2021年12月7日、シャネルは21-22メティエダール コレクションを発表した。ポケットの刺繍が映える黒いドレスから、ビジューボタンをあしらったジャケットやカーディガン、スパンコールが煌めくモノクロームのアンサンブルまで、シャネルらしいディテールがちりばめられた全59ルック。年に1度発表されるこのコレクションは、パリモードの歴史を支える職人たちの手仕事を讃えるものだ。
左:le19Mの建物にインスピレーションを得た、白い刺繍が印象的なルック001。
右:アトリエ、メゾン ミッシャルによる美しいハット。ジャケットの前ポケットにはビーズでchanelのグラフィックが描かれた、ルック012。
左:アトリエの職人技が光るツイードのセットアップ。前を開けた開放的なコーディネートにも注目したいルック002。
右:ショーの最後を彩ったのは、スパンコールの刺繍が見事なマリエのルック059。
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1985年から、シャネルはそれぞれに長い歴史とサヴォアフェール(伝統技術)を持つ職人の工房のメゾンダールとアトリエに出資し、その職人技を守り続けてきた。たとえば、特殊なミシンやかぎ針を使ってテクニカルな刺繍を手がけるモンテックス。ジュエリーボタンを作るデリュ。花と羽根細工のルマリエ、金細工のゴッサンス、そして全身のシルエットを完成させる、帽子のメゾン ミッシェル。アーティスティック ディレクターのヴィルジニー・ヴィアールは、各工房が得意とするサヴォアフェールを熟知し、その魅力を生かしたコレクションを送り出している。
会場となったのは、シャネルが11のメゾンダールを集めたサヴォアフェールの新しい中心地、le19M(ル・ディズヌフ・エム)。緑の中庭を囲む、白い糸を思わせるコンクリートの装飾が美しい建物だ。ショーに先立って、ゲストは少人数のグループに分かれてアトリエに迎えられた。プリーツ加工のロニオン、刺繍とツイードのルサージュ、バイカラーシューズを作るマサロの見学は、美が人の手から生まれ、時間こそが最高の贅沢だと実感させてくれる。直後のランウェイショーでは、ディテールのひとつひとつが印象を増し、20回目を迎えたメティエダール コレクションにふさわしい演出となった。
パンデミック以来、再工業化が叫ばれるフランスで、その核となるのは人の手が生み出すクオリティ。フランス経済を牽引するラグジュアリー産業にとって、職人たちのサヴォアフェールは大事な資産だ。また、le19Mが位置するのは、パリ19区と隣町のオーベルヴィリエの境目。パリ近郊で最も貧困率の高いエリアのひとつといわれて久しかったこの地に、世界を魅了する手仕事の拠点が置かれたことで、エリアの姿も一変しつつある。それもまた、フランスらしい地域貢献の形といえそうだ。
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ドレスとベルトはルサージュの工房が195時間かけて刺繍。モチーフはle19Mのファサードから。仔羊皮にシルクの裏地、ラインストーンでダブルCのロゴがあしらわれた手袋はコースの仕事。(ルック045より)
バレッタはルマリエの2時間の手作業から。ダウンはモンテックスで4600個のパイエットが刺繍された。ボタンはデリュより。(ルック039より)
メゾンダールのひとつ、モンテックスを訪ねたキャロリーヌ・ドゥ・メグレ(上右奥)。“コルヌリーミシン”を実際に体験した。
le19Mの建築はリュディ・リチオッティによるもの。
le19 M2, place Skanderbeg 75019
*「フィガロジャポン」2022年3月号に一部加筆。
text: Masae Takata (Paris Office)