マリメッコ、アラビアで活躍した石本藤雄の新作に出会う「ムスタキビ」

ヘルシンキに到着したのは1970年の冬の日。以来、その地を拠点として、マリメッコのデザイナーとして大活躍。同社を退職した後にはアラビアのアーティスト部門の一員として、陶の作品を発表してきた石本藤雄さん。

この「デザイン・ジャーナル」でも日本における展覧会の紹介を行ってきました。その石本さんが半世紀にわたるフィンランドから日本を拠点に。今春、アトリエを愛媛県松山市内に設けて、さらに意欲的な活動を展開しています。

石本作品を5年前から紹介しているブランド「Mustakivi(ムスタキビ)」も新たなスペースに移ってリニューアルオープン。今回はムスタキビの創業者であり、ディレクターを務める黒川栄作さんのことばとともに、興味深いこの場所を紹介しましょう。

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石本作品を紹介するギャラリーとしての機能とあわせて、石本デザインの品々の紹介、販売も。ムスタキビにはクリエイティブディレクターとして関わる石本さん。本人ディレクションの展示で作品をゆっくり目にできる。

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武末幸治 + E.P.Aの設計で今春竣工した上人坂テラスの1階にリニューアルオープン。
photography: Courtesy of Mustakivi

ムスタキビ誕生の背景には、黒川さんとフィンランド・デザインの出会いがあります。仕事で各国勤務をしていた黒川さんがフィンランドに滞在した際、美しい自然や人々のやさしさとともにフィンランド・デザインの魅力に強く心を打たれたそう。

帰国後もフィランドのデザインに造詣を深めていくなかで石本さんと出会ったのが、10年ほど前。公私あわせての交流を温めるなかで準備を進め、2017年、愛媛県松山市にムスタキビを設けました。このムスタキビというブランド名も、石本さんの創作です。黒川さんの「黒」と石本さんの「石」のフィンランド語、MustaとKiviを組み合わせた名前なのです。

石本作品の紹介のほか、石本さんが生まれ育った砥部の窯元をはじめ県内外のつくり手と協業したる品々が全国に発信されています。

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石本さんの代表作品でもある花々のレリーフ。

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先日始まった展示では、石本さんが近年手がけた作品とプロダクトをテキスタイルとともに紹介。このように、本人ディレクションの展示を日本で目にできる貴重な場に。
photography: Courtesy of Mustakivi

石本さんの愛媛時代にさかのぼり、1970年にフィンランドに向かうまで、さらにはヘルシンキでの創作の日々については、ムスタキビのホームページに連載中のコラムで、ぜひご覧ください。(石本さんの取材をもとに、そのテキストは私が書かせていただいています。リンク先情報を、このコラム文末に添えました)

そうした石本さんのこれまでとこれからがつながり、さらに広がっている状況に出会うことができるのがここ愛媛であり、ムスタキビなのです。

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愛媛の地で試作を手にする石本藤雄さん。photography: Courtesy of Mustakivi

「日常生活を大切にしながら長らくフィンランドに暮らし、活動を続けてきた石本さんとともに、改めて故郷である日本を見つめ直し、喜びのある日常につながるものごとを届けていきたいと考えています」と黒川さん。

「石本さんが生み出し見せてくれる美しさは、それぞれ自然につながっているものです。さらには愛媛のものづくりとも。人と自然が織りなす美しさを日々楽しめることを願いながら、つくり手とつかい手を結び、さらには多様で豊かな日本文化を未来へとつなげていいきたいと考えています」

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photography: Courtesy of Mustakivi

石本さんがフィンランド時代に手がけ長く温めてきたデザインも、順に実現されて、披露されています。

ひとつが、アラビア時代にろくろを用いて自ら制作を試みながらも、同社からの量産はかなわなかったゴブレット。洋の東西を結ぶかのような独自のフォルムと色とりどりの表情といった石本作品の醍醐味が、砥部の窯元との協働でかたちになったうつわに凝縮されています。

鉢や小鉢などバリエーションも豊かで、料理やデザート、フルーツを盛りつけるなど幅広く楽しめるうつわのシリーズです。ほかにも、石本さんがマリメッコ時代に描き、その後も大切に保管していた手描きデザインが、てぬぐいに……!

制作の一つひとつに徹底して情熱を傾ける本人の姿や、窯元の皆さんとの対話の様子も感じとれるものばかり。おおらかで温かな空気に包まれた石本さんの創造の世界が、これまで以上にのびのびとかたちにされていることも感じます。

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砥部焼でつくられた「ONNEA」、4180円〜。ONNEAとは「おめでとう」「お幸せに」を意味するフィンランド語。乾杯に用いるゴブレットに、まさにふさわしい名前。続く写真の品々と共に、それぞれムスタキビのHPより購入可能。

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ムスタキビ5周年を記念した新作てぬぐい。注染の技法で石本さんの手描きスケッチの美しい色彩が表現された。左から「SONO」「ISHI」「HANAMICHI」「GOSYUNEN」、各2200円。
photography: Courtesy of Mustakivi

「私自身がフィランド・デザインに魅了された理由を改めて振り返ると、人と自然の関係から生まれる豊かな生活によるところが大きかったと思います」と黒川さん。「自然に恩恵を受けた生活は日本にも共通するところで、日本で生まれ育ったからこそ気づけたことだったのかもしれません」

「地域ならではの魅力を広く伝えていくためにも、石本さんとの出会いを大切に、石本さんの視点を通して生活の喜びを見つけていただける場を育てていきたいと思います。対話を重ねるなかでの偶然から生まれ出るものも大切に、この地域から石本作品からつながっていく未来についても、考えています」

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カップ「TUULI」。3740円。フィンランド語で「風」という名。そよぐ草のデザインがマリメッコでの石本さんがデザインしたテキスタイルを思いおこさせる。

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1990年代にアラビアで制作していたプレートをもとに砥部焼の特色を生かして制作。「この皿で蕎麦を食べたいなあ!」という石本さんのことばから「SOBA」と名づけられた。TUULIを蕎麦猪口として組み合わせるのも楽しい。7480円、箸置き990円。
photography: Courtesy of Mustakivi

「石本さんは自分にとって、師ともいえる存在」と黒川さん。自身の創作活動を極めようとされてきたその活動はもちろん、制作に情熱を傾けている姿や会話からも考えるきっかけをいただいています。『出会ったことをとことん行えることは幸せなこと』という石本さんらしいことばもそのひとつです」

世界が注目する作家、石本さんの最新活動も、このコラムで改めて紹介していきます。

ムスタキビと地域のものづくりの場との密な関係から、さらにどのようなクリエイションが広がっていくのでしょうか。今後がますます楽しみです。

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photography: Courtesy of Mustakivi

Mustakivi
愛媛県松山市道後湯月町3-4
営)金曜〜日曜 11:00〜17:00
https://www.mustakivi.jp
石本さんのライフストーリーのコラムはこちらから。

 

text: Noriko Kawakami  

Noriko Kawakami
ジャーナリスト

デザイン誌「AXIS」編集部を経て独立。デザイン、アートを中心に取材、執筆を行うほか、デザイン展覧会の企画、キュレーションも手がける。21_21 DESIGN SIGHTアソシエイトディレクターとして同館の展覧会企画も。

http://norikokawakami.jp
instagram: @noriko_kawakami

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