大阪・名古屋・東京で、マチュー・ガニオが柚香光と新作デュオを踊る。

パリ・オペラ座バレエ団エトワールのマチュー・ガニオは2025年3月1日に、オペラ・ガルニエで『オネーギン』にてアデュー公演を行う。これについては次回に詳細を語ってもらうことにし、まずはそれに先駆けて1月3日から7日にかけて、大阪・名古屋・東京の3都市で開催される『マチュー・ガニオ スペシャル・ガラ ニューイヤー・コンサート』について話してもらおう。2001年のカンパニー入団以来、彼を応援している日本のファンを大切に思う彼らしい一種のプレ・アデューとも言えるこの公演。通常のガラ公演と趣がいささか異なる。第1部は彼を含む6名のダンサーによるガラ・コンサート。第2部は2024年5月に宝塚歌劇団を退団した元花組トップスターの柚香光と彼が踊る新作デュオと柚香光のソロ、という構成だ。

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マチュー・ガニオ。2001年にパリ・オペラ座バレエ団に入団し、04年5月に『ドン・キホーテ』を踊ってエトワールに任命された。©James Bort
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柚香光。2009年に宝塚歌劇団95期⽣として⼊団し、19年11⽉に花組トップスター就任。24年5⽉、宝塚歌劇団を退団。

ー まず、このユニークなプロジェクトの誕生のきっかけを語ってください。

妹マリーヌと一緒に、能の梅若玄祥との『美の饗宴2015』という日本での公演に僕が参加したことを覚えていますか?  ふたつの異なる世界を結びつけ、日頃我々が見せているダンスのガラの枠を超えた興味深いものでしたね。このプロジェクトと同じ企画者&企画協力者が、今回もこのようにハイブリッドというかシナジー効果が生まれる提案を僕にしてきたことが始まりなんです。何度も日本に行っている僕だけれど、この時まで実は宝塚歌劇団の存在も、またレイ・ユズカの名前も知りませんでした。彼女と踊る、ということで当然どんな仕事をする人なのか情報を集めますね。そして、同僚のオニール八菜に宝塚歌劇団を知ってるか?と聞いてもみました。そうしたら、彼女の友だちもそこに所属しているということで、いろいろと宝塚について教えてもらえたんです。宝塚のスターと僕が踊る企画があることを八菜に話し、でもお互いに具体的な人名を挙げずに会話を続けていて......しばらくして、この公演の件で日本からの取材を受けた時に、彼女が言っていた宝塚の友だちというのはレイのことだと知ったのです。彼女も八菜が通っていた岸辺バレエスタジオでダンスを習っていたんですね。こうした繋がりによって、レイと僕の距離が少し縮まった感じがありました。チケットの先行販売状況がとても好調だと聞かされ、レイはすごいスターなのだということがよくわかりました。能や相撲はフランスでも知られていますが、僕の周りでそれまで宝塚について語る人がいなかったということは驚きです。日本の何か大切なひとつを僕は逃していたのかなって......。もう彼女は見られないにしても、宝塚歌劇団の公演を観に行ってみたくなりました。

ー 公演のハイライトとなる柚香光とあなたが踊る新作デュエットは、ジョルジオ・マンチーニが振り付けることが発表されました。

時間の制約のある中での創作なので、この作品を振付けるのがジョルジオに決まった時はとてもうれしかった。というのも、彼とは過去に『トリスタンとイゾルデ』や『マリア・カラス 踊る歌声』で一緒に仕事をしているので、僕の限界も弱点も彼は知っていますから。振付家によっては、自分で準備してきた作品を持ってきて、これだ!というタイプの人もいるけど、ジョルジオはこちらの言うことに常に耳を傾けてくれる。とてもオープンマインドで、向かい合う相手に関心を持ち、リスペクトをし、人間関係を大切にする人です。ユーモアにもあふれていて......。僕とレイがどのように機能するかは、彼にもギリギリまでわかりません。彼が予定していることや、思うことを諦めねばならないかもしれない。今回の企画の創作をするのにふさわしいクオリティを備えている振付家と言えます。僕も彼女も駆け出しの新人ではなく、それぞれに築いたキャリアがあり、イメージがあります。そして観客がステージで期待しているものがあります。だから、新しいことで観客を驚かせるようなものでありつつも、同時にそれぞれのレベル、持ち味がそこに見いだせるものではなくてはなりません。いかに両者を結びつけるのか? これが彼にとって、仕事の大きなポイントとなるでしょう。これは僕にとって、とても大切なパリでのアデュー公演の直前の舞台となります。この公演の企画がまだなかった今年2月の来日公演の時は、これが最後の日本と思っていました。先のことはわからないけれど、毎回の訪日が僕にはとても貴重なんです。

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柚香光とマチュー・ガニオというふたりの麗人が踊る愛の物語に興味をそそられずにはいられない。

ー 男役の大スターだった柚香光と男性のあなたが踊る。なかなか興味深いデュオが生まれそうですね。

そう。確かにふたりの関係性は複雑ですね。このデュオを受け入れたことによって僕たちはいつもの世界からそれぞれ抜け出すことになるのだけれど、何かとても興味深いことへと広がっていくはずです。僕は最近パリ・オペラ座で『マイヤリング』の公演を終えたのだけれど、彼女も僕と同じくルドルフ役を踊っているというのは、おもしろい驚きでした。女性なのか男性なのか、といった曖昧さを遊ぶこともできるでしょう。アンドロジナスな面は彼女のストロングポイントです。いまの時代に沿ったものを語れるような気がします。女性か男性かということはどうでもよく、愛し合うふたりの存在という......そう、僕たちが踊るデュエットは、とてもポジティブな愛の物語なんです。悲劇的なドラマではなく、情熱的でポジティブな愛の物語です。

ー 柚香光について色々知ってゆき、どのような印象を受けましたか。

ダンスの世界は同じではないけれど、彼女ができることに僕は感嘆しています。踊りながら歌うなんて、僕にはとてもできません。すごい才能ですね。こうした人とステージを分かち合い、発見をするということにとても期待があります。先にも話しましたけど、安全圏から出て危険に挑む的なおもしろさも感じています。

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上野水香とアマンディーヌ・アルビッソン、特別なパートナーのふたりと。

最近発表された情報によると、この新作デュエットはクラシックバレエとショーダンスを掛け合わせた作品とのこと。タイトルは未定だがジョルジオ・マンチーニの創作ノートは次のとおりだ。

「異なる世界から来たふたりの魂の結びつきを探求するデュエットである。柚香光とマチュー・ガニオはパーソナリティの挑戦でまず対峙し、次に好奇心と傷つきやすさで距離を縮め、最後には文化的、個人的なあらゆる障害を乗り越えてふたりを結びつける愛に身を委ねる」

早くその世界に触れてみたくなるこのふたりのデュオは公演の第2部で、第1部には新年にふさわしいクラシック作品やコンテンポラリー作品が華やかに踊られる。マチュー・ガニオのパートナーは上野水香、そしてアマンディーヌ・アルビッソンである。彼が過去に組んだ多くのパートナーの中でも、特別な関係にあるふたりについて、最後にマチューに語ってもらった。

「水香と僕が最初に一緒のステージに立ったのはローラン・プティの『くるみ割り人形』の日本公演でのことなのだけど、僕は5歳だったのでその時のことは記憶にはありません。その後、彼女とは『眠れる森の美女』と『白鳥の湖』をどちらも全幕で、そして僕が初めて参加した2009年の世界バレエ・フェスティバルで『ジゼル』の第2幕からのパ・ド・ドゥを踊っています。彼女は日本のクラシックバレエ界において重要な存在のひとりです。多くのクラシック作品の主役を踊っているだけでなく、モーリス・ベジャールの『ボレロ』も踊れば、ローラン・プティ作品も、とレパートリーがとても幅広い。日本では有名人のようだけれど、飾り気なしに僕には常に親切に接してくれて......。著名人でありながらも、自分自身であり続けています。その後ろにダンスのものすごい経験を持っているとは感じさせないとても謙虚な女性です。いまも踊り続けていますね。彼女がキャリアを積み始めた時代の日本では、継続するということは難しかったのではないかと想像しますが、彼女はしっかりと経験を重ねて、成功して......とても素晴らしい。この公演ではローラン・プティの『ランデヴー』を一緒に踊ることにしました。彼女はプティの作品を多数踊っているし、僕も子どもの頃から知っているプティのカンパニーにいたルイジ・ボニーノとも仕事をしていますから。彼女をイメージしやすいのでこの作品にしました。でも、意外や、彼女はこの作品を踊ったことがないというので驚きました。実は彼女の冠公演『上野水香 オン・ステージ』に参加の声をかけてもらったのだけれど、オペラ座での仕事が詰まっている時期で当時の芸術監督からパリを離れるのは難しいと言われて日本に行かれなかったんです。今回一緒にプティ作品を踊ることで、彼女とひとつの締めくくりができるように思っています」

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上野水香。国内外の数々の名演でバレエダンサーとして揺るぎない地位を確立。現在は東京バレエ団のゲスト・プリンシパルとして活躍を続ける。2023年秋の褒章で紫綬褒章を受章。 ©KAYOKO ASAI
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2007年に東京で踊られた『白鳥の湖』より。©Hidemi Seto

「アマンディーヌも僕もマルセイユ生まれ。同郷という繋がりがあり、また僕の両親がダンサーで、彼女の両親もダンサーとオペラ歌手というように育った環境も似ています。僕はオペラ座バレエ学校時代の彼女のプティ・ペールなんですよ。といっても、彼女はそれをわかるようには僕に伝えてくれなかった。だから、アマンディーヌがある時に"プティ・ペールはマチュー・ガニオ"と言ったことを人づてに聞いて、それを知ったんです。彼女とは今回アンジュラン・プレルジョカージュの『ル・パルク』からのパ・ド・ドゥを踊ります。これはとても美しいパ・ド・ドゥで、踊るのも好きな作品。日本でいつか踊りたいとずっと願っていました。これまで踊れる機会に恵まれなかったので、今回、ようやく!という喜びがあります。日本の観客の方々にも気に入ってもらえるでしょう。アマンディーヌとはパリ・オペラ座でもう一緒に踊るチャンスがありません。だから日本でこうしてパ・ド・ドゥを踊ることで、彼女にさようならをすることになります」

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アマンディーヌ・アルビッソン。パリ・オペラ座バレエ学校を経て、2006年にパリ・オペラ座バレエ団入団。14年『オネーギン』でタチヤーナを踊ってエトワールに任命された。©Matthew Brooks
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『ル・パルク』より。photography: D.R.
「マチュー・ガニオ スペシャル・ガラ ニューイヤー・コンサート」
<出演者>
マチュー・ガニオ(パリ・オペラ座バレエ団 エトワール)
柚香光(元宝塚歌劇団花組トップスター)
アマンディーヌ・アルビッソン(パリ・オペラ座バレエ団 エトワール)
ジャコポ・ティッシ(オランダ国立バレエ団 プリンシパル)
シルヴィア・サン=マルタン(パリ・オペラ座バレエ団 プルミエール・ダンスーズ)
パブロ・レガサ (パリ・オペラ座バレエ団 プルミエ・ダンスール)
<スペシャル・ゲスト>
上野水香(東京バレエ団 ゲスト・プリンシパル)

【大阪公演】
会場:フェスティバルホール
日時:2025年1月3日(金)14:00
https://kyodo-osaka.co.jp/search/detail/9651

【名古屋公演】
会場:Niterra 日本特殊陶業市民会館フォレストホール
日時:2025年1月6日(月)14:00
https://kyodo-osaka.co.jp/search/detail/9652

【東京公演】
会場:NHKホール
日時: 2025年1月7日(火)18:00
https://kyodo-osaka.co.jp/search/detail/9653

チケット一般発売日
11月30日(土)10:00〜
料金:SS席 ¥22,000、S席 ¥18,000、A席 ¥14,000、B席 ¥10,000、C席 ¥8,000、BOX席 ¥25,000(大阪公演のみ)

editing: Mariko Omura

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