パリで初めての'愛の宿'は
キッチュでオープンなホテルでした。
「Hotel Amour Paris(ホテル・アムール・パリ)」パリ/フランス
ホテルへBon Voyage 2009.06.19
ラブホテルというのは、'日本通'の外国人に言わせると「とても不思議な日本の文化」と多くの人がいいます。とはいえ、その日本でさえつい10年ほど前までは、この種のホテルは充分に'日陰の身'だったような記憶がありますが、現代では'ブティックホテル'とジャンルも名前も変え、存在感さえ社会に認知されているような印象を受けます。そんな中、この不思議な日本の文化が海を渡りました。
パリ9区。特別なものもない普通の下町の一角に、パリでは初めてといわれるラブ・アフェア歓迎のホテルが誕生しました。その名も「ホテル・アムール」です。訳すまでもありませんが、パリ流「愛のホテル」であります。誕生は2006年12月のことでした。ところが全20室のこの小さなホテルは、リーズナブルな料金設定や明快なコンセプトが受けて、オープン以来ずっとまずまずの人気を保っているといいます。中には、男性ビジネスマンの長逗留まで現れて、ますます愛のカップルは入りにくいかと思いきや、そこはパリ。二人で手を繋いでチェックインするカップルは堂々としたものでした。
それぞれの客室はデザインが違い、エレガントなものから遊び風まで様々。
全室ともにデザインはすべて違っています。室内や廊下には、写真家テリー・リチャードソン氏の思わず視線を外してしまうような強烈な愛欲写真が飾られていたり、また、エレガントな雰囲気の部屋、楽しいおもちゃの部屋、妖艶な部屋など、いろいろなタイプが揃っています。ただ、コンセプトは'ラブホ'ですから、日本のように時間貸し(ただし3時間から)もあるそうですよ。アーティストである3人のオーナーは、「日本を訪れラブホテルを知っていたく気に入り、何度か通って勉強した」と言うではありませんか。そのオーナーの一人は、パリの個性派として知られる高級ホテル「ホテル・コスト」のオーナー様でもいらっしゃるとか。
(左)とんでもミッキー'が歓迎するレセプション(右)妖艶な色遣いに驚かされる客室階の廊下
ホテル自体も利用者も、日本との違いは、やけにあっけらかんとした明るさと、利用者が隠れたりしないことでしょうか。何しろ、1階のレストランは昼時になると近くのOLやビジネスマンで混雑し、そのレストランのキャッシャーがホテルのチェックイン・カウンターでもありますから、ホテル利用者は、レストラン内のお客さんたちにチラチラと見られながら、鍵をもらって客室へとエレベーターに乗っていくのですから。
中庭のオープンカフェ。ランチには近所のOLやアーティストたちでで賑わう。
1階のカフェ・レストラン。オープンな雰囲気の中、リーズナブルで美味しいのが人気。
もうひとつの個性は「パリ」へのこだわりです。1階のレストランには、「フランス料理ではなくパリ料理を提供」と、あくまでも'パリ'を主張しています。また、ホテル案内には「アムールに無いものリスト」があり、「バスローブ、レセプション、カーアテンダント、ベルボーイ、ミニバー、プール、ピアニスト、スパ、室内TV、聖書...」など、ずらりと揃っていないものがリストアップされています。つまり、無い物だらけのアムールなのですね。ただスタッフが言うには、「ここには愛が溢れているから何もいらない」とのこと。いかにもパリらしいですよね。(K.S)
HOTEL AMOUR(ホテル・アムール)
8,rue Navarin,75009 Paris France
☏ +33-1-48-78-31-80
http://www.hotelamourparis.fr/
客室料金/105ユーロ~250ユーロ、
施設/レストラン「アムール」、中庭のオープン・カフェ、小さなライブラリィ
アクセス/メトロ・サンジョルジュ駅から徒歩5分。

Kyoko Sekine
ホテルジャーナリスト
スイス山岳地での観光局勤務、その後の仏語通訳を経て94年から現職。世界のホテルや旅館の「環境問題、癒し、もてなし」を主題に現場取材を貫く。スクープも多々、雑誌、新聞、ウェブを中心に連載多数。ホテルのコンサルタント、アドバイザーも。著書多数。
http://www.kyokosekine.com