【シャネル31】 オニール八菜、シャネルのオートクチュールで舞う。

Chanel 2022.04.20

羽根一本、ビーズ一粒にいたるまで丹念に仕上げられた、シャネル2022年春夏 オートクチュール コレクションがパリ・オペラ座バレエ団ダンサー、オニール八菜のエスプリと響き合う。


2022年春夏オートクチュール週間から10日後。パリ・オペラ座バレエ団のプルミエール・ダンスーズ、オニール八菜の楽屋にシャネルのオートクチュールが運び込まれた。今夜の彼女が向かうのは、赤いベルベットの緞帳と金箔で装飾された表舞台とは真逆の、誰もいない地下空間。大階段にシャンデリア、彫刻と金箔の荘厳なイメージが思い浮かぶオペラ・ガルニエだが、美しい劇場の陰には慌ただしい楽屋や稽古場があり、舞台装置や照明が控える地下の空間がある。そこは、舞台を支えるさまざまな職種のスタッフが行き交い、フランスを代表する文化遺産であるオペラ座のスペクタクルを創り上げる裏舞台だ。

ツイードにレース、オーガンザ、パイエットやストラスの刺繍、そして羽根。チュチュを思わせるオーガンザの白いスカートや、総レースのロングドレス。オートクチュールのアトリエで、職人がひと針ひと針縫い上げた極上のドレスを纏い、カメラを前に彼女はインスピレーションの赴くまま、脚を上げ回転し、ジャンプする。ひとつひとつの動きは研ぎ澄まされ、身体の動きに応じて翻る布地や羽根が、生き生きとした表情を見せる。オペラ座の地下で繰り広げられた撮影時のプライベートなスペクタクルは、まるでオートクチュールを支える職人技へのオマージュだ。

chanel_HC_01-220420.jpgタイユールのアトリエから生まれたツイードのミニドレス。ブルーの羽根の揺れる表情が、かっちりしたドレスのシルエットとコントラストを生み、優しい表情をプラスする。マルチカラーのツイードはルサージュの工房で織り上げられたもの。羽根に加えて115個のビーズとストラスでできた袖は、ルマリエが192時間かけた手仕事の賜物。ドレス/シャネル オートクチュール(シャネル)

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インタビューのため、数日後に再び訪れた楽屋で、彼女は撮影当日をこう振り返った。「オートクチュールを着るのは初めて! 自分の楽屋にずらりと服が届いた時は、本当にきれいで感動しました。着心地がよく、自分のいいところを引き出してくれる。100パーセント、八菜でいられると感じました」

それぞれのルックに施されたたくさんのディテール、隅々にまで感じられる細心の注意。そこに彼女は、「踊りに通じるところがある」とも感じたそう。ことに印象に残ったのは、ビーズ刺繍が施された20年代風のストラップドレス(本誌P91)とツイードのロングコート(P90)だった。
「何時間もかけて完璧を目指して作られたドレス。ビーズの重みと羽根の軽さの両方があって、とてもフェミニン。また、オフホワイトのロングコートもかっこいい。肩に重さが乗る感じが好きでした」

彼女はよく、オペラ座の衣装アトリエを訪れるのだそう。踊り手を美しく見せ、踊りやすくしてくれる舞台衣装はもちろんオーダーメイド。出来上がるまで2度3度のフィッティングがあるゆえに、オートクチュールを連想させる。それだけではない。彼女にとって衣装は、踊る役柄や世界観にインスピレーションを与えてくれる大事な存在だという。
「今回の撮影にはダンサーとして臨みましたが、シャネルのオートクチュールは、“服”というより、“衣装”を着ている気分でした。どのルックにもそれぞれのキャラクターが感じられ、服によって違う動きが生まれました」

ドレスではたおやかな手元がフェミニニティを語り、ボディに沿ったシルエットのロングコートは右脚を上げた凛としたポーズが潔い。一着一着が彼女をインスパイアし、それぞれの身体表現へと誘ったのだ。オペラ座で踊り始めたのは2011年。パリに住んで10年以上になる彼女は、「パリ暮らしが人生でいちばん長くなった」と笑う。家からオペラ座には徒歩で通う。バレエダンサーという職業柄、多くの人と生活のリズムが違う。その時間のズレが心地よくて、パリの暮らしはとても気に入っているのだそう。
「夜が長いところも好きですね。ゆっくりと時間をかけてディナーをとる。そんなところが、私の生活リズムに合っていて心地いい」

chanel_HC_02-220420.jpgベビーイエローと白、優しい色使いのレースのドレス。フロントがミニ丈の軽やかな裾まわりが踊る脚の表情を美しく引き立てる。レースがすべて手縫いではめ込まれ、縫い目が見えないように仕立て上げられたドレスには、フルーのアトリエで396時間の手作業が費やされた。白糸とクリスタルがネックラインを彩るストラップはアトリエ・ドゥニの仕事。ドレス/シャネル オートクチュール(シャネル) トウシューズ/本人私物

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パリ暮らしのもうひとつのいいところは、カルチャーが充実していること。
「自分自身のため、ダンスのためにも、カルチャーに触れることはとても大事です。それが自分自身に深みを与えてくれるから」

展覧会もダンスも、音楽も大好き。分野を問わず、情報をチェックして出かけていく。
「私たちの仕事は、自分のために表現するだけでなく、カルチャーを伝え、分かち合うことです。アート、ダンス、音楽、たくさんの分野が一堂に集まっているパリにはカルチャーの力があります」

コロナの影響でライブ公演が行えなかった時期を経て、久しぶりに舞台に立った時には、観客のエネルギーをとても強く感じた。
「私たちは観客とエネルギーをシェアし、その力を使ってエネルギーとエモーションを表現できるんです」

では、彼女にとって、パリのオペラ座で踊ることにはどんな意味があるのだろう? 
「バレエはパリで生まれました。私が最も好きな踊りはパリ・オペラ座にあります。オペラ座の踊りを言葉で説明するのは難しい。それは踊りのスタイル、衣装、装置、音楽、すべてを含めたもの。味わいがあると言えばいいでしょうか。バレエはスポーツではないので、優劣はない。それぞれにスタイルがあり、好みがあります。私はここで踊るのがいちばん好き。海外公演から戻るとほっとします」

いま、オニール八菜は29歳。
「いい年齢だと思います。いろいろな文化に触れ、経験を積んで自分に厚みが増していく。それとともに踊りも変化します」

若い時は「いまを逃したらこれは踊れなくなる」と思ったけれど、現在、自分ができる、という姿勢でいれば必ず踊れると考える。年齢を経てこそ踊れる役もある。そんな彼女は、いま舞台で何を表現したいのだろうか。
「舞台では、人間性が見えるものです。美しい人は優しい人。表現しようとすることは大事ですが、舞台で無心に踊れれば本当に素敵だと思う。自分の真実が出ること、振り付けの中に入っていき、気持ちも含めてすべてが踊りに表れること。それが本当のアーティストの表現だと思います」

chanel_HC_07-220420.jpgかすかなドレープが優しい印象を加えるクレープジョーゼットのトップに、真っ白なオーガンザのスカートというルック。リュネビル刺繍でおよそ4万個のスパンコールをちりばめたトップは、動くたびにキラキラ光を反射する。1000本の羽根、5600個のビーズとラインストーンが縫い付けられたスカートには、ルマリエのアトリエが720時間を費やした。トップ、スカート/ともにシャネル オートクチュール(シャネル) トウシューズ/本人私物

Hannah O’Neill
1993年、東京都生まれ。8歳で父の故郷ニュージーランドへ。オーストラリア・バレエ学校を2011年、首席で卒業し、同年パリ・オペラ座バレエ団と契約。16年以来、プルミエール・ダンスーズ。ブノワ賞をはじめ、コンクール受賞歴多数。5月6日から6月5日は、パリのオペラ・ガルニエにて、マッツ・エックの振り付けによる『カルメン』でMを踊る。

※現在発売中の最新号フィガロジャポン2022年6月号では、こちらに掲載した3ルック以外に加えて4ルック、シャネルのオートクチュールを纏ったオニール八菜を掲載中。

●問い合わせ先:
シャネル カスタマーケア
0120-525-519(フリーダイヤル)
www.chanel.com

*「フィガロジャポン」2022年6月号より抜粋

photography: Esther Haase styling: Agnès Poulle hair: Cyril Lanoir makeup: Lisa Legrand editing: Masae Takata (Paris Office) collaboration: Le Palais Garnier Opéra National de Paris

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