鈴木マサルのテキスタイル展、会場は色彩に満ちて!

楽しみにしていた「鈴木マサルのテキスタイル展 色と柄を、すべての人に」。4月25日から5月9日までの開催予定でしたが、緊急事態宣言の発令を受け、残念ながら開催中止となってしまいました。

「展覧会の様子をレポートしてください」。デザイン・ジャーナルの読者からそんなリクエストをいただいていました。これはやはり、読者の皆さんと一緒に、会場の様子を目にしたい。鈴木マサルさんからお借りできた会場写真を、紹介されていた本人のことばからの抜粋とともにご紹介します。

210511-suzukimasaru-01.jpg鈴木マサルさんが配信されていたインスタライブが会場の空気を伝えてくれていました。コラムの最後に、インスタライブを視聴できるリンク先をご紹介します。

会場となったのは、東京ドームシティにあるGallery AaMo(ギャラリー アーモ)。鈴木マサルさんの活動を紹介する大規模な個展です。会場を入ると、高さ4m以上、幅8mもの巨大な新作タペストリー生地が目の前に。色彩の世界に入り込んでいくような、体験が用意されていました。

ここからは、本人の言葉とともに、会場を巡っていきましょう。

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「私がテキスタイルから離れられないのは、色や柄をテキスタイルという素材にのせた時の圧倒的な魅力ということに尽きます」

「空間に1枚テキスタイルを吊るすだけでその場所は劇的に変化します。さらにその生地にきれいな色や柄がついていたら効果は絶大。閑散とした空間もまるでハレの場になったかのごとく、華やかな空気に包まれます」

「きれいな色や柄は別になくても成立するものだけど、人の心に浸透するビタミンのようなものだと思います。そして人の気持ちを前に向かせてくれるものだと、私は信じています」

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「靴下に色や柄がある意味がどこまであるかと言われれば、そんなに必要はないかもしれません。一般的には白や黒の方がコーディネートしやすいし、着まわしもきくと思います。でもそういうあまり意味のないものにこそ、きれいな色や柄を入れたいと思っています。そういう意味のないものを身につけると、意味もなく楽しい気分になれると信じているのです」

「このソックスを履いて歩いたら、晴々とした気持ちになれると思います。何かあってうつむいた時にこのソックスが目に入ったら、気分もまぎれるのではないかと思います。きれいな色柄たちが、何か新しいことが起こるきっかけになることを願いつつ」

210511-suzukimasaru-04.jpgプロセスを披露する機会は稀な鈴木マサルさんだけに、貴重な制作過程の数々。

「手で描くことが好きです。絵具を筆にたっぷりと含ませて、ポタポタと垂れないように気をつけながら紙に筆を置くあの瞬間、たまらなくテンションが上がります。ペンタブレットも進化して概ね思った形が描ける時代ですが、自分では制御しきれないような絵具の気まぐれさが良いのです」

「私も普段は液晶タブレットを駆使して仕事をしています。でもそれはほとんどエスキース(下絵)どまりで、そこから先は紙に描きます。タブレットでの作業は構図やバランスの確認が主で、どちらかと言えば事務的な感じ。アナログで描いている時は紙にペンが擦れる音、振動、絵具の匂いや染み込んでいく感覚など、体全体で色々なことを感じながらの作業で理屈抜きに楽しいのです」

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デザイン・ジャーナルでもご紹介してきた鈴木マサルさんのブランド、OTTAIPNU(オッタイピイヌ)の傘。2011年から10年続けていて、雨傘は現在なんと122種類だそう。その全デザインが会場に。

「10 年も続けていると雨の日に時々、街でこの傘を見かけることがあります。自分で言うのも何なのですが、その風景がとても良いのです。デザインが良いとか商品が良いとかそういうことではなく、雨降りのどんよりとした風景の中に目が覚めるような色や柄が、まるで花が咲いたようにそこにあることに『良いなあ』と思うのです」

「使っている人も心なしかうれしそうに見えます。気のせいかな。でも自分自身が花になった気持ちになってくれていたらとてもうれしい」

210511-suzukimasaru-06.jpgアルフレックスの名作ソファ「MARENCO(マレンコ)」に 鈴木マサルデザインのカバーリング。下がっているのはOTTAIPNUのテキスタイル。

「フリーランスになったばかりの頃、仕事は一般的なカーテン生地のデザインが主で無地調のベージュやグレーの織物をたくさん作っていました。それはそれでとても楽しかったのですが、もともと影響を受けた北欧のカラフルなプリントテキスタイルへの想いを抑えられず、オリジナルブランドとしてオッタイピイヌをスタートさせて生地を作り始めました。2004 年のことです」

「当時はコンセプトなどを深く詰めて考えてはおらず、ほとんど衝動と勢いでスタートしたようなものでしたが『会社で何か嫌なことがあった時、帰り道に衝動買いしてしまうようなものをつくろう』とぼんやり考えていました」

「それはいまも変わっていません。理屈抜きに色がきれいで、柄が魅力的で、目に入った瞬間に心を奪われるようなテキスタイルを。そんなことを呪文のように呟きながら私はいまもきれいな色柄の生地を作り続けています」

210511-suzukimasaru-07.jpgバッグ、ふろしき、オリジナルテキスタイル。会場の最後まで心弾む構成に。

「2012 年に傘の展覧会を初めて開催した時に『持ち歩くテキスタイル』というサブタイトルをつけました。これは人の気持ちを高揚させるような色柄を人にいちばん近いテキスタイルという素材にのせて持ち歩き、いつも側において欲しいという想いからでした」

「カバンや風呂敷はまさに持ち歩くテキスタイルそのものだなといまになって思います。出かけるのが楽しくなるような色柄を纏ったカバンや風呂敷が、テキスタイルから生まれる様をぜひ」

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5月8日には会場でダンサーの森下真樹さんと鈴木美奈子さんによるパフォーマス「森下真樹と鈴木美奈子。色と柄と踊る。in 鈴木マサルのテキスタイル展」が行われ、オンライン配信がされました。展覧会が開催中止となってしまったことを受け、こちらも制作チームの皆さんが急きょ結集しての企画だったそう(このエネルギーもすばらしいなぁ!)。

色と柄に包まれた会場にふたりの動きや音楽も加わり、生命力みなぎる時間でした。なにより、色彩の祝祭感! ここのところ忘れかけていた空気や大切なことを思いだして、はっとさせられたり……。

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「さまざまなことが制限されて気分が沈みがちなこの時期に、気持ちが晴れ晴れするような色と柄のテキスタイルを、すべての人に」。鈴木マサルさんの言葉です。熱い想いが込められ、私たちへの贈り物のように作りあげられていた会場の空気は、これらの写真や以下の動画からも伝わってきます。

「鈴木マサルの テキスタイル展 色と柄を、すべての人に。」

www.tokyo-dome.co.jp/aamo/event/masaru_suzuki.html
会場ウォークスルー https://youtu.be/9gEuUGpCq6M
ダンスパフォーマンス https://youtu.be/7Ixmu9MlNjc

インスタトークライブのアーカイブは、鈴木マサルとGallery AaMoの公式アカウントより視聴できます。
Instagram:@masaru_suzuki_textile@gallery_aamo

※延期開催については未定ですが、決まりしだい、Gallery AaMoのホームページにて告知されるそうです。


鈴木マサルさんと企画してきた富山での展覧会が開幕します。

富山市内にあるD&DEPARTMENT TOYAMAのダイニングには富山もよう展のランチョンマットが登場するなど楽しい広がりも!

「鈴木マサルのデザインとみんなの富山もよう展
—暮らしにとけこむアート&デザイン」

会期:2021年5月19日(水)〜6月22日(火)
会場:富山県美術館 1階 TADギャラリー
https://tad-toyama.jp/exhibition-event/14774

photos:YOSHIHIDE MISHIMA(Styrism Inc.)

Noriko Kawakami
ジャーナリスト

デザイン誌「AXIS」編集部を経て独立。デザイン、アートを中心に取材、執筆を行うほか、デザイン展覧会の企画、キュレーションも手がける。21_21 DESIGN SIGHTアソシエイトディレクターとして同館の展覧会企画も。

http://norikokawakami.jp
instagram: @noriko_kawakami

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