ベンチ、ピクニックテーブル。屋外での時間を楽しむ家具。

屋外で過ごす時間が心地よい季節になりました。今回は発表になったばかりのオープンエア・ファニチャーをご紹介しましょう。

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photos : Kenta Hasegawa

「60年以上にわたってスチール(鋼材)を専門としてきた井口産業さんととりくんできた家具が誕生しました」。昨年11月にもこのデザイン・ジャーナルに登場いただいたDRILL DESIGN(ドリルデザイン)の林 裕輔さんと安西葉子さんからのご案内をいただきました。

南青山のギャラリー5610で先月、展示が行われたファニチャーブランド「highcollar」(ハイカラー)のコレクション。ギャラリー内でデザイン、開発プロセスを紹介する展示とともに、ギャラリー前のテラスや庭で、完成した家具のお披露目です。

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ギャラリー5610(www.deska.jpでの展示風景。ブランドのマークや会場ポスターなどのグラフィックデザインはデザインユニット、GOO CHOKI PARの石井 伶さん。

春の心地よい日ざしのなか、完成した家具に座っての取材の楽しいこと、うれしいこと……! オープンエア・ファニチャーの醍醐味をたっぷり味わえる時間となりました。

今回発表されたのは、「POOL(プール)」、「TERRACE(テラス)」、「CASCADE(カスケード)」の3つのシリーズです。

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井口産業の井口隆一郎さん(右)とドリルデザインのおふたり。インテリアスタイリストの作原文子さんが手がけたスタイリングも魅力たっぷりの展示でした。photo : courtesy of highcollar

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ドリルデザインの林さんが、デザインの背景について語ってくれました。

「機能を複雑にしてしまうことなく、また使う側がしくみを自由に活用して使える家具であるということをデザインの骨格としました。可能なかぎりシンプルに、最小限の部材で使いやすい家具を実現する、という考えです」

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こうして考えられたのが、中央から天板を支えるカンチレバーの構造を活かしたデザイン。それによって、ひと筆書きのようにシームレスにつながった全体のフォルムも特色となっています。

さらには、基本形を活かすことで2人掛け、4人掛け……とサイズバリエーションを用意できるデザインの発想も、構造からしっかりと考え抜いたデザインを実現しているドリルデザインらしい。

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スチールの丸パイプの曲げ加工を活かして、ひと筆がきで描いたような曲線が特色の「プール」シリーズ。座りたくなる美しいベンチ。

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「プール」のテーブルで、さらに話をうかがいました。

「さまざまな太さのパイプを準備することもでき、曲げ加工や溶接による造形など造形の選択肢が多くあるというのがスチール素材です。木をはじめ制約のある素材とは異なる特色ですが、かえって難しい素材ともいえます。そのなかで今回は、シンプルでアイコニックな家具にしたい、と、最初から考えていました」(林さん)

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シリーズのテーブル。「たとえば、テーブルにあわせて4人分の椅子を用意した場合、20本もの脚になってしまう計算ですよね。こうした脚をできるだけ減らしたかった」と林さん。座りやすいうえ、足元のスペースもゆったり。

「井口さんの技術でしっかりとした太さのパイプを曲げることもできるので、シンプルな構造のデザインに関して検討を重ねました。アウトドアで使われる家具なので、耐候性や耐久性の面からも多くの溶接加工はできるだけ避けたかった。また美しさの面からも、シームレスなフォルムがこのコレクションには向いていると考えました」

中央から天板が支えられたキャンチレバーの構造は、「テーブルと組み合わせて用いる椅子の脚の数を減らして、できるだけシンプルに」との発想からだそう。こうして生まれた、天板と椅子が連なる「ピクニックテーブル」タイプのフォルム。美しく、どこか親しみを覚える姿にも感じました。

そして、直線的なラインが特色の「テラス」シリーズ。

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「テラス」シリーズ。天板は幅43.6cm、73cmの2種類。

基本形でもあるコンパクトサイズの2人用テーブルと椅子は、住宅のベランダにも最適なサイズにまとめられていました。さらにはこの2人用ユニットを複数連ねた形で、4人掛け、6人掛けのテーブルと椅子が用意されています。

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2人掛けユニットのフレームを橋桁(げた)のように複数用いて天板を渡すことで、4人掛け、6人掛け……とサイズ違いの展開に。

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もうひとつが、「カスケード」シリーズ。テーブルとベンチをコンパスのように開閉して用いることのできる、回転折りたたみ式のデザインです。シンプル極まりない姿ですが、スペースを区切るパーティションを兼ねたテーブルとして用いるなど、さまざまに活用できそう。

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「カスケード」シリーズ。

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3シリーズとも、ベージュややわらかなグリーンといった空間に溶け込む色彩とアクセントカラーとなるイエローが用意されています。

「プロジェクト自体は5年ほど前から温めていて、4年前にはロゴデザインも決めていました。ドリルデザインに声をかけたのは2年前です。同じ展示会に参加することがあったり、以前からふたりを知っていたので、ブランドの立ち上げにあたって一緒に取り組んでほしいと思ったんです」と井口隆一郎さん。

「ハイカラーというのは文字通りシャツの高い襟のことです。日本には西洋から届いた文化をハイカラと表現して、日本の文化として育ててきた歴史がありますよね。このコレクションを通して、新しい発想の家具を広く発信していきたいと考えています」

林さんと安西さんは、「すごく楽しいプロジェクトでした!」と語ってくれました。「バリエーションの展開など、楽しみながら関わらせてもらいました。使う人の希望に応じることが可能なしくみをつくることができたのも、このプロジェクトの醍醐味です」

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この1年、カフェやレストランでも、オープンスペースの時間がより身近になりました。

かつて通り過ぎていた場所も、心地よい椅子やテーブルがひとつ置かれることで、立ちどまり、過ごすことのできる場所となります。ひと息ついたり、腰をおろしてメールを確認したり、読書をしたり、仕事をする場所にもなっていく……。オープンなスペースの家具や、身近な場そのもののデザインが、いま、とても気になります。

ところで、この展示がされていたギャラリー前の通りを昨日歩いていたら、エントランスのオープンなスペースに「カスケード」シリーズが使えるように置かれていることに気づきました。さまざまな場所で、このように美しく心地よいオープンエア・ファニチャーに出合えたなら、それはなんてうれしいこと……!
そんなわくわくする気持ちとともに、この文章を書いています。

ハイカラー
https://highcollar.tokyo

Noriko Kawakami
ジャーナリスト

デザイン誌「AXIS」編集部を経て独立。デザイン、アートを中心に取材、執筆を行うほか、デザイン展覧会の企画、キュレーションも手がける。21_21 DESIGN SIGHTアソシエイトディレクターとして同館の展覧会企画も。

http://norikokawakami.jp
instagram: @noriko_kawakami

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