イングリッド・ウンショールドがつくる、表情豊かなテーブルウェアと花器。

スウェーデン、ストックホルムを拠点とする陶芸家、イングリッド・ウンショールド。日本では初となるフルスケールの作品展が、レストラン RIVERSIDE CLUB(東京都目黒区)内にて10月2日まで開催中です。展示にあわせて来日していたイングリッドに話を聞きました。

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作品8シリーズを展示、販売中。photography: Hironori Tsukue

「大学で陶芸を専攻した後に就いたのはインテリアデザインの仕事でした。インテリアデザインもとても好きだったのですが、コンピュータに向きあっての作業時間が多くなっていって、ああ陶土に触れたい、この手でつくりたいという気持ちが高まっていったんです」

「インテリアと陶芸の双方を良いかたちで続けていけないかと考えたこともあったのですが、2020年のパンデミックのタイミングで思いきって陶芸に焦点を絞ることにしました。今は陶芸にこうして没頭できることを、とても嬉しく思っています」

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写真はいずれもRIVERSIDE CLUBで。photography: Hironori Tsukue

工房を設けたのは多くのアーティストやデザイナーが集まるセーデルマルム島。イングリッドの才能が一躍注目されることになったきっかけが「PINK ELEPHANT」でした。

「陶芸活動を本格的に始めようと決断したとき、活動していくために大切なことは何であるのか、陶芸家の友人に尋ねたことがありました。すると、『インテリアデザイナーにとって椅子が大事なように、陶芸家にはカップが大事だよ』と」

「2020年の春、世界は一体どうなるのか、この状態はいつまで続くのだろうと誰もが不安に包まれていたときのことです。私にとっての『カップ』とは何だろう? と考えを巡らせました。そして、キュートであるものを、私たちの心が安らぐ存在となるものを、つくりたいと思ったんです」

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The Pink Collectionから「PINK ELEPHANT」。photography: Hironori Tsukue

「ピンクの象が登場するスウェーデンの子ども向けテレビ番組を知っていますか? 私は子どもの頃から大好きで、今はふたりの娘と見ているのですが、その番組からインスピレーションを得たのが『PINK ELEPHANT』のシリーズです。この持ち手、象の鼻のようでしょう?!」

他にも棒つきキャンディに着想を得たというプレートなど、ポップな感性とユーモアが作品に結びついていることを知りました。そして手で触れてみると感じる、何ともいえない温かさ。

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Photography: Hironori Tsukue

もうひとつの代表作が「RILLA (リッラ)」。刻まれた何本もの線は、陶土をカットする際に用いるツールを活かしたものだそう。

「波状の凹凸パターンを底の部分につけたカップを制作していたとき、手にとる人々がなぜか底をなでていたんです。心地よさそうで、そうだ表面にパターンをつけてみよう、と考えました。表と底の面と、どちら側も使ってもらえるかたちにしています」

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「RILLA」シリーズ。 photography: Hironori Tsukue

曲線を描く線はどことなく自然の風景を思わせますが、「道具からの着想なので、具体的な造形を描いているわけではないんです」とイングリッド。けれど、だからこそさまざまなシーンを私たちに想像させてくれるのでしょう。

「日本の石庭のようだと言われることもあります。海底を思わせると語る方もいました」。「サイケデリックなパターンのようでもあるでしょう」との説明も新鮮でした。どこまでも自由な感性がイングリッド作品の醍醐味なのです。

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手前右、線が描かれた2枚が「RILLA」。手前左は、ストックホルムの人気レストラン「Restaurang OMAKA」のためのプレート。ビール醸造に用いられるモルト(麦)が印象的な模様に。photography: Hironori Tsukue

「FRECKLED (フレックルド)」、「そばかす」との名前がつけられたシリーズは、釉薬がもたらす繊細な色彩とパターンが特色。「ろくろで異なるかたちをつくる練習から生まれたシリーズです。同じ釉薬を異なるかたちで用いてみたり、焼成する温度を変えてみたり、さまざまに試している」とイングリッド。

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手前が「FRECKLED」シリーズ。photography: Hironori Tsukue

「完成形をイメージしてはいるものの、どのような表情になるのかは焼き上るまでわかりません。このことも制作に没頭してしまう点ですね」

机の上に並べられた多種多様な花器を前にしていると、今回の作品展を企画した机 玲子さんが語ってくれた次のことばを思い浮かべました。「均一性とは真逆の価値観。多様な人種や価値観が社会を形成する現代スウェーデンの姿を感じさせる作品です」

またスウェーデンの人々は、自宅の窓辺に思い思いの品々を飾ったり、花々を生けて楽しんでいます。11月から春が訪れるまでのあいだ、庭は凍てつき草花のない季節が続き、庭の花を一輪、というわけにはいかなくなります。「その間、表情豊かな花器が窓辺を彩ってくれるように」との願いも、本シリーズには込められていました。

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RIVERSIDE CLUBでの窓辺で。私たちも季節の花々を楽しみたくなってくる。photography: Hironori Tsukue

ところで、季節の花々が話題に挙がった際、イングリッドはスマホをとりだして撮りためた花々の写真を見せてくれました。「ストックホルムに春を告げる花がこれで、次に咲く花がこちら。次はこの花なのだけど、何というか、キュートじゃない花が多くって……(笑)」。ユーモアを交じえながら語る表情や元気な声にも引き込まれてしまいます。

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photography: Hironori Tsukue

今回の作品展を企画した机 玲子さんは、イングリッド自身の魅力があってこそ生まれる作品を日本に伝えたかったそう。机さんのことばも皆さんにお伝えします。

「イングリッドのスタジオを訪ねると、陶芸を満喫していて、つくることが嬉しくてたまらないという空気が伝わってきます」

「私がスウェーデンで暮らし始めたのは2年前、まさにパンデミックの最中でしたが、イングリッドのエネルギーに触れるたびに明るい気持ちになることができました。そうした作品を日本の皆さんに紹介したいと強く思ったのです。日本での次の企画も進めていますので、今後も楽しみにしていてくださいね」

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RIVERSIDE CLUBで。photography: Hironori Tsukue

スウェーデンのガラス作家、インゲヤード・ローマンが関わり、昨年秋にリニューアルオープンしたユールゴーデン島にある美術館 「Liljevalchs (リリエヴァルクス)」のミュージアムショップでの作品紹介でも注目を集めているイングリッド。「陶芸」の魅力をどのように感じとっているのか、改めて本人に尋ねてみました。

「陶芸そのものの歴史は長く、自分がそういう伝統の一部になれるということは嬉しいことですし、そのなかで自分の感性を表現できる活動は本当に楽しいものです」

「作品のストーリーは私から生まれ出るものですが、制作においてはディテールひとつをとっても時間がかかります。シンプルでありながらも奥が深い、そうした陶芸の世界にひかれています。かたちにしても、釉薬についても、土に触れながら制作するなかで、アイデアは次々と生まれています。無限の可能性があるので3倍の人生が必要(笑)……いえ、どんなに時間があっても足りないかもしれないわね!」

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photography: Hironori Tsukue

「スウェーデンの陶芸家  イングリッド・ウンショールド展」
2022年9月10日〜10月2日(日) 
RIVERSIDE CLUB、東京都目黒区青葉台 3-18-3
月:10:00-17:00、火〜金:10:00-23:00
土:8:00-23:00、日:8:00-20:00
https://theworks.tokyo/first-floor
イングリッド・ウンショールド
https://ingridunsold.se/
Instagram @ingridunsold
 
机 宏典
Instagram @tsukuese

photography:Hironori Tsukue, texte:Noriko Kawakami

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