メディアアートの先駆者 レフィーク・アナドールとクレ・ド・ポー ボーテの出会いが生むアート。

今春までニューヨーク近代美術館(MoMA)で披露され、話題となっていた作品がありました。手がけたアーティストの名は、レフィーク・アナドール。その彼と資生堂 クレ・ド・ポー ボーテ のコラボレーションとなる作品が東京で目にできるという朗報が先日届きました。今週6月28日(水)より7月2日(日)まで、東京ミッドタウンの「アトリウム」での展示です。

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東京で披露される作品「UNSEEN INTELLIGENCE」の展示イメージ。40年以上に及ぶクレ・ド・ポー ボーテの肌細胞研究で解明した「肌の知性」が、AIを駆使したダイナミックなメディアアートとして表現される。Courtesy of Shiseido Company, Limited

レフィークの取り組みとはどのようなものか、まずはMoMAで展示された作品、「Unsupervised」に目を向けてみましょう。

「Unsupervised」は、レフィークのチームが設計した人工知能が、MoMAの膨大なコレクションからの18万点を撮影した38万枚の超高解像度画像を活用することで生まれた作品です。

個々の作品のデータに留まることなく、美術館ロビーを訪れる来館者の動きやその場の光や音、動き、気象データも取り込まれることで作品の表情は変容し続け、瞬時に、まったく新しい世界が創造されていきます。

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Refik Anadol「Unsupervised」。Courtesy of Refik Anadol Studio
2022年11月19日より2023年3月5日までニューヨーク近代美術館で展示。24×24フィート(約7.3×7.3m) の巨大なインスタレーション。

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Refik Anadol「Unsupervised」。Courtesy of Refik Anadol Studio
膨大なコレクションを人工知能が解釈。動きを止めない波さながらにリアルタイムのデータも取り込みながら展開される躍動的な作品が来館者の心をとらえた。

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Refik Anadol「Unsupervised」。Courtesy of Refik Anadol Studio

「記憶を未来につなげる方法を見出そうとした作品」と本人。MoMAが収蔵する200年に及ぶアートの歴史を再構築、そのうえで「これから起こるかもしれない世界」を、空想、幻想といった面も含めながら表現した作品は、展示期間中、来館者の想像力を喚起するものともなりました。

こうしたレフィーク・アナドールと、肌細胞の研究を40年以上重ねてきたクレ・ド・ポー ボーテ研究所との出会いとなる今回。アート、サイエンス、テクノロジー、さらには美の交差から誕生し、何百万、ときには何十億という膨大なデータが活かされるレフィークの表現は、今回どのような作品となって私たちの前に現われるのでしょうか。アート、デザインの新たな地平を体感できる機会としても気にならずにはいられません。

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レフィーク・アナドール。1985年、トルコ、イスタンブール生まれ。現在はロサンゼルスを拠点として絵画、彫刻、ライブパフォーマンス、インスタレーション等の作品を手がけ、世界的な賞を数多く受賞している。
photography: ©Serge Hoeltschi, Courtesy of Refik Anadol Studio

今回のプロジェクトについて、「肌自体に脳から独立した知性があることが発見されているということに感銘を受けた」と語るレフィーク。本人のことばをお伝えします。

「私たちとクレ・ド・ポー ボーテのコラボレーションでは、肌の知性と人工知能の類似点に着目しています。私たちのスタジオは常に『見えないものを可視化する』というヴィジョンを追求してきました」

「このことは、ニューラルネットワーク* を用いて人間の行動パターンや美的選択、感覚に対する理解を深める取り組みと似ています」

(*ニューラルネットワークとは、人間の脳の脳神経(ニューロン)のネットワーク構造を模した数学モデル)

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レフィークのスタジオ風景。「TED」で知られるTechnology Entertainment Design カンファレンスでの自己紹介時にレフィークは、「データを絵具に、思考を筆の代わりにして、人工知能に支援されて私は絵を描いています」と語った。
photography: Courtesy of Refik Anadol Studio

レフィークは、「クレ・ド・ポー ボーテの研究者は、肌の内部に存在する生命力、つまりもっとも大きな『考える』器官である肌の、目に見えないネットワークを追究しています」とも。

今回の作品は、肌がどのように外的要素に反応するのか、さまざまな刺激に関しても公開データと機械学習を通じての表現であり、AIを肌の働きを映し出す鏡として用いることで肌の知性を表現する試みとなるものです。彼にとっても刺激的な挑戦となったようです。

さらには「感銘を受けたこと」として、クレ・ド・ポー ボーテのサイエンスと肌の「輝き」との関係を挙げています。それらの輝きが人の感情や自らのとらえ方にも深く影響しているということに、レフィークは関心を寄せ、宇宙の輝きにも触れているほど。次のようにも述べています。

「私たちとクレ・ド・ポー ボーテのコラボレーションは、光を通して美しさを理解することにフォーカスしています。光は粒子や波長などさまざまな形状をとり、どのような外観にもなり得ます。この作品では、光を詩的に表現しました。それはAIが描き出す、自然界に見られる光の輝きや屈折、『知性のある細胞』が生み出す新しい美の彫刻であり、『見えない知性』が放つ美しさなのです」

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数百万にも及ぶデータを活用して「肌の知性」という目には見えない世界をアートとして可視化する。クレ・ド・ポー ボーテ研究所のデータに基づく物語は、2つのデジタルキャンバス上に描かれ、対話を続ける。

今回の作品を構成するのは2つのデジタルキャンパス。その一枚が表現するのは、肌が受ける悪い刺激についてで、紫外線量や環境汚染に関する世界の主要都市から収集したリアルタイムのデータから表現されたもの。もう一枚のデジタルキャンパスで目にできるのは、クレ・ド・ポー ボーテのサイエンスデータと肌の遺伝子ネットワークをもとに、輝きを表現した世界……。

「キャンパスの一枚では未処理のデータを、もう一枚ではリアルタイムでAIデータに変換するものを使用しています。これら2つの世界観の間に立つと、見えるものと見えないもの、物理と仮想、科学とアート、肌の知性とAIとの対話を感じとることができます」

「作品のテーマは、喜び、そして生きることの美しさや素晴らしさを表現すること。AIは私たち人類の鏡であり、人間の美しさを映し出す力があるのです。そして、ネガティブなことからさえも、美しさを生み出せることを示してくれます」

「見えないものを見えるようにしたい」と考え、肉眼ではとらえることのできない世界をダイナミックに描写し続けるレフィークの活動は、サイエンスとアートの新たな接点としても、いま最も注目したい革新的なものです。

さらには、現代を生きる私たちに新たな視点を提示してくれるものであり、感性や思考の可能性に対する深い問いとしてもなんとも興味深い……。クレ・ド・ポー ボーテとのコラボレーションは、まさに「宇宙」ともいってよいレフィークの表現世界の醍醐味とともに私たちひとに備わる「美」の奥深さを存分に体感できる機会となることでしょう。楽しみです。

「クレ・ド・ポー ボーテ×レフィーク・アナドール 
AIアート展『肌の知性』細胞がもつ神秘の力」
会期:2023年6月28日(水)〜7月2日(日)
会場:東京ミッドタウン アトリウム(東京都港区赤坂 9-7-1)
時間:11:00〜20:00(最終受付 19:00)、入場無料
https://www.cledepeau-beaute.com/jp/science-event-2023.html

text: Noriko Kawakami

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