スッと素直な"幸せ"の線。
吉行良平と仕事とspace_inframince
デザイン・ジャーナル 2011.01.24
去年の秋に誕生した「space_inframince(スペース・アンフラマンス)」(大阪市西区)で「吉行良平と仕事とspace_inframince」展がはじまりました。デザイナーの吉行さんがコンセプトからデザインまで関わったアンフラマンスの品「one awa」のリリースを記念しての開催。会場では、彼のこれまでの作品もあわせて目にできます。
「上質な泡を携帯する」がコンセプトの「one awa」。6.5g の石けん1個と泡立てネットで¥378。一度に使いきったり、少しづつ使ったり。Photos: Courtesy of Ryohei Yoshiyuki to job(他写真も)
「one awa」5個とネットのセット¥1575。自然なままの保湿成分グリセリンを多く含み、軽いメイクのクレンジングにも使える天然泥成分イライトを配合。アロエベラエキスも。
アーティストのMarcel Duchamp(マルセル・デュシャン)の造語、アンフラマンス。
極めて薄い、を意味するものですが、そんな奥の深い言葉を社名とする同社が扱うのは、身体と外界の境界となる「肌」に関わる品々です。「肌から環境へと至る導線のなかで、生活の機知となるアイテムを開発、提案していきます」(同社)とのこと。
そして今回の「one awa」は、ちぎって使える薄い石けん。柔らかな触感は、薄くスライスされたチーズにもどこか似ています。それに、香りがなんとも爽やか。封を切るように薄紙のパッケージを開けた瞬間、オレンジ油とスペアミント油の香りに驚かされました。泡立てネットをセットとしたパッケージもよく考えられています。詳細はこちらで。
こちらは? 詳細は後ほど......。
吉行良平さんは1981年生まれ。オランダのデザインアカデミーを卒業後、現在は大阪を拠点に、広く活動中。Arnout Visser(アーノート・フィッサー)のプロジェクトやdroog design(ドローグ・デザイン)にも参加している気鋭のデザイナーです。
私が初めて本人にお会いしたのは2年前、オランダのデザイナーから「会うべき若手デザイナー!」と勧められたのでした。また、彼は現在、東京都現代美術館の「オランダのアート&デザイン新・言語」展でMartijen Engelbregt(マルタイン・エンゲルブレクト)の「ご近所ショップ」に参加中。同世代のデザイナーから信頼されているのですね!
先ほどの写真はその作品。ご近所とのつながりを深めるエングルブレクトの"ショップの品"のひとつ、「Neighbor Leaf Tag/落ち葉のなふだ」を制作。隣の家から自分の家の庭に落ちてきた落ち葉を「なふだ」にして、再び自分たちの生活に戻す、というもの。
「オランダのアート&デザイン新・言語」展は1月30日(日)まで。詳細はこちらで。
スタジオ名は、「吉行良平と仕事」です。
もうちょっと本人にズーム(笑)!
さてここから、スペース・アンフラマンスでも目にできる他の作品を順に紹介していきましょう。「デザイン・ジャーナル」読者のための本人コメントも、そのまま掲載していきます。海外のデザイナーも注目する日本人若手男子プロダクトデザイナーが考えていることって、さて?! さあ、吉行ワールドへようこそ!
「re:time of the sky(リ:タイム・オブ・ザ・スカイ)」。「ものごとがはじまる春の空はちょっと特別です」と彼。「この空を忘れたくないな」と思った経験もあったそう。
まずは「空」の時計です。「4月のある日の空を24時間観測し、その色をとじこめる。繊細な色が1秒ごとに変化し、その時間の空の色をうつしだす」
「朝焼けにはじまり夕方、夜......何分という細かな表示はないが、横のボタンを押すと昼にはその時間の太陽の光、夜にはその時間の月の光が、時間の方向(一般的な時計の文字盤にある数字の方向)からさしてくる」。海外など、離れた場所の空を記録することも。
「raindrop calendar(レインドロップ・カレンダー)」。よく見ると模様が。
「ぽつぽつと雨が降りだし、地面をそめる。ランダムに降る雨粒が、ひとつひとつ違う大きさ、形であることに気づいた。1粒が地面に落ちはじめてから地面をそめるまでを記録する。時の流れが特別なものに感じられた。その時間をそのまま部屋に持ちこむ。白紙の31枚にぽつぽつとインクで雨を降らせた。1ヶ月が地面をぬらすようにすぎていく」
「electric_fan(エレクトリック_ファン)」。木工メーカー、simple wood productとのプロジェクト。
男子的プロダクト、男子的な写真ですが、やはり美しいストーリーが潜んでいました。「いい風を感じるうちわをつくろう、とはじめたプロジェクト。いい風とは何だろう? と実験を続けるなかで、家具をつくる際の板材の端を見た。回転するノコギリから落ちる端材がひらひらときれいな羽に見えたとき、いい風が吹いた」
「薄くした板材を扇風機の羽根のかたちにし、水につけ、自然の風で乾燥させる。切りだしたままの仕上げと、その時どきの風や気温で羽根の曲がり方が違ってくる。ひらひらと扇風機から落ちてきたような木の羽根が、いい風を吹かせている」
「a cup of coffee(ア・カップ・オブ・コーヒー)」。
「消臭効果があるとのことで、コーヒーをいれた後の粉を灰皿に入れておくという。コーヒーとタバコ、その相性のよさが好きだ。コーヒーの粉のみで器ができないかと思った。一杯分のコーヒーの粉でできた器。角砂糖やジュエリーを入れてもよい。コーヒーをのむ。たばこをのむ。ちょっとの時間が幸せだといいなと思った」
そして、「丁寧に普段の暮しをみつめる」棚とスツールも。まずは「your level」。
「いろんな所にものが置かれる。テーブル、椅子の上、冷蔵庫の上、窓のふち。床にも、ものがいろんな高さに広がって、部屋ができている。ものが広がるように、ひとつの棚からそれぞれの高さが部屋の壁へ広がっていく。重ねたときは木目がそろい、ひとつの棚に。ものを置く場所が必要になれば、必要な高さを持ってくることができる」
「your level(ユア・レベル)」。
どこか懐かしくもあるスツールは、「your level stool(ユア・レベル・スツール)」。。「ある日、どこにでもある丸椅子がすごくきれいに見えた。作業場のアトリエで気づくと、犬が地べたに、自分は丸椅子に、猫はスタッキングされた丸椅子の上でひなたぼっこをしている。重ねられた椅子の脚を素直にそのまま伸ばす。とりだすとその高さが広げられる。10脚1セット、10種の高さのあたり前の丸椅子」
今回の展覧会DMにもこのイラストが。Concept drawing by Ryohei Yoshiyuki
ところで......いつも私は、あることばを、他のことばで言い換えるとどうなるだろう? と考えます。もちろん「デザイン」もそうで、これは学生時代からずっと、そんなことを考えています。そして、その時のヒントや刺激となるのが、吉行さんも在籍していたアイントホーフェン・デザインアカデミーの課題や学生の提案です。
彼が学んでいたのはMan and well-being(マン・アンド・ウェルビーイング)のコース。ここでも興味をそそられるプロジェクトばかり。
昨年、在籍中の学生から教えてもらった授業にも驚きました。葬儀会社とのプロジェクトで、「死」、ひとが亡くなること、お葬式、そのひとの記憶......が題材だったのです。
作品を収録した冊子の表紙には「Remember Me」。学生の提案のひとつには、愛するひとを亡くしたショックを和らげるドラッグのための器、などもありました。今は亡き人物の身体に腕をまわすように抱えることもできる、美しいガラス器とドラッグ......!
人間そのものに目を向けたたくましい提案。オランダのデザインについてしばしばそう紹介されますが、その向きあい方は本当に深く、時に、普通ならタブーとされているところにも踏みこみながら、とり組まれていたりします。
今回掲載した吉行さんの作品写真と解説コメントからも、柔軟な発想を生かしながらも時間をかけながら自身の活動を探るデザイナーの世界を、感じとってもらえたのではないでしょうか。最後に本人コメントをもう少し。
「branch tool」。アイントホーフェン・デザインアカデミー時代の貴重な作品です。
「デザインアカデミーの課題は考えこませられるものばかりでした。たとえば庭。庭とは自然に手を加えてつくり込むもの、ということで、『parasite and symbiosis/寄生と共存』とのコンセプトからガーデンツールをつくりなさい、という課題だったんです」
「何をするためというよりも、その裏側をしっかり考えるという経験ができたと思います。僕がこの庭の課題で発表したのは『branch tool(ブランチ・ツール)』。スコップや斧を使ったあと、そのままほっておくと鳥の巣になってしまう、というものです」
そんな吉行さんが心に留めていることって? (やはり気になりますよね)
「プロジェクトごとに大事なポイントを分析していきますが、共通して大切なのは、結果によって人やものを "ちょっと幸せ" にできているか? ということ。丁寧に実験を重ねることで、離れている点と点に、ひとと人に、1本、スッと素直な線が通る。
そうした、 "ちょっと幸せな線" をつくることを、大切にしたいと思っています」
吉行良平と仕事
http://www.ry-to-job.com
「吉行良平と仕事とspace_inframince」展
2月20日(日)まで
http://www.inframince.jp/

Noriko Kawakami
ジャーナリスト
デザイン誌「AXIS」編集部を経て独立。デザイン、アートを中心に取材、執筆を行うほか、デザイン展覧会の企画、キュレーションも手がける。21_21 DESIGN SIGHTアソシエイトディレクターとして同館の展覧会企画も。
http://norikokawakami.jp
instagram: @noriko_kawakami