パリ・オペラ座、ダンスの新シーズンが華やかに開幕した。

ジョゼ・マルティネスが2022年12月に芸術監督に就任し、長年のバレエファンにとっても、新たにダンスに関心を抱く人たちにとっても魅力を増し続けているパリ・オペラ座バレエ団。2024/25の公演プログラムは、前任者オーレリー・デュポンが去る前に決めていた内容も少し含まれているものの、マルティネス芸術監督のクラシック作品への愛とバレエ団の未来に目を向ける彼の意欲を感じさせる素晴らしいものである。

10月1日パリ・オペラ座バレエ団のシーズン開幕ガラが、Chanel(Grand mécène de l'Opéra national de Paris)とROLEX(Montre de l'Opéra national de Paris)のおおいなる協力を得てオペラ・ガルニエにて開催された。2015年に始まったAROP(l'Association pour le Rayonnement de l'Opéra de Paris/パリ・オペラ座振興会)が主催するダンスのガラの開催は今回が10回目。2018年からガラ公演のメセナとなったシャネルは、いまではパリ・オペラ座バレエ団のグラン・メセナである。ガルニエ宮はガラの晩は優美かつゴージャスに装飾され、セレブリティも大勢招待され......いまや、シーズン開幕ガラはパリの社交界が心待ちにするの秋の話題のイベントのひとつに数えられる。なお、今回は今年5月に亡くなった元パリ・オペラ座総裁(任期1995年~2004年)の功績を称え、彼にオマージュを捧げるガラとなった。

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10月1日、オペラ・ガルニエにてダンスのシーズン開幕ガラが開催され、白でまとめられたフラワーデコレーションと白い衣装をつけたダンサーたちのさまざまな映像のプロジェクションが、来場者たちの目を喜ばせた。photography: Didier Plowy
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この晩、ヴァネッサ・パラディを筆頭にグラン・メセナであるシャネルやパリ・オペラ座と縁のある多彩なセレブリティがガルニエ宮に集まった。シャネルのアンバサダーを務める彼女が選んだのは、2019年秋冬クチュールコレクションのフューシャピンクのドレスだ。photography: Virgile Guinard ©️chanel officiel

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10月9日にフランスで上映が開始される女優セリーヌ・サレットの初監督作『Niki』でニキ・ドゥ・サンファールを演じた女優のシャルロット・ル・ボン。彼女が着ている黒のツイードジャケットは、2024/25クルーズコレクションより。photography: François Goizé ©️chanel officiel

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フランソワ・オゾン監督の映画『Summer of 85』で主役を演じたバンジャマン・ヴォワザン。photography: Virgile Guinard

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シャネルのファンタジー・ツイードのコートを纏った女優のヴィルジニー・ルドワイヤン。photography: Virgile Guinard ©️chanel officiel

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シャネルのアンバサダーのひとりであるシャルロット・カシラギ。2025年春夏プレタコレクションのドレスで。photography: François Goizé ©️chanel officiel

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モード界からはジョヴァンナ・エンゲルバート(写真)やハイダー・アッカーマンなどが。photography: Dominique Maitre

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今年の8月に開催されたパラリンピック開会式の振付けを任されたアレクサンダー・エクマン。12月、彼の創作『Play』がガルニエ宮で再演される。photography: Dominique Maitre

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左からパリ・オペラ座総裁アレクサンダー・ネーフ、『Impasse』を振付けたヨハン・インゲル、文化大臣ラシダ・ダティ、オペラ座バレエ団芸術監督ジョゼ・マルティネス。photography: Virgile Guinard

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ドレスアップした男女が劇場を埋め尽くしたこの宵。ガラ公演は恒例のデフィレからスタートした。生徒とカンパニーの正団員の間のポジションに、今シーズン新たに創設されたジュニア・バレエの団員18名も参加してのデフィレ。2年契約の彼らの中には、もしかすると来年の外部入団試験に受かって来季には団員としてデフィレに出るダンサーもいるのかもしれない。シャネルがメセナとなって以来、女性エトワールのチュチュの胴着部分にはルサージュの刺繍が施されるようになった。今回エトワールとして初デフィレとなったブルーエン・バティストーニのために、新たな1着が制作されたのだろう。なお前シーズンのデフィレがエトワールとして初登場となったオニール八菜の場合は、直前に引退したエトワール、アリス・ルナヴァンから譲られたものを着用するという衣装の継承というエピソードがあった。

誰もが一度は見てみたいと夢見るデフィレはこれまでガラだけのお楽しみだったが、今シーズンは特別に10月4日から始まる開幕公演『ウィリアム・フォーサイス/ヨハン・インガー』の最初の3晩(10月4日、9日、10日)にも行われる。そして10月10日のデフィレで、エトワールのローラ・エケがオペラ座にアデューを告げる。3月に行われた新シーズンのプログラム紹介の際には、来年3月の『オネーギン』でマチュー・ガニオと彼女のアデュー公演が行われるということだったのだが......。なお3月1日に予定されているマチュー・ガニオのアデュー公演は、パリ・オペラ座の"ダンスール・ノーブル"の最後の公演とあって、チケットは販売とほぼ同時に完売!

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ジュニア・バレエの団員も参加して行われたデフィレ。エトワールはマチアス・エイマン、リュドミラ・パリエロ、アマンディーヌ・アルビッソンが不在だった。photography: Juien Benhamou/ OnP
 

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ジョゼ・マルティネス芸術監督とエトワールたちの記念撮影。左から、ユーゴ・マルシャン、ポール・マルク、パク・セウン、マチュー・ガニオ、ブルーエン・バティストーニ、ヴァランティーヌ・コラサント、ドロテ・ジルベール、ジョゼ・マルティネス、ローラ・エケ、ジェルマン・ルーヴェ、オニール八菜、ギヨーム・ディオップ、レオノール・ボラック、アマンディーヌ・アルビッソン、リュドミラ・パリエロ。デフィレには出たがマルク・モローがこの写真には不在である。photography: François Goizé

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デフィレの後は、今回のガラのために創作されたMy'Kal Stromileによる12分の『Word for Word』が踊られた。前回のガラのニコラ・ポール創作『Singularités plurielles』と同様、ジョゼ・マルティネス芸術監督の意向を振付家が受けて、女性ダンサーがポワントで踊るクラシックのテクニックを用いた現代作品である。配役はヴァレンティーヌ・コラサントとオニール八菜、そしてギヨーム・ディオップのエトワール3名と昨シーズン末にプルミエダンスールに任命されたジャック・ガツォット、そしてルーベン・シモン(コリフェ)の5名。なおこの『Word for word』もデフィレと同じく10月4、9、10日にも踊られることになっている。ジョゼ・マルティネスが芸術監督に就任して以来、いろいろとポジティブな新しい試みが積極的に行われているようだ。このバレエのためにクリエイトされた美しいコスチュームはシャネルによるもの。これについては作品とともに、後日詳細を紹介することにしよう。

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My'kal Stromileの創作『Word for Word』より。シャネルによるコスチュームを着たルーベン・シモン(コリフェ )。photography: Agathe Poupeney/ OnP

『Word for Word』が終わると20分の休憩があり、いよいよ開幕公演『ウイリアム・フォーサイス/ヨハン・インゲル』の始まりだ。最初はフォーサイスが2011年にロンドンでシルヴィ・ギエムとニコラ・ル・リッシュに創作し、今回パリ・オペラ座のレパートリー入りをした新バージョンの『Rearray』。ロクサーヌ・ストヤノフ、タケル・コスト、ルー・マルコー= ドゥアールの3名が18分間エネルギーを弾けさせた。この後、いよいよ''待望の''と形容していいだろうフォーサイスの『Blakes Works1』である。2016年にジェイムス・ブレイクのエレクトロミュージックを使い、パリ・オペラ座のためにフォーサイスが創作した7パートで構成された作品で、その後パリ・ガルニエだけでなくシンガポール・上海ツアー、ブリスベンツアーでも踊られている。音楽のノリの良さ、ダンサーたちのシャープなムーヴメントに、観客は前のめりになってステージ上で起きていることに惹きつけられる30分間。踊るダンサーたちの誰もがのびのびと踊り、ステージを楽しんでいることが観客席にも伝わり......この晩はカーテンコールにフォーサイス自身も姿を現したこともあり、会場はおおいに盛り上がった。

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ウイリアム・フォーサイスの『Rearray』より。ロクサーヌ・ストヤノフ。photography: Ann Ray/ OnP

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ウイリアム・フォーサイス『Blake Works1』より。写真左は、今シーズンにパリ・オペラ座バレエ団に外部試験を受けて入団し、早くも活躍しているシャル・ワグマン。右は、見事な身体能力をフォーサイス作品でも発揮しているホヤン・カン(スジェ)。この公演の後には、2022年のコリフェ時代に主役を踊った『マイヤリング』が控えている。photography: Ann Ray/ OnP

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レオノール・ボラック、ジェルマン・ルーヴェ、ユーゴ・マルシャンのエトワール3名を含め、合計24名のダンサーが舞台狭しと踊る『Blake Works1』。photography: Ann Ray/ OnP

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締めくくりの作品はヨハン・インゲルの『Impasse』。これは2020年にオランダのNDTのために創作され、今回、パリ・オペラ座のレパートリー入りをした彼の初作品である。個人とグループの関係の考察がテーマで、15名のダンサーによって踊られた。これまで舞台で個性を発揮できなかったダンサーにとっては、新たな体験の機会となる作品と言っていいだろう。パリ・オペラ座の人気作品のひとつとなっている『Blake Works 1』と同様に、会場からは割れんばかりの大きな拍手がダンサーたちに送られた。

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ヨハン・インガーの『Impasse』より。トリオは左からイダ・ヴィイキンコスキー、マルク・モロー、アンドレア・サーリ。photography: Agathe Poupeney/ OnP

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ショーガール、クイーン、クラウン、妊婦などのやりとりで笑わせるシーンも含まれた作品だ。photography: Agathe Poupeney/ OnP

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公演後はグラン・フォワイエをメインスペースとしてセッティングされたテーブルで、750名がスーペを楽しんだ。ガストロノミー界の新しい3名のスターによるメニューで、前菜はレストラン「19 Saint-Roch」(パリ)のピエール・トゥイトゥによる"セロリのロースト、スモークド・ザバイヨン、すかんぽ"、メインはレストラン「Le Doyenné」(サン=ヴラン)のオーストラリア人シェフによる"天然スズキのコンフィ、庭のフェンネルとハーブ"、そしてデザートはパリ初のビーン・トゥ・バー・ショコラティエである「PLAQ」(パリ)による"シナガワハギ風味のアイスクリームを詰めたシュー、チョコレートソース"。23時頃からの食事らしく軽い内容にまとめられた良いメニューだった。サービスもいつになくスピーディに進み、時計が0時を告げデザートが供される頃には地下のディスコに変身した"会員のロトンド"からの音楽が響き始め......。ディナーに参加しない若いダンサーたちがガラをエンジョイする時間の幕開けだ! 当夜そして翌日の彼らのインスタグラムには着飾って仲間と楽しむ写真が多数アップされていた。@chanelofficiel、@rolexと、ガラのメセナたちへの感謝を添えて。

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会場と同じフラワーデザインをあしらったスーペのためのテーブルセッティング。photography: Mariko Omura

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左: 飲み物はクロワ・カノン2018、Taittingerのコント ド シャンパーニュ ブラン ド ブラン グラン クリュ 2013! 右: 19 St-Rochのシェフ、ピエール・トゥイトゥによる前菜。photography: Mariko Omura

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左: Le Doyennéのジェームス・ヘンリーによる魚料理。 右: パリ2区にマニュファクチャーとショップを構えるショコラティエのPLAQによるデザート。photography: Mariko Omura

editing: Mariko Omura

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