インスピレーションは「黒い森」。SPREADが関わったヘッドスパ・サロン。
デザイン・ジャーナル 2024.10.02
銀座に今春に誕生したヘッドスパ・サロン「Kläre(クレーレ)」。その空間は、深い緑に包まれたドイツの森と繋がっていました。
サロンのコンセプトづくりに始まり、ブランド全体を統括するクリエイティブディレクションを手がけたのは、国際的なデザイン賞にも輝くなど、活発な活動を展開している「SPREAD」(スプレッド)。山田春奈さんと小林弘和さんを主宰とする東京拠点のクリエイティブ・ユニットです。
ランドスケープデザインやグラフィックデザインの視点が生かされるSPREADのプロジェクトはいつも、丁寧なリサーチに基づく考察や色彩と造形の豊かな表現に特色があります。彼らが関わったヘッドスパ・サロンということからも、クレーレには注目です。
ふたりが関心を持ったと語る「クレーレ」独自のスカルプケア・メソッドの特色から、まずは触れておきましょう。
施術は、クレイパックやジェットピーリングによる頭皮クレンジング、そして最新技術の高濃度水素クレンジングで頭皮を健康な状態にするところから始まります。次に、エイジングケア成分「ヒト幹細胞培養液」を用いた同サロンオリジナルの高濃度ヒト幹細胞ヘッドスキンケアが。高品質の美容液が、最先端の機器で頭皮に丁寧に導入されていきます。
さらにハンドによる首や肩のリフレクソロジーや表情筋への働きかけにより、顔のむくみ改善やリフトアップ効果ももたらされる極上のヘッドスキンケア。現代人の頭皮、毛髪の悩みに応えるヘッドサロンメニューが用意されています。
技術に支えられたその施術内容はもちろん、心地よさをさらに高めてくれるのが、空間のデザインです。「クレーレ」とはドイツ語で「澄みきっていること」の意味。そのことばを大切にしたサロンのコンセプトは、「澄んで満ちる、頭と心」。
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SPREADの山田さんと小林さんのことばを引用していきましょう。
「私たちが関わったのはサロンのコンセプトをことばに凝縮する段階からです。施術はもちろんのこと、サロン滞在中の体験すべてを通して澄みきった状態になることと、五感や心が満ちること、双方が大切だと考えました。さらにサロンを運営される方々との話も重ねていく過程で挙げたのが、フローライトの石でした」
「青なのか緑なのか、繊細な色調の石で、香りも心地良い。光が透過するので透明感にも満ちています。フローライトをきっかけとして、この石が採れるドイツの『黒い森』へと私たちのインスピレーションが広がっていきました。森と湖、双方の色がフローライトには内包されています」
「複雑で簡単には言い表せない表情なのですが、森もそうですよね。すぐにわからない奥深さがあるところに私たちは魅了される。そうした深みの部分を持ちながらも澄んだ色彩の印象を、サロン全体で展開したいと思いました」
リサーチや撮影のために彼らが「黒い森」に滞在したのは、ちょうど1年前の秋のこと。
針葉樹であるドイツトウヒに覆われた山岳地帯、シュバルツバルト(黒い森)。酸性雨の被害で一度50%もの樹木が枯死してしまったが、豊かな状態を取り戻している。森と沼地の美しい風景が広がる。photography: Ooki Jingu, Courtesy of Kläre
山田さんと小林さんが振り返ってくれました。
「ヘッドスパに携わる方の話のなかで、頭皮は土に、髪は樹木に例えられていたことが印象的でした。実際に黒い森を訪ねて感じたのは、あたり一面を包んだ水分の存在です。長い滝もありました」
異なるデザインで仕上げられた3つのトリートメントルームには、それぞれ「ヴォーゲル(鳥)」、「ヒンメル(空)」、「ヴァルト(森)」の名がつけられています。それぞれに、「黒い森では水や石のリサーチも行った」というSPREADが作成した、ブルーグリーンを基調とするカラーパレットが生かされています。
トリートメントルームは3部屋。空間デザインは岡田哲史(岡田哲史建築設計事務所)。明治時代より数寄屋建築を手がける水澤工務店が施工を担当しているなど、サロンづくりに結集したメンバーも興味深い。photography: Ooki Jingu, Courtesy of Kläre
サロンに関しては、ロゴデザインを始めとするグラフィックデザインでもこだわりが。ロゴはドイツの古い筆記体のスタイルであるクレントシュリフトをリサーチしたうえでのオリジナルのデザイン。
「最先端のマシンを用いながらも、最終的には施術を行う人が重要です。現代社会における人の手について、またそうした手の跡を大切にしたいと手紙に着目し、サロンのショップカードやレターヘッドのデザインなどのすべてを大切にデザインしました」