『六本木六軒:ミケーレ・デ・ルッキの6つの家』が開催。

建築家、デザイナーのミケーレ・デ・ルッキ。彼の芸術作品となる「ロッジア」シリーズを初公開する『六本木六軒:ミケーレ・デ・ルッキの6つの家』展が、21_21 DESIGN SIGHT ギャラリー3(東京ミッドタウン・ガーデン)で開催中です。

涼み廊下、とも訳されるイタリア語のロッジア。風を通し、呼吸をするように光が透過する、屋根をもつ反屋外の開放的な構造物を意味します。人工的に生み出される住空間と自然界との間にあるオープンなスペースであり、自然とともにある空間です。

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6つの家(伊語でセイ・カーゼ)の初披露となる展覧会会場風景。photography: Masaya Yoshimura, Courtesy of 21_21 DESIGN SIGHT

建築設計やデザインの仕事とは異なり、プライベートワークとなるデ・ルッキの作品は、建築や人間に対する深い探求心から生まれています。興味深い本人の言葉から、一部を抜粋しましょう。

「ロッジアは人間と自然との、今後の関係を象徴する存在です。生活が営まれる建物内と外の環境、その間に橋をかけるこれらの作品を制作することを試みるなかで、ヨーロッパの文化、なかでもイタリアの文化と日本文化の間に橋をかけることにも考えが及んでいきました。西洋と東洋の間にも。すべては、こうした橋渡しが大切なのです」

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デ・ルッキ氏と「ブロンズ・ロッジア 3」 (2024) 。建築家、デザイナー、アーティストであり、プロジェクトを進めるAMDL CIRCLEを主宰。ドローイングやオブジェ、模型の制作はミラノとアンジェーラに設けられた工房で。photography: Masaya Yoshimura, Courtesy of 21_21 DESIGN SIGHT

デ・ルッキは1951年、イタリア、フェラーラ生まれ。1970年代から80年代、既存の考えの枠にとらわれることのない果敢な提案を繰り広げたデザインスタジオ「アルキミア」やデザイングループ「メンフィス」の中心メンバーとしても活躍しました。

メンフィスの活動をスタートさせた先輩デザイナーで20世紀デザインの巨匠でもあるエットレ・ソットサスとともに、デ・ルッキが日本を訪れたのはいまから40年以上前のこと。「1982年のことでした。そのとき三宅一生さんに初めてお会いしました」

三宅一生とデ・ルッキの年齢差は13歳、デ・ルッキは当時30代になったばかりの若さでした。両氏のあたたかな交流はその後も続き、互いの考えを交わす関係が育まれていきます。

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安藤忠雄建築において、インスタレーションとしての醍醐味も味わいたい。photography: Masaya Yoshimura, Courtesy of 21_21 DESIGN SIGHT

イタリアの建築・デザイン誌『ドムス』のゲスト編集長になったデ・ルッキが、三宅のプロジェクトを取材するために改めて東京を訪れたのは2018年。残念ながらふたりが直接会って、互いの想いを語りあった最後の機会となってしまいましたが、この時の会話が発展する形で、本展実現の運びとなったのです。

「友情です。今回の展覧会は、友情があってこそ実現したものなのです」。デ・ルッキは会場で幾度かそう口にしていました。ふたりのクリエイターの心や情熱が響き合うようにして実現した作品紹介の機会となったことも、本展ならではの背景です。

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台座はイタリアの家具メーカー、ユニフォーが本展のために手作業で制作。オーク材を酸化させた黒い色彩や生じた亀裂など、台座も魅力に満ちている。photography: Masaya Yoshimura, Courtesy of 21_21 DESIGN SIGHT

紹介されているのは、ロッジアの象徴的な形の表現となる6作品(6つの家)で、ウォールナット材とブロンズの作品が3作品ずつ。それぞれに、西洋の建築のようでもあり、茶室をはじめとする伝統的な日本建築のようでもあり......。洋の東西を超えて建築の普遍的な魅力そのものの探求となっていることに気付きます。

さらに感じるのは、デ・ルッキが大切にしているいくつもの点。まずは作品を形作る素材の重要性です。人類がまず手にし、永く用いている素材のひとつであり文明の礎ともなってきた木と、人間によって発見された地中の鉱物である金属。金属が木をより美しいものに加工する存在となってきたことにも彼は触れ、「木と金属の間の密接な関係」に目を向けていました。

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「ブロンズ・ロッジア1」(2024)。建築内部と外観を同時にとらえるためにも模型の制作は重要。しかしその一体性を形にする作業は複雑だ。photography: Masaya Yoshimura, Courtesy of 21_21 DESIGN SIGHT

そして、私たちの「手」について。「手を動かす瞬間というのは、脳と直接つながっている」と、彼は手の創造性を一貫して語ってきました。自身がドローイングや絵画の作品を手がけたり、自ら木を切り、削る作業を日々行っているのも、建築で表現しようとする概念の「より深いところ」に辿り着く上で、どうしても不可欠な過程であると認識してのこと。

以前にミラノのスタジオを訪ね、建築やプロダクトデザインについての取材をした際、「(建築やプロダクトデザインでも)第一段階ではすべて木を削って模型を作りながら検討しているんですよ」と工房を案内してくれたことも、私の心に強く刻まれています。

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「ブロンズ・ロッジア 2」(2024)、どの作品も、呼吸しているかのように光や風が通り抜ける。photography: Michele De Lucchi, Courtesy of 21_21 DESIGN SIGHT

さらにもうひとつ大切なこと。それは、ロッジアに象徴されるように、人と自然との関わりと、その未来について思考することの意義について。デ・ルッキは、三宅一生ともその重要性を語り合っていたと言います。

本展に際して本人は次のような文章も記していました。「自然の驚異的な力と人間のはかない本質を共存させるため、建築と人と自然との関係はますます重要なものとなり、私たちは生き方の新たなふるまいを模索する必要があるのです」

会場では本人のことばも収録されている作品制作過程の映像のほかに、ドキュメンタリー映像作家 ヴィクトル・コサコフスキー監督による、工房でのデ・ルッキの映像も紹介されています。場所は自然に囲まれたマッジョーレ湖畔、アンジェーラ。静謐な美しさに包まれた映像から、デ・ルッキという人物の創作への姿勢が静かに浮かび上がってきます。

「Loggia 387」(2015)、ウォールナット材。photography: Michele De Lucchi, Courtesy of 21_21 DESIGN SIGHT

デ・ルッキが大学卒業後に出会ったエットレ・ソットサスから学んだのは、建築家とは、ただ単に建築物のかたちをデザインするのではない、ということだったそうです。人間や世界を理解すること。人のふるまいをしっかり理解すること。そのうえで必要とされるものを丹念に研究し、形にしていく情熱こそが大切であるということを強く心に留めた、と。

そうした本人の想いのあらわれとしてのロッジアであることに、私自身も改めて考えを巡らせずにはいられません。さらには先日、会場で行われたトークイベントで話を締めくくった言葉も印象的なものでした。イベントのタイトルにもなっていた「Let's be Happy」との考え方......。

トークイベントでのミケーレ・デルッキ氏。photography: Kotaro Tanakachi, Courtesy of 21_21 DESIGN SIGHT

「不安の根源は未来にある、未来のことを頭から遠ざけることができれば心配なことは忘れることができる。そう述べていたのは作家のミラン・クンデラでした。けれど私が行っているのは(イタリア語の)プロジェット......デザインであり、デザインとは全身全霊で未来に飛び込むことを意味するものです」

「私にできることは、不安や心配のない未来を考えること。それだけです。自分に言い続けています。Let's be happy! と。将来について悲観的に考えるのは、意味のないことだからです」 

手を動かしながら続けられる、深い思索。問い、考え、その手や身体を動かしながら進み続ける人物の力強いメッセージが、6軒の「家」を介して伝わってきます。

『六本木六軒:ミケーレ・デ・ルッキの6つの家』
会期:開催中~10月14日(月・祝)
会場:21_21 DESIGN SIGHT ギャラリー3(東京都港区赤坂 9-7-6)
時間:10:00~19:00、入場無料
03-3475-2121
https://www.2121designsight.jp/gallery3/roppongi_rokken/
企画:ミケーレ・デ・ルッキ
特別協賛:株式会社 三宅デザイン事務所
技術協賛:UniFor

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