マタドール(闘牛士)が集った伝説のバー、
タイムスリップしそうなアンティーク空間
「Grand Hotel Nord - Pinus(グランドホテル・ノール・ピニュス)」アルル/フランス

 初めて「グランドホテル・ノール・ピニュス」と出会ったのは、96年10月のことでした。その後、2002年9月に2度目の宿泊、今回、2010年9月は 8年ぶりとなる3回目の滞在となりました。美しい南仏、アルルの街。私はフランスで大学生活を送っていた頃から、長い間、この街にずっと惹かれ続けてきました。

sekine1105_a.jpg広場から見ると、ちょうどゴッホの銅像が建つ真後ろにあるのが「グランドホテル・ノール・ピニュス」

 アルルはローマ遺跡の闘牛場や、ヴィンセント・ヴァン・ゴッホの「アルルの女」「アルルの跳ね橋」など、彼の絵の舞台となった街として良く知られています。また、街のあちこちに世界遺産が数々あり、1981年には、円形闘技場、古代劇場、サン・トリフィーム教会など8つの建造物が一遍に世界遺産登録されたことも話題になりました。古いままに家並みが残るアルルの旧市街には、ゴッホが「夜のカフェテラス」を描いた広場、「Place Du Forum」が絵の通りに残されています。壁の黄色も当時のままに塗り変えて、伝統を継いでいるのですね。ここでご紹介する「グランド・ホテル・ノール・ピニュス」は、ホテルやカフェに囲まれたこの広場に向かって真正面に建ち、ゴッホのカフェはすぐ隣り、斜め向かいにあります。

sekine1105_b.jpg(左)以前と変わらぬシンプルなレセプション(右)クラシックな趣のロビー・ラウンジ。随所にピーター・リンドバーグの作品や貴重な写真が飾ってある

 数々の伝説に彩られた「グランド・ホテル・ノール・ピニュス」ですが、外観は変わらずとも、さすがに客室内はリノベーションが何度か行われ、古い部屋の幾つかはスタイリッシュに様変わりしていました。

ホテルのオーナーはアンヌ・イグーという女性です。彼女がここの運営を始めたのは1981年のこと。しかしホテルはずっとそれ以前から、別の老齢の女性が経営をしていました。その後、イグー女史がホテルを買い取り経営者となったのですが、それまでの彼女は医者としてボランティア団体に加わり、アフリカやヨーロッパの被災地で診療に加わっていたのです。「あの頃、私は大自然に魅せられてアフリカの大地に身を置き、ただ自分探しをしていたんだわ...」と、以前のインタビューで回想していたイグー女史。彼女は今も、自分好みのインテリアにこだわる経営者でした。

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(上)ロビー・ラウンジ。(下左)これが有名なバー、「シントラ」。かつて闘牛がある日はマタドール達で賑わった。(下右)レセプション隣の美しい階段は昔のままに残されている

sekine101105_d.jpg広場に面した角部屋の一つ「ナポレオン・スィート」。遙か昔、ナポレオンが逗留した部屋として残されている

 オープン初日から、このホテルには運命とも言えるドラマチックな物語がありました。アルルで闘牛が開催される日を選んでオープン日を決定したイグー女史。彼女の願い通り、当時のスター闘牛士(マタドール)が祝いにかけつけたことで、そのスター闘牛士とホテルのことがフランス中にTV中継されたといいます。しかし、スター闘牛士は不運にもその日の試合で死亡。それもまた大きなニュースになったのは当然でしょう。皮肉なことに、そのお陰でこのホテルは、パリのマスコミにドラマとして伝えられ、ホテル自体が有名になったというのです。それからというもの、このホテルには有名人が次々と訪れ、当時、シャネルのモデルとして世界的に有名だったイネス・ドゥ・ラ・フレサンジュは、パリから友人らと共にホテルを訪れ、華やかなシャネルを纏い挙式。それもまたセレブの結婚式として世界中に伝えられたそうです。その頃イグー女史は、世界的に名を馳せたファッションカメラマンのピーター・リンドバーグ氏と結婚。後に離婚をしてしまうのですが、ここは星の数ほどのセレブな逸話が残るグランドホテルなのです。

 フォールム広場に面した角部屋は最も広く、ナポレオン三世が泊った部屋として知られるスィートルームです。幸運にもこのスィートは昔の面影を残したままにありました。かつてマタドールで賑わった1階のバー「シントラ」には、「かつてピカソがここで酒を飲んだ」と記された小さな標識も残り、ジャン・コクトー、ポール・クレー、サルトル、イヴ・モンタンなど、多くの著名人がここに集った記録も残されています。今となってはかつての賑わいはありませんが、アルルに行くことがあったら、是非一度、足を運んでみてはいかがでしょうか。(K.S)



Grand Hotel Nord - Pinus
(グランド・ホテル・ノール・ピニュス)

sekine101105_e.jpg Place du Forum, 13200
Arles-en- Provence, France

Tel 33-4-9093-4444
Fax 33-4-9093-3400 
www.nord-pinus.com
部屋数/30室
料金/170 ~345ユーロ、
アパルトマン460~570ユーロ
施設/朝食用レストラン、バー、ギャラリー、ミーティングルーム



Kyoko Sekine

ホテルジャーナリスト

スイス山岳地での観光局勤務、その後の仏語通訳を経て94年から現職。世界のホテルや旅館の「環境問題、癒し、もてなし」を主題に現場取材を貫く。スクープも多々、雑誌、新聞、ウェブを中心に連載多数。ホテルのコンサルタント、アドバイザーも。著書多数。

http://www.kyokosekine.com

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