「鈴木マサルの傘 10周年」。アルテックとのコラボも。

マリメッコのテキスタイルデザインを手がけ、フィンランドのリネンブランド、ラプアン・カンクリのウールブランケットのデザインなど、広く活躍しているテキスタイルデザイナーの鈴木マサルさん。

自身のブランド「OTTAIPNU (オッタイピイヌ)」から発表しているものには、ファブリックのほかに時計やファッションも。2011年には傘のコレクションもスタート。毎年、新たなデザインが発表されています。

今週、9月16日より、Artek Tokyo Store(アルテック 東京ストア)でのイベント「鈴木マサルの傘 10周年」が開催に。Artek Webstore(アルテックウェブストア)での販売も始まります。

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かくたみほさん撮影のイベントビジュアル。photos: Courtesy of OTTAIPINU and artek

このデザイン・ジャーナルでは、これまでにも何度か鈴木マサルさんのデザインをご紹介しています。傘に関する以前の記事もありますので、興味のある方はこちらもご覧ください。

「表現したいものを自由に表現したい」と語り、鮮やかな色、伸びやかで大胆な柄、独特のユーモアにも満ちた世界でいつもわくわくさせてくれる鈴木マサルさん。

そのデザインは、カットしたり縫うこと、柄の一部がクローズアップされるなど、テキスタイルデザインの醍醐味を存分に味わうことのできるものばかりです。

一方で「傘」となると、独自の形や機能があるプロダクトです。傘のデザインはどのように進められているのでしょうか。テキスタイルそのもののデザインとは違ったりするのかな。気になっていたことを、本人に尋ねてみました。

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鈴木マサルさん。

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「私はいつも画面に収まるようなデザインにはしていないのですが、傘でも同様で、傘の8角形の画面に縛られることはありません」と鈴木マサルさん。

「また私の傘は『1枚張り』という技法でつくられているので、デザインがとぎれることなく一つの傘のなかで表現されることになります。テキスタイルのデザインと、傘のためのデザインと、基本的にはそれほど変わりはないんですよ」

なるほど。だからこそ傘のデザインでも伸びやかな柄が生きているのだと、大いに納得です。そうして生まれるデザインから、新作は4種類。それぞれに3種類のカラーバリエーションが用意されています。

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4柄各3種のカラーバリエーション。「kamaboko bambi(カマボコ・バンビ)」、スキップをするようなバンビの姿。¥13,000(税別)

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甲羅の模様が目をひく「naname turtle(ナナメ・タートル)」

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これまでに多くのデザインが誕生してきたオッタイピイヌの傘コレクション。コレクションはどのように始まったのでしょうか。

「10年前、実は、傘は私のなかで全くノーマークでした。現在も私の傘をつくってくれているムーンバットからのオファーがあったのが、傘のデザインのきっかけです。10年間、傘自体の形は変えることなく、テキスタイルデザインを変えることで、毎年つくり続けています」

「生地を使ってプロダクトをつくる時、基本的にはあくまでも生地がメインでありたいと考えているので、プロダクトの形は普遍的な、定番といえるものが私にとっては理想です。今思うと傘はそうした考えにとてもフィットするもので、思い入れの強いアイテムとなっています」

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「barcode pony(バーコード・ポニー)」。ポニーに縞模様。気になる。

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「ten panther(テン・パンサー)」、傘10周年、ヒョウにも「10」!

傘に登場するのは動物たち。私もフクロウとシカのデザインを愛用しているのですが、なぜ動物たちなのか、これもちょっと気になっていた点です。

「動物への興味は以前も今も変わらずではありますが、動物が好きという感覚ではないんです。多分、生き物の想像を超えるようなフォルムだったり、その形をとり込むことで伝達力がとても強いものになるという、存在そのものに興味があるのかもしれません」

「最近は、どの動物をというようにモティーフを決めてデザインを描くことをあまりしていないんです。傘の形に対してこういう色やフォルムが来てほしいということからデザインは進んでいって、できたフォルムからモティーフをあてはめるような感覚です」

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持ち手は木。折りたたみ傘もあります。

「これまでのデザインを改めて見返してみると、初期のデザインはモティーフをどう表現しようかと、絵やイラストレーション的な意識が強かったように感じます。最近では『模様』や『色』という意識がかなり強くなってきたように感じています」

「絵ではなく、モティーフでもなく、模様になることでデザインが人の気持や生活に入り込んでいく。あるいは色も、人の感情に変化をもたらすことができるんじゃはないかな。そんな風に考えています」

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アルテックとのコラボレーションも実現!

今回は、鈴木マサルさんとさまざまな面でつながりの深いフィンランドに生まれたアルテックの日本唯一の旗艦店であるアルテック 東京ストアが会場となっている点にも注目を。北欧やアルテックに対する鈴木マサルさんの想いも実に興味深いところです。

「私が初めて接した北欧家具はハンス・ウェグナーの『Yチェア』で、私にとっての北欧家具のイメージはしばらくデンマークの木工的なものだったんです。だから初めてアルテックの『スツール 60』を見たときには、何だかとても質素に感じました」

「でも、色柄の激しい北欧のプリント・テキスタイルに興味をもって、のめり込んでいくうちに、アアルトのシンプルな空間やアルテックの家具があるからこそ、ああした色柄のテキスタイルが映えるのかもしれないと思い始めて。そうしたらもう、完全にハマってしまいました……! 私自身の展覧会でも、数年前からカラーリングした『スツール 60』がたびたび登場しています」

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「Artek Tokyo with Masaru Suzuki スツール 60」

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今回のイベントではアルテックの家具とのコラボレーションもなされていて、特別バージョンが限定生産、受注生産で販売されます。「Artek Tokyo with Masaru Suzuki」として登場する「スツール 60」と「115 傘立て」です。

「素材を生かしたシンプルな構造とフォルムが、『スツール 60』や『115 傘立て』の魅力ですよね。同時にどんなものも受け入れる懐の深さも感じます。だからこそ、フィンランドなどではユーザーが思い思いにペイントしたりして楽しんでいるのでしょうね。今回は私自身がペイントを楽しむような気持ちでデザインしています」

「色が空間に、さらには生活に入ることで、いろいろなことが変わっていくきっかけが生まれると思います。カラフルな色をまとったスツールや傘立てが、そんなきっかけになってくれることを願っています」

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アルヴァ・アアルトの1933年のデザイン「スツール 60」。フィンランドのバーチ材を直角に曲げる技術「L-レッグ」が用いられたアルテックを象徴する一脚。その特別バージョンとなる「Artek Tokyo with Masaru Suzuki スツール 60」では、既存のカラーバリエーションより座面カラー4色選び、その色をを活かしたデザインに。40脚限定で販売。各¥43,000(税抜)

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曲げ木の技術「ラメラ曲木」が用いられた「115 傘立て」もアアルトの1936年のデザイン。写真は特別バージョン「Artek Tokyo with Masaru Suzuki 115 傘立て」。3色展開で受注生産。各¥78,000(税抜)

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雨の日、自分の太陽とともに歩く。鈴木マサルさんの傘を手に歩くたびに、私はそんな気持ちになります。鈴木さん本人は、「花」とのことばを使われていました。鈴木さんが書かれていた文章の一部もお伝えしましょう。

「10 年も続けていると雨の日に時々、街で OTTAIPNU の傘を見かけることがあります。自分で言うのも何なのですが、その風景がとても良いのです。

デザインが良いとか商品が良いとかそういうことではなく、雨降りのどんよりとした風景の中に目が覚めるような色や柄が、まるで花が咲いたようにそこにあることに、『良いなあ』と思うのです。使っている人も心なしか嬉しそうに見えます。気のせいかな。でも、自分自身が花になった気持ちになってくれていたらとても嬉しい。

街の中にポツポツと花が咲いているような風景を見たくて、私は傘をつくっているのかもしれません」

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「鈴木マサルの傘 10周年」
2020年9月16日(水)〜10月19日(月)
Artek Tokyo Store & Artek Webstore
東京都渋谷区神宮前5-9-20 tel : 03-6427-6615
営)平日13:00〜19:00(午前中はアポイント制)
土日祝日11:00~19:00 
休)火曜(9/22は営業)
変更があることもありウェブサイトで確認ください
https://webstorejapan.artek.fi
www.facebook.com/masarusuzukitextileでも情報紹介

Noriko Kawakami
ジャーナリスト

デザイン誌「AXIS」編集部を経て独立。デザイン、アートを中心に取材、執筆を行うほか、デザイン展覧会の企画、キュレーションも手がける。21_21 DESIGN SIGHTアソシエイトディレクターとして同館の展覧会企画も。

http://norikokawakami.jp
instagram: @noriko_kawakami

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