「132 5. ISSEY MIYAKE」発表。
東京に続き、パリGalerie kreoで
デザイン・ジャーナル 2010.09.24
その名前は「132 5. ISSEY MIYAKE」(以下「132 5.」)。8月末の東京でのプレゼンテーションに続いて、各国のジャーナリストや関係者に向けたお披露目です。
Gallery kreoはロナン&エルワン・ブルレックのプロジェクト紹介など、今最も話題のデザインギャラリー。Photo: Noriko Kawakami (kreo会場風景すべて)
ギャラリー入り口。海外では初披露となる「132 5. ISSEY MIYAKE」のロゴが。
アポイントメント制のプレゼンテーション。プロジェクトについて、三宅一生さん自ら、英語とフランス語で、丁寧に説明をされていきます。というのもこのプロジェクト、三宅さんのものづくりに対する大切な考えが、背景としてあるのです。リサーチを含む開発プロセスも数年ごしでなされたものでした。
Photo: FATHI DAFDOUF, Courtesy of MIYAKE DESIGN STUDIO
力強いインスタレーション。会場では服を着たモデルも歩いていました。歩いたりする「動き」が加わることで服の表情がより魅力を備えることがわかります。
ここではReality Labから説明を加えておきましょう。ISSEY MIYAKEで三宅一生さんと長年服づくりにとりくんできたベテランスタッフと、入社数年目の若手で構成されたリサーチ、開発のチーム。本格的な活動は3年前から。
進行する複数のプロジェクトのなかでまず完成したのが、今回の「132 5. ISSEY MIYAKE」、というわけです。まずはその素材から注目を! 再生された糸(PET素材)に「さらに良質のものになるように」、と独自の改良を重ねたもの。
それは「環境のことを考えるのは今やものづくりの基本」という考えから。しかもISSEY MIYAKEの服づくりに関わってきた全国の織りや染色の工場があってこそ実現した、妥協のない素材づくり。素材段階からすでに時間が費やされているのです。
そのうえでハリのある生地の特性をふまえて、「折り」が活かされた服であるのが大きな特色です。折りたたみ方そのものでも実験的な試みがなされています。というのも、気鋭のコンピュータ・サイエンティストが開発したソフトウェアが活かされていて......。
コンピュータ・サイエンティストで立体折り紙の専門家でもある三谷 純先生のCGアプリケーションが「132 5.」の服づくりに活かされています。ソフトウェアを活かした立体造形(写真奥)をそれぞれつぶすように、平面に(写真手前)。さらには美しく着やすい服としての折り線、切り込み線を服づくりのプロが加えることで、衣服が生まれます。
通常であれば人体をふまえた服のパターンが考えられるところですが、立体造形をつくるソフトウェアを活かした立体造形を再び平面につぶすようにし、その折りがそのまま、服のデザインに活かされていく......。何てユニークなプロセス。
今回発表された基本形(折りたたみの形)は10種類。切り込み線の位置が変えられることや、同じ基本形を2つ組み合わせることなどで、スカート、ブラウス、ワンピース、パンツに......と劇的に変化を遂げていくのです。
そんな数理的な展開の醍醐味さもさることながら、平面から立体に立ち上がって服となっていくことの驚きといったら......。ええ?! たたまれているこの造形がブラウスとスカートになってしまうの?! とポエティックなマジックを見ているかのよう。
折る、たたむ、ひらく......といった手法を活かした服づくりに挑んできた三宅一生さん。三宅さんならではの「一枚の布」の考え方の新次元ともいえる、「132 5.」。一枚の生地を無駄なく用いる服のつくり方でもあることを知りました。
10の形状からこちらは「No.1」。折りたたんだうえで箔が重ねられています。左はワンピース、同じ形を2つ組み合わせた右はブラウス。
造形を広げることで生じる箔の表情にも注目を。上の写真、展示されたボディの奥に、取材、撮影にこたえる三宅一生さんの姿が......。海外メディアではすでに大変な反響。
会場には、三宅さんの活動を長く目にしてきたジャーナリストの姿も。ひと筋縄ではいかないクールな大御所ジャーナリストたちも、「服づくりの大革命!」と興奮気味。
驚きをもたらす服の提案というだけではなく、環境、服づくりの今後に向けた提言をも含むプロジェクトであることに、ファッション、デザイン、建築......幅広い分野のジャーナリストたちが大変な興味を持った様子も伝わってきました。(私もその一人ですが......)
ちなみに「132 5. 」の名前は、一枚の布(1)、立体造形(3)、折りたたむことでの平面造形(2)に加え、服を身につけた人々の、各自の時間が加えることでの、服の発展形(三宅さんの言葉では「五次元的な広がりを」=5)、との思いが込められたもの。
「実現し、使う人たちにきちんと届けてこそ、デザイン」。三宅さんは語ります。
「デザインは多くの人に喜びをもたらすことができるはず」という三宅さんの考えも、この新コレクションから改めて伝わってきます。
アートオブジェのようなこれらの布地の一部を手にとり、持ち上げていくと服に......。今回発表されたのは10種類の基本形(ただしその組み合わせで、かなりの数の服が生まれています)。重ねられた箔の色も様々で、このまま飾って眺めていたいほどの美しさ。
開発が進む「IN-EI ISSEY MIYAKE」。こちらも再生素材を用いています。「132 5.」「IN-EI」ともに浅葉克己さんのロゴデザイン。
kreoには他に、「132 .5」と同じ「折りたたみ」を活かし、素材に不織布(再生PET紙)を用いたランプシェードのモックアップ(試作品)も。
こちらの名前は「IN-EI ISSEY MIYAKE」。谷崎潤一郎さんの『陰翳礼讃(いんえいらいさん)』をふまえたネーミングです。折りが活かされた造形ならではの「影」がもたらす繊細な光の美しさ。服と同じ「折りたたみ」の形を用いていることにも、来場者は驚きの声をあげていました。
「132 5.」は年内に南青山にオープン予定のフラッグシップショップで購入できます。PLEATS PLEASE ISSEY MIYAKEの価格帯ほどで、手に入るトップスもあるそう。皆の手にわたってこそデザイン、という三宅さんの考えがここでも貫かれています。
CGアプリケーションという科学的な理論をもとにしながらも、わあ! と心が反応する服であること。同時に素材(資源)をはじめ、社会のこれからにもしっかりと目を向けた服やプロダクトデザインであること。デザインの可能性を本当にすてきなかたちで示してくれた「132 5.」と「IN-EI」。
ファスト・デザイン、ファスト・プロセスとは大違い。しっかり考え、開発された服とプロダクトだけが持つ大きな力。私たちをポジティブな気持ちにしてくれる服の魅力。
この服を着て歩いてみるとどんなだろう。早く着てみたいなあと思いながら、このプロジェクトが教えてくれた大切なこと、今デザインに必要なことについて、ひき続き考えているところです。
折りたたまれた状態からワンピースへ
Clothing by Reality Lab., MIYAKE DESIGN STUDIO 2010 , Photo by Hiroshi Iwasaki 2010

Noriko Kawakami
ジャーナリスト
デザイン誌「AXIS」編集部を経て独立。デザイン、アートを中心に取材、執筆を行うほか、デザイン展覧会の企画、キュレーションも手がける。21_21 DESIGN SIGHTアソシエイトディレクターとして同館の展覧会企画も。
http://norikokawakami.jp
instagram: @noriko_kawakami