ホテルは「衣・食・住・遊」の玉手箱。
今の私があるのはこのホテルのお陰・・・!
「Boutique Hotel Belvedere Grindelwald(ブティックホテル・ベルベデーレ)」
グリンデルワルト/スイス
ホテルへBon Voyage 2010.01.08
94年にスタートさせた'ホテルジャーナリスト'としての仕事は、スイスの山岳リゾート地グリンデルワルトで観光案内所の仕事に就いたときに、アパート代わりにと部屋を安価で提供してくれた4ツ星ホテル「ベルベデーレ」に住んだことから始まりました。ベルベデーレは村でも人気の高級ホテルで、1907年創業の老舗として歴史を刻んでいます。
「ホテル・ベルベデーレ」とアルプスの名峰
遙か昔の出来事ですが、このときに経験したホテルでの暮らしが、私の人生に大きな影響を与えてくれました。部屋の窓を開けると、目の前にはスイス・アルプスの名峰三山(アイガー、メンヒ、ユングフラウという4000m級の山々)がそびえ立ち、朝に夕に、せまりくる美しい姿は感動的でした。刻一刻と色を変える山の表情は絵葉書よりも美しい。毎日、山を見上げては自然の素晴らしさにため息をつき、山々にエネルギーをもらいながら過ごした日々をしっかりと覚えています。
ホテルの外観
また4ツ星という高級ホテルであったことから、ホテルにはセレブリティの顧客も多く訪れ、毎年のリピーターは夏と冬のハイシーズンともなると70%の割合で部屋を占領していました。なんたってクリスマス休暇と夏休みには1ヶ月もの間、まるで別荘代わりに滞在する上顧客がたくさん揃っていたのです。
帰国する際には、それぞれが次のバカンスのためにお気に入りの部屋の予約を済ませていくという、絵に描いたような顧客たちでした。
広々としたロビーラウンジ。ここからはアルプスの名峰が並ぶ最高の景色が見える
どちらもスイスらしく清潔で快適な客室
(左)屋外プールのある中庭。奥に見える白い建物は屋内プール(右)広々とした屋内プール
なかでも、今もって私の脳裏から離れないゲストの中に、毎年夏にドイツから来るブルジョアのご夫妻のことがあります。7月終わりになると2台の車でやってきて1ヶ月を過ごすのですが、1台には自分たちが、もう1台は衣装やホテル生活に必要な身の回り品を積み込み、専属ドライバーなのか、お供に従えてやってきて荷物を下ろすと夫婦を残して帰っていきました。彼らのホテル生活は判で押したように毎日決まっていました。朝8時に朝食、その後、村を散策。そして昼は村のレストランへ。午後はホテルに戻ってプールサイドで本を読んだり昼寝をしたり。ディナータイムには毎日違う極上の衣装に身を包み、毎晩二人で新しいシャンペン・ボトルを開けていたのです。もちろん、テーブルは最高の決まった席でした。そんな生活が1ヶ月・・・も続くのですから、横目で見ている私には驚きばかり。ホールのスタッフに何かを頼むと、テーブルの下でそっと彼らに手渡したチップも、私は見逃しませんでした。
ホテルは『衣・食・住・遊』のすべてが詰まった玉手箱のよう。悲しいことも、幸せなことも、満ち足りた情景も・・・あります。私は幸運にもホテルに暮らしながら、ホテルマンの苦労や喜び、つらい重労働に汗を流す出稼ぎ労働者、そして、スイスでの外国人としての暮らしの大変さも含め、歴史や伝統に彩られた「ホテル」を巡り繰り広げられる表裏一体の興味深さを毎日肌で感じていたのです。『ホテル文化を伝える仕事に・・・!』という決心は、そんな生活体験から自然に生まれてきたものでした。
「ホテル・ベルベデーレ」はファミリィホテルとしてすでに100年以上の長い歴史があります。現在のオーナーは3代目、もちろん家族で運営しています。毎年、リニューアルが繰り返し行われ、古い趣の伝統ホテルは、気が付いたらスタイリッシュな雰囲気の'ブティック・ホテル'へと生まれ変わっています。料理の美味しさも知られ、グルメなホテルであることは今も変わっていません。
メインダイニングルームから見えるアルプスの山々
何度も言いますが、このホテルに泊まって感動するのは、谷を挟んで目の前にグッと迫り来るアイガーの北壁でしょう。ここからのアングルは村一番の絶景といっても過言ではありません。ユングフラウ・ヨッホの頂上を目指して登る真っ赤な登山電車を見ながらテラスで山を見ていると、時間を忘れ、スイスらしい情景に心癒されます。(K.S)
Boutique Hotel Belvedere Grindelwald
(ブティックホテル・ベルベデーレ)
TEL:+41 (0) 33 - 888 99 99 FAX:+41-33-853-5323
www.belvedere-grindelwald.ch
客室数/55室
料金/季節により大きく異なるのでその都度要問い合わせ。
施設:ロビーラウンジ、バー、室内プール、屋外プール、ダイニングルーム、
サウナ、キッズルーム、チーズフォンデュ・ルーム、他
アクセス:チューリヒ飛行場からインターラーケンまで特急で約3時間。
インターラーケンより終点グリンデルワルトまで約50分。
日本での問合せ先/各旅行代理店へ、または直接現地へ

Kyoko Sekine
ホテルジャーナリスト
スイス山岳地での観光局勤務、その後の仏語通訳を経て94年から現職。世界のホテルや旅館の「環境問題、癒し、もてなし」を主題に現場取材を貫く。スクープも多々、雑誌、新聞、ウェブを中心に連載多数。ホテルのコンサルタント、アドバイザーも。著書多数。
http://www.kyokosekine.com