16組のデザイナーが有田に集結!
「2016/ project」来春の発表に注目を。
デザイン・ジャーナル 2015.11.09
都内でデザインイベントが多数行われていた10月末、興味深いプロジェクトを紹介する記者会見が、オランダ大使館で行われました。「フィガロジャポン」でも昨年紹介した、佐賀県有田でのデザインプロジェクトに関する発表です。その様子をお伝えしたいと思います。

オランダ大使館で5名のデザイナー。左からクリスチャン・ハース、柳原照弘さん、藤城成貴さん、ステファン・ディーツ、ステファン・ショルテン。photo: Kenta Hasegawa
「未来へはばたく、メイド・イン・ジャパン。」のタイトルで世界に向けて発信されている日本のプロジェクトの「仕掛人」たちを取材したのは「フィガロジャポン」2014年10月号でした。そのひと組として取材をさせてもらったのが、デザイナーの柳原照弘とオランダ人デザイナー、ステファン・ショルテン。
2016年に有田焼創業400年を迎えることを機に佐賀県が進める17のプロジェクト「ARITA EPISODE 2」のひとつ、「2016/ project」(ニーゼロイチロク プロジェクト)のクリエイティブディレションを手がけているふたりで、フィガロジャポンでは「2016/ project」の始動のタイミングでのご紹介でした。それから1年4カ月が経過。プロジェクトは着々と進んでいます。

2014年夏の有田取材時の私のスナップから一枚を。猛暑のなか、窯元の方がだしてくださった果物をほおばりながらミーティングを続ける柳原さんとステファン・ショルテン。photo: Noriko Kawakami
佐賀県(有田)とオランダの関係は17世紀半ばにまでさかのぼります。17世紀半ばから18世紀、有田焼はオランダ東インド会社を通してヨーロッパに輸出され、紹介されていました。その長い歴史も背景に、オランダは佐賀県における有田焼創業400年をサポート。磁器に関する共同研究も進んでいます。
さてさて、冒頭で紹介した写真の通り、10月31日の記者会見には、柳原さんやステファンと共に、プロジェクトに参加する16組のデザイナーよりクリスチャン・ハース(ドイツ)、ステファン・ディーツ(ドイツ)、藤城成貴(日本)の5名が登壇。他のデザイナーも順に有田に滞在、来春のミラノサローネでのお披露目に向けて「2016/ project」全体で、なんと数百という数の制作が進んでいるのだそう!

「2016/ project」の始まりは、柳原さんとショルテン&バーイングスのデザインで百田陶園が2012年から展開している「1616 / arita japan」でした。こちらは「1616/ arita japan」のためのショルテン&バーイングスのデザイン。photo: Takumi Ota

「1616/ arita japan」のための柳原さんのデザイン。photo: Takumi Ota
ほかの参加デザイナーの名も、ふだん活動拠点としている都市名とともに挙げておきましょう。
BIG-GAME(スイス)、クリスティン・メンデルツマ(オランダ)、インゲヤード・ローマン(スウェーデン)、クーン・カプート(スイス)、カースティ・ファン・ノート(オランダ)、レオン・ランスマイヤー(アメリカ)、ポーリーン・デルトゥア(フランス)、サスキア・ディーツ(ドイツ)、スタジオ・ウィキ・ソマーズ(オランダ)、TAF(スウェーデン)、トマス・アロンソ(イギリス)。柳原さんもデザインを手がけるひとりとなり、ステファン・ショルテンはショルテン&バーイングス(オランダ)での参加です。

今年春のミラノサローネで。進行中の「2016/ Project」について紹介されていました。
先週の記者会見では「2016/ project」に参加するデザイナー16組とタッグを組む佐賀県の窯元・商社16社の皆さんも大集合。デザイナーが登壇してのトークセッションでは、課題をのりこえながら進行する制作の様子が、デザイナーと窯元、それぞれの立場より語られていました。
すぐれた技術が継承されてきたとはいえ、デザイナーの発想や提案は自由で柔軟です。そこがまた魅力であり、歴史ある手しごとの新たな可能性をきりひらいていける大きな一歩となるのですが、デザイナーと窯元、双方の思いが重なる制作として着地するためには、手を動かしつくりながら進んでいく、十分な時間が必要です。

柳原さん、ステファン、そして有田の窯元・商社の皆さん。photo: Kenta Hasegawa(以下もすべて)
試行錯誤の毎日となっていることは容易に想像できるところです......が、今回のトークに参加していた皆さんが互いを信頼し、温かく厚い関係を築いている様子とそのよい雰囲気が伝わってきて、そのことがとても強く私の心に残りました。全員が前向きにプロジェクトに向かっているのだということも......!
伝統産業もデザインも大きな力をもっている。その力を十分に活かすためにも、関わるひと同士が確かな関係を築くと同時に、今後につながる創造の場を育むことが大切なのだと、「2016/ project」に関わる皆さんの話をうかがうたびに考えさせられてしまいます。

デザイナーが順に有田に滞在、制作に向かいます。ポーリーン・デルトゥア。

クリスティン・メンデルツマ。

カースティ・ファン・ノート。
日本の手しごとに世界の注目が集まるようになり、産地とのプロジェクトに期待を込める人々も増え、実際に多くのプロジェクトがスタートしています。けれど、コミュニケーションがうまくいかなかったから、うまく流通にむすびつけられなかったからと、簡単に終止符が打たれてしまうプロジェクトも少なくありません。
手しごとに限りません。勢いよく始まったものの短命に終わってしまうプロジェクトも多い昨今、はじめることももちろん大切だけれど、想いを育てるように継続させていくことはもっともっと重要なこと......。
柳原さんとステファン・ショルテンというふたりのデザイナーと有田の関係からスタートし、日本とオランダとのさらに温かな関係に発展し、国際的なデザイナーが多数関わることになった「2016/ project」には、だからこそ注目すべき大切な点がたくさんあると思います。

熱い......です!
有田の町そのものに新たな動きが起こっている点も見逃せません。たとえば「NEW ADDRESS」。プロジェクトの拠点として、制作で有田を訪れるデザイナーたちのワークショップやミーティングが行われたり、宿泊施設のほとんどなかった有田でスタッフやデザイナーが宿泊できる場所となるなど、フル稼働中。
オランダ、アムステルダムにも来年、もうひとつの拠点が誕生する予定です。その名も「ARITA HOUSE」だとか。この展開、すばらしいですね!

「NEW ADDRESS」、もとは魚屋を営んでいた古民家です。
2016年4月のミラノサローネでの「2016/ project」のお披露目に続いて、アムステルダム市内のRijksmuseum(ライクスミュージアム)での特別展覧会が決定していることも聞きました。2年ごしの開発を経ての完成に期待できると同時に、有田の今後そのものものにもひきつづき注目したい、大切なプロジェクトです。

Noriko Kawakami
ジャーナリスト
デザイン誌「AXIS」編集部を経て独立。デザイン、アートを中心に取材、執筆を行うほか、デザイン展覧会の企画、キュレーションも手がける。21_21 DESIGN SIGHTアソシエイトディレクターとして同館の展覧会企画も。
http://norikokawakami.jp
instagram: @noriko_kawakami