されているマチュー・ガニオのアデュー公演は、パリ・オペラ座の"ダンスール・ノーブル"の最後の公演とあって、チケットは販売とほぼ同時に完売!
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デフィレの後は、今回のガラのために創作されたMy'Kal Stromileによる12分の『Word for Word』が踊られた。前回のガラのニコラ・ポール創作『Singularités plurielles』と同様、ジョゼ・マルティネス芸術監督の意向を振付家が受けて、女性ダンサーがポワントで踊るクラシックのテクニックを用いた現代作品である。配役はヴァレンティーヌ・コラサントとオニール八菜、そしてギヨーム・ディオップのエトワール3名と昨シーズン末にプルミエダンスールに任命されたジャック・ガツォット、そしてルーベン・シモン(コリフェ)の5名。なおこの『Word for word』もデフィレと同じく10月4、9、10日にも踊られることになっている。ジョゼ・マルティネスが芸術監督に就任して以来、いろいろとポジティブな新しい試みが積極的に行われているようだ。このバレエのためにクリエイトされた美しいコスチュームはシャネルによるもの。これについては作品とともに、後日詳細を紹介することにしよう。
『Word for Word』が終わると20分の休憩があり、いよいよ開幕公演『ウイリアム・フォーサイス/ヨハン・インゲル』の始まりだ。最初はフォーサイスが2011年にロンドンでシルヴィ・ギエムとニコラ・ル・リッシュに創作し、今回パリ・オペラ座のレパートリー入りをした新バージョンの『Rearray』。ロクサーヌ・ストヤノフ、タケル・コスト、ルー・マルコー= ドゥアールの3名が18分間エネルギーを弾けさせた。この後、いよいよ''待望の''と形容していいだろうフォーサイスの『Blakes Works1』である。2016年にジェイムス・ブレイクのエレクトロミュージックを使い、パリ・オペラ座のためにフォーサイスが創作した7パートで構成された作品で、その後パリ・ガルニエだけでなくシンガポール・上海ツアー、ブリスベンツアーでも踊られている。音楽のノリの良さ、ダンサーたちのシャープなムーヴメントに、観客は前のめりになってステージ上で起きていることに惹きつけられる30分間。踊るダンサーたちの誰もがのびのびと踊り、ステージを楽しんでいることが観客席にも伝わり......この晩はカーテンコールにフォーサイス自身も姿を現したこともあり、会場はおおいに盛り上がった。
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締めくくりの作品はヨハン・インゲルの『Impasse』。これは2020年にオランダのNDTのために創作され、今回、パリ・オペラ座のレパートリー入りをした彼の初作品である。個人とグループの関係の考察がテーマで、15名のダンサーによって踊られた。これまで舞台で個性を発揮できなかったダンサーにとっては、新たな体験の機会となる作品と言っていいだろう。パリ・オペラ座の人気作品のひとつとなっている『Blake Works 1』と同様に、会場からは割れんばかりの大きな拍手がダンサーたちに送られた。
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公演後はグラン・フォワイエをメインスペースとしてセッティングされたテーブルで、750名がスーペを楽しんだ。ガストロノミー界の新しい3名のスターによるメニューで、前菜はレストラン「19 Saint-Roch」(パリ)のピエール・トゥイトゥによる"セロリのロースト、スモークド・ザバイヨン、すかんぽ"、メインはレストラン「Le Doyenné」(サン=ヴラン)のオーストラリア人シェフによる"天然スズキのコンフィ、庭のフェンネルとハーブ"、そしてデザートはパリ初のビーン・トゥ・バー・ショコラティエである「PLAQ」(パリ)による"シナガワハギ風味のアイスクリームを詰めたシュー、チョコレートソース"。23時頃からの食事らしく軽い内容にまとめられた良いメニューだった。サービスもいつになくスピーディに進み、時計が0時を告げデザートが供される頃には地下のディスコに変身した"会員のロトンド"からの音楽が響き始め......。ディナーに参加しない若いダンサーたちがガラをエンジョイする時間の幕開けだ! 当夜そして翌日の彼らのインスタグラムには着飾って仲間と楽しむ写真が多数アップされていた。@chanelofficiel、@rolexと、ガラのメセナたちへの感謝を添えて。
editing: Mariko Omura