京都で開催された「跳躍するつくり手たち」展の会場をご紹介。

京都で3月より開催されていた展覧会があります。今月初めに閉幕してしまったのですが、展示の様子をデザイン・ジャーナルで目にできないでしょうか、というお声をいただいていました。その展覧会とは、京都市京セラ美術館 新館 東山キューブで開催された「跳躍するつくり手たち:人と自然を見つめるアート、デザイン、テクノロジー」展です。

同展を機に制作された新作が半数以上となり、90年もの歴史を誇る京都の美術館のリニューアルに際しての誕生が話題となった新館 東山キューブの空間を活かしたインスタレーションの様子も注目を集めていた展示です。その展示の一部を紹介します。

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日本庭園やその庭に面した通路部分でも作品を紹介。佐野文彦「集い合わさるもの」2023年。(作品について特記のないものはすべて作家蔵)
photography: Masaya Yoshimura, Courtesy of YYoneyama and Noriko Kawakami Office(他の会場写真もすべて)

じつは展覧会の監修を私が仰せつかり、2019年初めから同館と準備を進めてきました。自然環境の変化やテクノロジーと人間の新たな関係など、さまざまなことにこれまで以上にしっかりと向き合わなくてはならない時代を迎えていますが、だからこそ、ひとの創造の歴史を振り返り、この先に目を向けることの大切さがあると感じてきたことが、今回の私のキュレーションの背景にはありました。

展覧会名にある「つくり手たち」を、英語では「Visionaries」(ヴィジョナリーズ)、ヴィジョンをもった人たちと表現しました。このことばは、本展企画の最初から私の頭にあったことばです。英語での展覧会名は、「Visionaries: Making Another Perspective」、新たな視点をもたらしてくれる作家たち。

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東山キューブへ進む本館中央ホールでのサイン。本展グラフィックデザインは、参加作家と同じく「跳躍」するように活動中の野間真吾。

デザインやアート、工芸、伝統工芸といった領域の壁をとり払って、力強い活動を重ねている50代から30代のアーティスト、デザイナー、計20作家を選出しました。個人やすでに結成されているクリエイティブユニットをはじめ、この展覧会のために結集してくれたチームもいます。

京都市京セラ美術館の正面玄関から本館の中央ホールを進んでいくと、正面に、東山を背景とした日本庭園が現われます。その先が本展会場となった東山キューブ。展示の始まりとして紹介させていただいたのは、石やガラス、土、竹など、古来の素材を手にとり、それぞれの身体を動かしながら、現代の感性で表現している気鋭の作家たちの力作です。

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漆の作品は石塚源太「感触の表裏 #29」2023年。ロエベファンデーション クラフト プライズ 2019で大賞に輝いた作家。田上真也(陶芸)、津守秀憲(ガラス)、中川周士(木工)、西中千人(ガラス)、長谷川 絢(竹)の作品も集うコーナー。木を用いた解説パネルの一部や配した石は、本展展示デザインも手がけた佐野文彦による。

この「セクション1」の次での紹介は、今日の社会に向けた視線を作品として表現しているアーティストたちの作品です。

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岩崎貴宏の2作品。5隻の屏風のような作品は「Out of Disorder (Layer and Folding)」2018年。山あいから都市へと向かう風景とその地層。鉄塔や橋などは布から引き出した繊維でつくられている。壁の作品は会場を仕切った黒い壁を用いてこの場で制作された「アントロポセン」2023年。

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右側の壁に目[mé]の3作品。「アクリルガスT-1#17」2019年(札幌宮の森美術館蔵)、「アクリルガス T-2M#7」2021年、「アクリルガス T-2M#16」2021年(株式会社 資生堂蔵)。木の作品は佐野文彦「集い合わさるもの」2023年。

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「100年前と100年後をつなぎ、問う」として、京都のものづくりの歴史と今後にも目を向けた「セクション3」。展示したプロジェクトのひとつが、京都の伝統工芸を継承する6名によって2012年に結成されたクリエイティブユニット「GO ON」(ゴオン)による提案です。

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GO ON「100年先にある修繕工房」2023年。

彼らが「100年先の修繕工房」として考えてくれたストーリーが秀逸でした。100年先、京都市役所の最上階に「修繕工房」が設けられていて、あらゆる修繕を行う、というもの。「『修繕』とは、修理や修復のように直してもと通りにするだけでなく、 何かを加えてより良くすること」

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右側の壁にある作品が細尾真孝(細尾)「Unintended #1」。時代をわたった布を現代の目を持って分解、再構築する試み。

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小菅達之(公長齋小菅)「Remodelled Basket」。飲食店で5年ほど使われた竹のかごを革職人との協働で修繕。

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辻 徹(金網つじ)「Craftsman boom box」。1980年製造のラジカセを京金網の技術を用いて修繕。

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中川周士(中川木工芸)「木桶冷蔵庫」。廃棄予定だったペルチェ冷蔵庫の部品を移植し、木桶の卓上冷蔵庫に。

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松林豊斎(朝日焼)「修繕金彩 茶盌」。金彩という技法と低火度釉により、割れてしまった茶盌を修繕。

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八木隆裕(開化堂)「リメイク缶」。使われなくなった缶をもとに、開化堂の技術を活かす。

開化堂の八木さんは、クリエイティブディレクターの三田真一さん、ライゾマティクスの石橋 素さんと柳澤知明さんとのチームを結成しての作品にも挑んでくれました。1875年からつくられ続けている開化堂の茶筒。この先100年後、茶筒は「宇宙旅行を楽しむ人々が地球の重力を懐かしむおみやげになる」という、こちらも秀逸なストーリー!

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八木隆裕+石橋 素・柳澤知明 /ライゾマティクス+三田真一「Newton’s Lid」、2023年。無重力空間さながらに茶筒がさまざまに回転、その動きで蓋の開閉も。

最後の「セクション4」では、日々のリサーチに基づくデザイナーたちの問いかけをインスタレーションのかたちで紹介しました。デザインスタジオのTAKT PROJECT、宮前義之さんが率いるA-POC ABLE ISSEY MIYAKE、デザイナー 田村奈穂さんのインスタレーションをお伝えしましょう。

吉泉 聡さんを代表とするデザインスタジオ、TAKT PROJECTの大がかりなインスタレーションは、リサーチに基づく彼らの今の「問い」がインスタレーションとして表現されたものです。

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球体の作品は「glow ⇄ grow: globe」 。3ヶ月に及ぶ展覧会の会期中、館内でゆっくり育ち続けた。手前は「black blank」。黒い液体が満たされた池から塊が顔を出し、生きているかのように柱を昇っていく。デザインの大切な役割として「鑑賞者の心象を喚起すること」の重要性を探るTAKT PROJECTの実験ともいえる作品に人々は見入り、「不思議!」「おもしろい!」など感想を語りあっていた。

A-POC ABLE ISSEY MIYAKEの展示作品は、現代美術家 宮島達男さんとのコラボレーションで実現された「TYPE-II 004」を軸とするインスタレーション。「TYPE-II 004」は京都の伝統的な手捺染技術を応用した独自の制作プロセスが特色の衣服です。鮮やかな数字が浮遊し、明滅しているかのようにも感じられる空間が生まれました。

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A–POC ABLE ISSEY MIYAKE の最新プロジェクト「TYPE-II 004」、2023年。

そして、田村奈穂さんによる本展のためのインスタレーションは、田村さんがデザインした照明器具を用いたものです。

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田村奈穂、WonderGlass社「FLOW[T] 」2013-15年(WonderGlass社蔵)。日本初紹となる照明器具でのインスタレーション。この展覧会は空間全体でのサウンドデザインも特色だが「FLOW[T] 」のインスタレーションは特に音とともに楽しめる。サウンドデザインは本展空間演出の遠藤 豊(LUFTZUG)がサウンドデザイナーの畑中正人とコラボレーション。

ヴェネツィアの吹きガラス職人によるガラスを用いた照明器具は、ヴェネツィアの運河の水面が光をうけて輝きを放つように、光の表情を変えていきます。「早いスピードで動く現代では、立ちどまり、静かに考える時間が大切」と田村さん。展示では、展示空間の壁の一部を放ち、日本庭園が背景となっています。

「私の作品はいつも多くの『問い』から始まります」と田村さん。「問題を解決するための答はひとつではないと思っています。だからこそ、私はこう思うけれど、あなたはどう思いますか、というのが私にはとても大切なんです」。こうも語ってくれました。「デザイナーの仕事とは、考えるきっかけをつくること。明るい方法に歩いていける道筋をつくりたい」

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会場での田村奈穂さん。photography: Noriko Kawakami

20作家それぞれの視点があり、素材も表現方法ももちろん異なりますが、一人ひとりの躍動感が共鳴するかのように会場全体の空気が醸し出されていることを私自身も楽しんでいます。試み、跳躍するつくり手たちこそが、どのような時代であっても前へと進んでいく勇気や喜びをもたらしてくれる……改めてそのことを実感しました。

この展覧会カタログに寄稿いただいた生物学者の福岡伸一さんの文章も、最後に添えておきましょう。

「機械は、前後の延長を欠いた、ただの一点としての時間しか捉えられないが、人間の知性は違う。芸術の感性も違う。現在を点ではなく、未来と過去を同時に含んだ空間として考えることができる。その厚みのなかに、跳躍や運動がある。あるいは希望や悔恨がある。つまりそれこそが人間の心の動きというものだ」

「今回、ここに出展された作品はいずれも生命を含んでいる。生きているように見える。それはここに動的な時間が含まれているからだ」

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特別展「跳躍するつくり手たち:人と自然の未来を見つめるアート、デザイン、テクノロジー」。京都市京セラ美術館 新館 東山キューブにて、2023年3月9日(木)〜6月4日(日)と開催された。各作家のことばを含む展覧会カタログ(税別2700円)が美術出版社より発行になっています。
https://kyotocity-kyocera.museum/exhibition/20230309-20230604

photography: Masaya Yoshimura, Courtesy of YYoneyama and Noriko Kawakami Office text: Noriko Kawakami

Noriko Kawakami
ジャーナリスト

デザイン誌「AXIS」編集部を経て独立。デザイン、アートを中心に取材、執筆を行うほか、デザイン展覧会の企画、キュレーションも手がける。21_21 DESIGN SIGHTアソシエイトディレクターとして同館の展覧会企画も。

http://norikokawakami.jp
instagram: @noriko_kawakami

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