カドリーユからコリフェへ。パリ・オペラ座の昇級コンクールが開催された。

毎年11月、パリ・オペラ座バレエ団のコール・ド・バレエの昇級コンクールが開催される。前シーズンは実験的に、コール・ド・バレエであるが、スジェからプルミエ・ダンスールへの昇級は任命制とされ、イネス・マッキントッシュ、フロラン・メラック、ジャック・ガツォット、トマ・ドキールの4名がシーズン末までに任命されて昇級した。ジョゼ・マルティネスが芸術監督に就任以来、スジェたちもソリストとして配役されることが多く、一般観客もスジェたちをステージで見ていることもあり、この実験的任命制ということについて反論が上がることはなかった。

今年のコンクール開催は11月16日。それに先立つ10月25日、コリフェからスジェへの昇級も実験的に任命制となることが発表された。これはダンサーたち、幹部、組合との話し合いの結果だそうだが、コリフェからスジェへのコンクールが行われないことについてさまざまな理由での反対意見が出ている。確かに以前に比べコリフェが端役ではあるが多く配役されるようになっている。朝のクラスレッスンも毎夜のステージもよく見ている現ジョゼ・マルティネス芸術監督なら任命制も可能なのだろうけれど、彼の今後の後継者においてはどうなのだろうか......。クラシックダンスに優れないが、コンテンポラリー作品で活躍するダンサーへの配慮という見方もある。パリ・オペラ座バレエ団はクラシックバレエのカンパニーなのか。21世紀におけるバレエ団のアイデンティティの確立にも関わることだろう。なお、日刊「Le Figaro」紙は1面を使ってコンクールについての記事を出し、その中でパリ・オペラ座バレエ団の伝統行事であるダンスのデフィレに"退行的である"という理由で参加しなかったダンサーもいたということも明らかにしていた。

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有名なシャガールによる天井の60周年を祝うパリ・ガルニエにてコンクールが開催された。ステージ前左手に設置されたピアノがコンクールの伴奏。ミニランプが置かれているのが審査員たちのテーブルだ。photography: Mariko Omura

今回はスジェからプルミエへの任命制と同じく、あくまでも実験的。パリ・オペラ座における1860年からの伝統であるコンクールの今後について、どのような決定が下されるのか。2025年6月1日までに、公平とダイバーシティを保証する昇級形式が正式発表されるそうだから、それを待つしかないだろう。

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11月16日に開催されたパリ・オペラ座バレエ団のコール・ド・バレエの昇級コンクールの結果は次の通りである。コリフェの空席は男性5名、女性6名となかなかの"広き門"。現在カドリーユは男性26名、女性30名(注:この中には今年の入団者で過去にオペラ座の契約ダンサー経験がないことからコンクール参加資格のないカドリーユも含まれている)である。コンクール参加したのは男性が12名、女性が21名。なお形式は課題曲とオペラ座のレパートリーの中からダンサー自身が選んだ自由曲を踊るという通常通りの進行だった。

男性昇級者5名/課題曲:ヴィクトール・グゾヴォスキー『グラン・パ・クラシック』からヴァリアッション
1.レミ・サンジェ=ガスネール(自由曲/ ジャン=ギヨーム・バール『泉(ラ・スルス)』から第2幕ジェミルのヴァリアッション)
2.マックス・ダーリントン(自由曲/ルドルフ・ヌレエフ『マンフレッド』)
3.マイカ・レヴィンヌ (自由曲/ ハロルド・ランダー『エチュード』のマズルカ)
4.ミロ・アヴェック(自由曲/ ハロルド・ランダー『エチュード』のマズルカ)
5.ケイタ・ベラリ(自由曲/ピエール・ラコット『ラ・シルフィード』ジェームズのヴァリアッション)

レミ・サンジェ=ガスネール(Rémi SINGER-GASSNER)

契約団員を1年経験し、2023年の外部入団試験の結果1位で入団した。同年の公演『ジェローム・ロビンス』の『The Concert』で臆病な学生役を好演した彼の2度目のコンクール。自由曲ではひとつひとつの動きが正確で美しく決まっていて、群を抜く素晴らしいパフォーマンスを見せた。課題曲では跳躍もマネージュも難なくこなし、美しいステージだった。これほどのダンサーがカドリーユに隠れていたとは!という驚き! 今後どのように配役されるのか興味深い。

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レミ・サンジェ=ガスネール (c)Maria-Helena Buckley/OnP.

マックス・ダーリントン( Max DARLINGTON)

2012年にパリ・オペラ座バレエ学校に入り、2019年に入団。長身のプリンス体型のダンサーである。課題曲ではトップバッターだったせいか緊張が感じられ本領発揮に至れなかったようだ。自由曲は『マンフレッド』というカドリーユのダンサーにはなかなかハードルの高い作品を選んだが、この作品の素晴らしい踊り手であるマチアス・エイマンが生み出す強い感動を思い出させる好演だった。

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マックス・ダーリントン (c)_Maria-Helena_Buckley/OnP.

マイカ・レヴィンヌ(Micah Levine)

アメリカ出身の彼は、ジョゼ・マルティネスが芸術監督就任前に審査員として参加した2022年度ローザンヌ国際バレエコンクールの決勝進出20名のひとり。オペラ座バレエ学校の第1ディヴィジョンで研修後、2023年外部入団試験の結果、レミ・サンジェ=ガスネールそして昨年コリフェに上がったロレンツォ・レッリとともに入団している。今回が初のコンクール。自由曲では正確なテクニックとともに、のびのびと空間を使い余裕ある踊りだった。技術面に加えて、細身で長身のマイカ、ロレンツォ、レミという2023年度入団トリオのこれからはとても楽しみだ。

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マイカ・レヴィンヌ (c)Maria-Helena Buckley/OnP.

ミロ・アヴェック(Milo AVEQUE)

2010年にパリ・オペラ座バレエ学校に入り、2017年に入団。今回のコンクール参加者の中でもっとも経験を積んでいる彼らしく、課題曲は余裕を感じさせた。学校の卒業公演では『ライモンダ』の主役ジャン・ドゥ・ブリエンヌを踊ったが、入団後はコンテンポラリー作品に配役されることが多かった彼。来年の『オネーギン』ではレンスキー役に抜擢されている。今後どのように成長してゆくのかを楽しみにしよう。

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ミロ・アヴェック (c)Maria-Helena Buckley/OnP.

ケイタ・ベラリ(Keita BELLALI)

2018年にパリ・オペラ座バレエ団学校に入り、2020年に入団。2021年の『ドン・キホーテ』でガマッシュ役をコミカルに演じた彼は、11月16日に公演が終了した『マイヤリング』では4人の将校のひとりであり、また年老いた皇帝役にも配役されて芸達者ぶりを披露した。課題曲では空間をうまく使って目に快適なパフォーマンスを見せ、自由曲は彼の持ち味である軽やかさとつま先の美しさを存分に発揮できる作品を選び、コンクールといえど楽しんで踊っている様子が印象的だった。

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ケイタ・ベラリ (c)_Maria-Helena Buckley/OnP.

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女性昇級者6名/課題曲:ルドルフ・ヌレエフ『ライモンダ』第1幕Pizzicati、ライモンダのヴァリアッション)
1. アポリーヌ・アンクティル(自由曲/ モーリス・ベジャール『バクチ』)
2. クレール・テセール(自由曲/ ローラン・プティ『ノートル・ダム・ドゥ・パリ』からエスメラレルダのヴァリアション)
3. ルチアナ・サジオロ(自由曲/セルジュ・リファール『白の組曲』からセレナーデ)
4. ディアンヌ・アデラック(自由曲/ ジェローム・ロビンス『four seasons』より秋のヴァリアション)
5. 山本小春(自由曲/マニュエル・ルグリ『ドニゼッティ』)
6. ジュリア・コガン(自由曲/ ジェローム・ロビンス『Dances at the gathering』からグリーン・ダンスースのヴァリアッション)

アポリーヌ・アンクティル( Apolline ANQUETIL)

2012年にパリ・オペラ座バレエ学校に入り、2019年に入団。昨年末はイリ・キリアンの『Gods and Dogs』、最近ではヨハン・インゲルの『Impasse』での活躍が見られた。2年先に入団した姉ヴィクトワールはクラシック作品に配役されるが、彼女はコンテンポラリー作品を多く踊っている。とはいえ、課題曲ではヌレエフ作品のステップを軽やかに踏み、またステージ経験の豊かさも感じられた。そして自由曲では真骨頂とばかり、『バクチ』では体内から弾け出るエネルギーを高い音楽性にのせて説得力のあるパフォーマンスを見せた。

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アポリーヌ・アンクティル (c)Maria-Helena Buckley/OnP.

クレール・テセール( Claire TEISSEYRE)

2024年に入団したダンサーだ。パリのコンセルヴァトワールでダンスを学び数々のコンクールでの受賞経験がある。ボルドー国立オペラ座バレエ団とプラハ国立バレエ団でソリストとして踊っていた経歴の持ち主で、契約団員を1年経て、今年入団。自由曲では芸術性と官能を秘めたエスメラルダを踊り、課題曲では見せられなかった自身のダンサーとしての個性をアピールした。

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クレール・テセール (c)Maria-Helena Buckley/OnP.

ルチアナ・サジオロ( Luciana SAGIORO )

2023年入団。ブラジル出身で、マイカ・レヴィンヌ同様に2022年度ローザンヌ国際バレエコンクールに参加し、彼女は3位とウェブ観客賞を受賞。2月の初来日した彼女の魅力は、POPで現在視聴できる『Danser à Tokyo Les secrets d'une tournée』で触れることができる。今回の初のコンクールでは課題曲は驚くほど丁寧で正確なテクニックを披露し、自由曲は優れたテクニック、的確な間のとり方を利かせたリズム感、舞台空間の上手な使い方などエトワールへ邁進してゆく姿を予感させた。

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ルチアナ・サジオロ (c)Maria-Helena Buckley/OnP.

ディアーヌ・アデラック( Diane ADELLACH )

2016年にパリ・オペラ座バレエ学校に入り、2022年に入団。10〜11月の公演『マイヤリング』では第2幕のタヴェルナでは長キセルを持った娼婦役に配役されていた。華奢で愛らしい風貌のいかにもバレリーナといった彼女。課題曲では存在感を示し、確かなテクニックで軽やかに舞った自由曲では優美さ、清楚な美しさが印象的だった。

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ディアーヌ・アデラック (c)Maria-Helena Buckley/OnP.

山本小春(Koharu YAMAMOTO)

2021年パリ・オペラ座バレエ学校に入り、2022年入団。ピナ・バウシュの『青髭』でオーディションの結果、第2配役で彼女が主役に抜擢されたことは記憶に新しい。自由曲では短いパフォーマンスだが、しっかりとしたテクニックとスピード感を生かして踊り、ステージを楽しんでいた。小柄ではあるが、美脚の持ち主である。その強みも十分に発揮されていた。

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山本小春 (c)Maria-Helena Buckley/OnP.

ジュリア・コガン( Julia COGAN )

2002年にパリ・オペラ座バレエ学校に入り、2009年入団。同年、AROP若い希望賞を受賞している。彼女のキャリアは長く、プレルジョカージュの作品も踊れば、ヌレエフ作品もとステージに立った作品は幅広く多い。コリフェに上がり、ドゥミ・ソリストとして踊れるチャンスに恵まれることだろう。

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ジュリア・コガン (c)Maria-Helena Buckley/OnP.

editing: Mariko Omura

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