銀座もとじ「HIRAKI project」、第1回は草木染×採石場のプロジェクト「FUYU」
デザイン・ジャーナル 2022.11.15
私たちの暮らしは、大地とのつながりや自然との関わりのなかで育まれてきました。その長い歴史を大切にしながら新たな可能性を探っていく、興味深いプロジェクトが始動しています。
銀座にある呉服店 銀座もとじの「HIRAKI project」。その第1回目となる「FUYU」の東京展が、11月17日から11月20日、「銀座もとじ 和織・和染」にて開催されます。紹介されるのは、染織と石、土との出会いから紡がれた作品です。
photography: Isao Hashinoki(nomadica)
HIRAKI projectを牽引するのは、銀座もとじ二代目で、先日、代表取締役社長に就任した泉二(もとじ)啓太さん。
「染織の伝統と文化に新しい風をとりいれ、柔軟な姿勢で変化をおこしたいと考えました」と泉二さん。今回は宮城県南部にある大蔵山スタジオとの取り組みです。大蔵山スタジオとは、特色ある表情をもつ伊達冠石(だてかんむりいし)の採掘元であり、加工や施工を手がけるアルチザンが集結する採石場。アーティストのイサムノグチも大蔵山の伊達冠石を好み、彫刻作品に用いていました。
泉二啓太さん。photography: Isao Hashinoki(nomadica)
「大蔵山スタジオの山田能資(たかすけ)さんは同世代で、私がロンドンでファッションを学んでいた時、山田さんもロンドンでデザインを学んでいたことを後に知りました。大蔵山に山田さんを最初に訪ねたのは5年ほど前のことです。大蔵山は約2000万年の歴史のなかで二度ほど海に沈んでいるそうで、一般的な山のイメージとは違っていました。まさに大地と自然の畏怖を感じる場でした」
「大蔵山スタジオでは、採掘場の跡地を再生させるだけではなく、その土地から産出した巨石を山の文化施設内にお祀りするなど、山全体を活用した取り組みを行っています。独自の表情をした石は長い時を経て風化し、土となって大地に還っていく。石の周りで、その現象が起こっています。山田さんと話をするなかで、『染め』ということばが挙がり、共同でのプロジェクトが始まりました。私自身、土を用いた染織の可能性を探ってみたいと考えました」
宮城県の大蔵山は阿武隈山系の北端に位置する里山。掘り出された石が土に変わりつつある様子も目にできる。 photography: Isao Hashinoki(nomadica)
プロジェクトに招いたのは、銀座もとじと以前から交流がある山崎広樹さん(1988年生まれ)。「草木染」の名を考え世に伝えた山崎 斌(あきら)氏を曾祖父にもつ染色家で、草木染にも取り組んでいます。
手仕事と自然との調和に取り組み、「土に還せる染色」を研究する山崎さんと、大地に還っていく大蔵山の石。この2つがつながりました。泉二さんもしばしば現地に足を運びながら、今回の発表まで2年が費やされています。
リサーチの記録から。掘り出された丸い石、大地そのものとなる切羽の光景など多様な表情を見せる大蔵山。それら石の表情を布に留める。自然界の力が移しとられる。 photography: Isao Hashinoki(nomadica)
銀座での展示に先がけるかたちで、11月3日〜6日には大蔵山スタジオ GALLERY LOCIでの展示が行われました。
悠久の時を経て石から土に還った大蔵寂土(さびつち)を山崎さん自ら採取し、その土で染織した布や、草木の色で染めた糸や布が展示され、パフォーミングアーティストの舞踊も披露。大地や自然の生命力の表われともなる色彩を感じ、人と自然の深い関係に触れることのできる作品展示の様子は、こちらの写真からも伝わってきます。
大蔵山スタジオGALLERY LOCI、山堂サロンでの展示風景。大蔵寂土を刷毛で染めた布地や草木染の布地から大地の感触が伝わる。エキシビションデザインは花道みささぎ流家元の片桐功敦。
今回染めた布地を用い、石舞台劇場で披露されたLee Miheeの舞踊。採石場にて原初の感覚がよび覚まされるような時が流れた。
「染織と採石場の出会いは異質に思われるかもしれませんが、私が常に大切にしている産地と産地との出会いや、伝統と新しいものとの出会い、産地に赴き、自分たちの活動やことばで伝えることをモットーとする活動のなかでは自然なことでした」と泉二さん。
左より、大蔵山スタジオの山田能資さん、山崎広樹さん、泉二啓太さん。
「伝統は時代の新しい空気が加わることで現在へとつながってきました。革新の連続です。私は、伝統工芸をもっと盛り上げ、これからの人たちに着物を知ってもらい日本文化に興味をもってもらうことを目的とした『啓(ひらき)のもとプロジェクト』を行ってきましたが、日本の染織文化を未来につないでいくうえで、正解はひとつではないことを実感しています」
「また、あらかじめ答が用意されているわけでもありません。だからこそ、新しい視点から伝統をとらえ直し、その可能性を各産地の人たちとともに探っていきたい。さまざまな産地と新しい時代の価値を考えていくことで、この先の100年、200年を探っていけるのではないかと考えています」
大蔵山の大蔵寂土や草木の色で山崎さんが染めた糸。美しい。
「たとえば鹿児島県奄美大島を産地とする大島紬は、明治時代に福岡の久留米絣から締機をとり入れることでそのベースをつくるなど、日本の伝統文化はそれぞれの時代で変化を遂げてきました。一方で、伝統は変えてはいけないという意識から柔軟に動くことのできなくなってしまっている現在の産地の状況にも出会います。染織の未来をひらくためにも、産地と産地の新しい結びつきといった可能性も探っていければと思っているところです」
「産地にとっても、関わってくれる作家にとっても、新たな表現が生まれていくかもしれません。今回、大蔵山スタジオとプロジェクトを行いながら、その可能性を改めて感じています。採石場と染織とは異なる分野ではありますが、ものづくりの根本のところでは同じ想いをもっています。引き続き、さまざまな産地に足を運びながら、新しい視点や考え方があることを皆さんと共有していければと思います」
銀座もとじ 和織・和染で紹介される山崎広樹作品。左:染九寸名古屋帯 草木染「柱状節理」。中:織着尺 草木染「寂土縞」。「山崎さんには、作家としてこれまでの枠を超えていただきたいとお話しました。織の着物の糸を染めてもらうのは初めてのことです」(泉二さん)。右:染九寸名古屋帯 草木染「稜線」。山のイメージ。
「FUYU」東京展の開幕を控え、熱く語ってくれた泉二さん。
染織を軸に据えながら、伝統文化の壮大な流れに触れ、考えを巡らせることのできる醍醐味に満ちたプロジェクトであることが伝わってきます。来春にはHIRAKI project第2回目の展示が行われる予定だそう。今回の「FUYU」はもちろん、今後にも期待が膨らみます。
2022年11月17日(木)〜11月20日(日)
銀座もとじ 和織・和染、東京都中央区銀座4-8-12
営業時間:11:00-19:00
11月17日(木)18:00〜20:00 レセプション
11月19日(土)には山崎広樹氏を招いてのギャラリートークを開催
10時〜11時、定員40名(無料・要予約)
https://www.motoji.co.jp
photographs: Courtesy of GINZA MOTOJI, text: Noriko Kawakami
Noriko Kawakami
ジャーナリスト
デザイン誌「AXIS」編集部を経て独立。デザイン、アートを中心に取材、執筆を行うほか、デザイン展覧会の企画、キュレーションも手がける。21_21 DESIGN SIGHTアソシエイトディレクターとして同館の展覧会企画も。
http://norikokawakami.jp
instagram: @noriko_kawakami