THE HIRAMATSU京都
京都市/京都府
京町家の伝統と現代性を融合、ひらまつの都市型ホテル。
ホテルへBon Voyage 2020.07.08
2020年3月18日、京都の中心である洛中室町通に、「ザ・ひらまつ ホテルズ アンド リゾーツ」として初となる都市型のスモールラグジュアリーホテル「THE HIRAMATSU 京都」が開業しました。これまでのホテルは、いずれも素晴らしい自然の織りなすロケーションに佇むリゾートホテルでしたが、ひらまつは京都で都市型ホテルのデビューを飾ったことになります。
京都の町家らしい格子戸が美しく蘇り、ゲストはここから伝統文化の特別な世界に誘われる。
今回のホテルは京町家を利用したクラシカルな趣の宿。京町家の伝統的な造りは、玄関の間口が狭く縦長の構造で、奥へ奥へと続くことから“うなぎの寝床”と呼ばれることもあります。昔の裕福な呉服問屋の大店でさえ、間口はあまり広くなく奥行きのある造りでした。この独特の造りの理由は諸説ありますが、なるほど、と思わせるものがありました。桓武天皇が京都に都を移し、「条坊制」と呼ばれる中国の都・長安の都市プランを模して碁盤の目の都市を造りました。街は徐々に繁栄して人口密度が高まり、狭い空間を活用するために、また家の間口の広さによって税金が決められたことから間口を狭くして税金を安く抑えるために、当時の人々の智慧が生かされ、京都の家並みとなったようです。
玄関を入りまずはチェックインのために通されるラウンジ。情緒的な竹庭を通して蔵を望む。
玄関からラウンジや客室へと向かう通路「走り庭」。京町家には庭の呼び名がたくさんあり、表から奥へと続く細長い土間は「通り庭」と呼ばれ、風通しや採光の場所を指す。また店の間は「見世庭」、玄関は「玄関庭」、台所から奥へ続くのは「坪庭」、蔵に続くのは「走り庭」と呼ぶのだそう。
さて、話を戻しましょう。「THE HIRAMATSU 京都」は、前述のように伝統ある京町家に高い文化的価値を見出し、町家ならではの温もりのある構造を利用して造られました。残された糸屋格子と呼ばれる表格子の趣ある姿にはじまり、京都の人々が暮らしてきた伝統的建築様式の価値を、未来に受け継いでいこうというのです。
さらにお客様を大切に思う心から、「京都をしつらえる」をコンセプトに掲げ、京都ならではの美学「はんなり(洗練されて上質で華やか)」を表現した、新たに都市型ホテルが生まれました。窓からの景色よりも“邸内を味わう”ことで、おこもりスタイルの滞在を満喫するのが町家流です。雅な発展を遂げた京都の町に想いを廻らし、居心地のよさを設えた古くて新しい伝統家屋に滞在できるワクワク感は、まるで京都に通い詰める“通”が自分の隠れ家を入手したような優越感にも浸れました。
「ザ・ひらまつ スイート」のエントランススペース。各部屋の鉛の壁に合わせ、ダークなスペースに映える弁柄色のアンティーク家具が置かれている。この壁は「経年美化」(時の流れで変わる風化や変化)を楽しむ内装。
「ざ・ひらまつ スイート」の内装。落ち着いた趣に贅沢を感じさせる内装の、104.4㎡のスイートルーム。
ホテルは地上5階建て、客室は全29室揃い、たっぷりとスペースをとった贅沢な客室は54㎡以上。当初「はんなり」を表現したと聞いて、言葉は知っていても、その意味はクリアではありませんでした。京都人なら直感的に感じるのでしょうが、今回の滞在で、「華なり」(はんなり)と書くことも初めて知り、デザインが異なる客室のディテールにも現代と伝統が「はんなり」と表現されていることを感じられたような気がします。
客室フロアの広い廊下からは竹庭や蔵が見渡せて彩光がたっぷり。反対側は吹き抜けになっていて下の階が見える。
「蔵」と呼ばれる蔵造りの空間。現在はラウンジとして使われているが、ミーティングやパーティなど貸し切りも可能。
館内にレストランは2か所。京懐石の割烹「いずみ」は全12席。京都の料亭で研鑽を積んだ料理長・小泉壮登氏が、洗練された京料理の旬を提供してくれます。もういっぽうはメインダイニングのリストランテ「ラ・ルーチェ」です。ミステリアスなライティングにより不思議な光を放つ竹林を見ながら、28席の広々とした店内でいただくイタリア料理は、ひらまつ各店で研鑽を積んだ料理長・筒井崇海氏が、見た目に美しく、食しておいしい絶品の料理を提供しています。食にうるさいゲストが多いだけに、両レストランともに、クリエイティブでひらまつらしい独自の料理が提供されています。(K.S)
イタリア料理の「リストランテ ラ・ルーチェ」。2階まで吹き抜けの梁は当時のものをそのまま残している。竹の庭に面した情緒あふれる空間。
「リストランテ ラ・ルーチェ」の季節感あふれるアンティパスト。食材の味を大切にするイタリア料理と和の感性が融合した盛り付けが美しい。
京懐石の「割烹 いずみ」。長いカウンターは欅の一枚板仕上げであるほか、上質な木や土、紙など無垢の素材が際立つ。目の前には珍しい盆栽仕様の大きな松が印象的な「坪庭」が。
京都府京都市中京区役行者町361
tel:075-211-1751
客室数:全29室
室料:¥30,500(1室2名) ※朝食付き、税サ込み、宿泊税別
施設:レストラン(割烹・イタリア料理)、前庭、中庭、ラウンジ、ほか
アクセス:京都駅からタクシーで15分、市営地下鉄烏丸御池から徒歩3分。
www.hiramatsuhotels.com/kyoto
※この記事に記載している価格は、標準税率10%の税込価格です。
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Kyoko Sekine
ホテルジャーナリスト
スイス山岳地での観光局勤務、その後の仏語通訳を経て94年から現職。世界のホテルや旅館の「環境問題、癒し、もてなし」を主題に現場取材を貫く。スクープも多々、雑誌、新聞、ウェブを中心に連載多数。ホテルのコンサルタント、アドバイザーも。著書多数。
http://www.kyokosekine.com