静かで熱い二人展
「CHE FARE(何をすべきか)」

クールなデザイナー、物静かなデザイナー、気難しいデザイナー、陽気なデザイナー。
デザイナーにも様々なタイプがいますが、世代の異なる「熱い」デザイナーの展覧会が、先週、開幕。1932年生まれのEnzo Mari(エンツォ・マーリ)。1963年生まれのGabriele Pezzini(ガブリエレ・ペッツィーニ)。パリ市内、Galerie Alain Gutharcが会場です。

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Photo: Gabriele Pezzini

会場から。テーブル上はエンツォ・マーリの名作のひとつで上下どちらの向きでも使える花器「Pago Pago(パゴ パゴ)」。イタリア、DANESE(ダネーゼ)社、1968年。

k1.jpgPhoto: ©Danese s.r.l(続く2点も)

マーリがダネーゼのために手がけてきたデザインは有名です。なかでも人気の高い名作『16匹の動物』、1957年。子どものための知育玩具で、今も引き続き生産。

k2.jpg建築資材のH鋼を曲げてつくったプレート。『PUTRELLA(プトレッラ)』、1958年。当時発表された3種のモデルのうち、写真のものは今でも購入可能(限定生産)。

k3.jpg昨年発売された新製品『ZIGGURAT(ジグラート)』は、カラフルなビーチ材のパズル。マーリのみずみずしい感性を感じます。上記の他、日本で手に入るダネーゼ製品情報はこちら。問い合わせ先:クワノトレーディング(TEL 03-5825-3053)。

この展覧会情報はガブリエレから届きました。まずはこのデザイナーの話から始めましょう。彼と初めて会ったのは7年前。ミラノを拠点とする写真家の友人から、「ちょっとおもしろいデザイナーがいてね」と紹介されたのがきっかけです。その後、フランス、サンテティエンヌのデザイン・ビエンナーレの取材で再会。彼は展示作家のひとりでしたが、会場で、デザイナーをとりまく状況や社会の話、問題点などを熱く語ってくれたのでした。

「なるほど、確かに同世代デザイナーにはなかなかいないタイプの、熱血デザイナーだ」。そう思い、以来、情報交換を続けるなかで、彼の作品集『Gabriele Pezzini -- The Warrior Designer』に序文を寄稿させてもらう機会ももらいました。(それにしても、初の作品集のタイトルがそのまま「闘うデザイナー」ですから......!)

その後、活動拠点をミラノからパリへ。2008年からは、エルメスのデザイン・ディレクターとしても活躍中です。エルメスがユーロコプターとコラボレーションしたヘリコプターのデザインにも関わりました(ユーロコプターの機体デザインそのものはなんと工業デザインの先駆者レイモンド・ローウィ。このヘリコプター、日本でも赤坂アークヒルズ〜成田空港を運行中です)。昨年発表されたエルメスの豪華ヨット「WHY ウォーリー・エルメス・ヨット」のデザインにも関わっています。

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Photos: Gabriele Pezzini(次も)

展覧会会場で目にできるエンツォ・マーリのデザイン。テーブル、「frate(フラーテ)」イタリア、driade(ドリアデ)社。1974年。時を超えて生きているデザインの良例です。

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ガブリエレ・ペッッツィーニのデザイン。手前から「Dancer(ダンサー)」、2004年、「Moving(ムーヴィング)」、2004年、「Wired Chair(ワイヤードチェア)」2003年。いずれもMaxdesign(マックスデザイン)社。

着実にキャリアを重ね、歴史あるメゾンでのプロジェクトに関わり、エルメスのシャツやセーターも粋に着こなすようにもなったガブリエレですが、自分の信念を大切に、それゆえに周囲に熱く語る「warrior(闘士)」ぶりは変わらず。そして今回、彼が敬愛するもうひとりの「先輩warrior」との二人展が開かれることになったというわけです。

さて、リリースに記された彼らの文章の、これまた熱いこと。まずは巨匠、マーリ先生の言葉から引用しましょう。

「デザインの本質に近いところにいる人々なら、世の中の製品の質がますます低下していることに気づいているはずだ。しかしながら今日、美術館、評論、意欲的な展覧会のどれにおいても客観的な批評を見ることができない。無意識の規律あるいは皮肉主義にけがされてしまった、伝統的で極端なマンネリズムが広まってしまっているからである」。
心のなかでつい「!」マークを添えながら読んでしまいます。背筋も伸びます。

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ガブリエレの最近の活動も添えておきましょう。「Orion Luggage(オリオン ラゲッジ)」、フランス、Hermès(エルメス)社。2009年。Photo: Coutesy of Hermès

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「Clarte(クラルテ)」、イタリア、Oluce(オールーチェ)社。2008年。Photo: Cortesy of Oluce

「今やその物本来の意味ではなく、商品であるがゆえに、世の無学で尽きることのない欲望を満たすべく見せかけることのみが求められている。デザインとは、つくり手、企業家、一般大衆という3者の存在が求められるものであるというのに。今日、アキッレ・カスティリオーニはどこにいるのか? アドリアーノ・オリヴェッティは? ブルーノ・ダネーゼは、一体どこにいるのか?」

カスティリオーニ、オリヴェッティ、ダネーゼは、デザイン史上とても重要なデザイナーや企業家の名前です。もはや彼らのようなデザインに対する良心や情熱を持ったつくり手や企業家は存在しないのか、と、巨匠は問うのです。

さらに巨匠は、デザイナーとしての責務を負いながら、プロジェクトにしかるべき時間を費やす重要性についても述べています。「具体的な結果をもたらすことができる企業家が、彼らの持ち味に少なくとも20%のユートピアを活かすことができるのなら、本当にすばらしい製品ができるのだが......」。そのことの困難さ、それゆえに、「変化」以外はありえないところまで来てしまっている、とも。

そして......「商品とは『デザイナー』と企業家との対話から誕生するものであるという点で、ガブリエレ・ペッツィーニと私の意見は一致したのである」。(おお、そうですか!)

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Photo: Philip Neufeldt

親子ほど年の離れたエンツォ・マーリとガブリエレ。ヴェルニサージュではさすがに激昂しての討論シーンはなく、にこやかな笑顔を。

まさに会うべくして出会った「warrior」2名。彼らが会い、意気投合したのは4年前、若手のデザインコンクールの審査会場だったそう。ガブリエレが振り返ります。
「確かなものがなにもない状況において、僕たちは、何をすべきか(CHE FARE)、という提起を口にしました。何かをしなくてはならないという熱意と約束が、その日の別れの挨拶に代わったのです」。

「僕は、エンツォが言うところの、『不幸にしてデザイン学校で学んだ』新世代デザイナーのひとりであるわけです。......この小さな展覧会で僕たちが試みたかったのは、各自の作品紹介だけでなく、共通のヴィジョンを持ち、同じ課題を議論する二世代の対比でした」。
「展覧会名にはあえて疑問符をつけていません。というのも、明快な答はたぶんないということを、僕たちは知っているから」。

それでも改めてこの言葉を発することを彼らは選び、展覧会名に思いを込めました。
静かな展覧会会場を満たすのは熱意。年のはじめに、デザイナーの真摯な投げかけです。

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Photo: Philip Neufeldt 休暇あけのギャラリー。ヴェルニサージュのにぎわい。


展覧会は2月20日まで。
Gallery Alain Gutharc
http://www.alaingutharc.com/


A design exhibition titled "CHE FARE" has just started at the Gallery Alain Gutharc in Paris. It will run until the 20th of February. This exhibition is focused on designers from two generations, Enzo Mari (born in1932) and Gabriele Pezzini (born in 1963). Che fare means What to do. In their press release, Mari says, "In our conversations, we have agreed upon the fact that a product comes to life in the dialogue between a 'designer' and an entrepreneur... A good product can be realized when a practical and efficient entrepreneur embraces at least 20% of Utopia... Gabriele Pezzini knows well that this happens very rarely so... But we have reached such a state of abjection that some kind of change, at least behavioral at first, may seem possible."
Pezzini says, "This is the exhibition to compare two generations that share a vision and discuss over the same issues. CHE FARE, the title of the exhibition, poses a clear question, although it does so without using the question mark, as we probably know there is no answer." However, both of them selected the words for their exhibition title. At the beginning of the new year, we can see a calm but passionate design exhibition in Paris.
text by Noriko Kawakami

Noriko Kawakami
ジャーナリスト

デザイン誌「AXIS」編集部を経て独立。デザイン、アートを中心に取材、執筆を行うほか、デザイン展覧会の企画、キュレーションも手がける。21_21 DESIGN SIGHTアソシエイトディレクターとして同館の展覧会企画も。

http://norikokawakami.jp
instagram: @noriko_kawakami

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