Emerging Energy
注目したいデザイナーは?
デザイン・ジャーナル 2010.02.23
「POST FOSSIL(ポスト・フォッシル)」という展覧会を準備中です。4月開幕です。
フォシルは「化石」、ポストは「次」。「ポスト・フォッシル」との言葉を考え、注目すべき気鋭デザイナーを「ポスト・フォッシル時代のクリエイター」と表現するのは、Li Edelkoort(リー・エデルコート)。「化石」の言葉には様々な意味が込められています。リーはトレンド予測の第一人者で、『View on Colour』『INview』『Bloom』等のエディターとしても活躍。ファッション、デザイン界の重鎮です。
そのリー・エデルコートを展覧会ディレクターとして招き、都内、21_21 DESIGN SIGHTで4月に開幕する展覧会の準備が佳境に入りました(21_21では2月、「クリストとジャンヌ=クロード展 LIFE=WORKS=PROJECT」が開幕したばかりです)。
Photo: Marie Taillefer
全身で時代の流れを鋭くとらえるリー・エデルコート。オランダ、アイントホーフェンのデザインアカデミーの学長を一昨年まで10年間務めた際には、感性や感覚を重視した独自のカリキュラムを実現。同校卒業生が活躍し始め、おもしろい状況になっています。
「明日のデザイナーは、未来を築くために、過去とどう向きあうのだろう?」とリー。
きれいなだけ、表面にちょっとだけ手を入れただけといった「デザインのためのデザイン」の時代は終わりを迎えている今、彼女が熱い視線を注ぐのは、私たちの生活のベースとなる地球を見直し、人類の歴史もふまえるようにしながら力強く歩む若手デザイナー。
「明日の、(原始家族)フリントストーン」。企画をスタートさせてすぐ、新世代のデザイナーをリーはそう表現していました。ポスト20世紀、ポスト化石時代のデザイナーに関する彼女の考えを聞くほどに、未来に向かう流れがどこかで石器時代を例とする原初的な世界のたくましさにつながっていることを感じさせられるのはおもしろいところ。
手吹きガラスやざっくりとした器。アルテ・ポーヴェラのアート作品さながらに、木や土など身近な素材を活かした品々。身近な素材といっても、若い彼らの問題意識が込められ、私たちが出会ってきた物とはどこか異なる魅力をたたえています。太古とつながりながら現代のメッセージがきらめいている。だからこそ私たちの心をとらえるのでしょう。
1980年スペイン生まれのナチョ・カーボネル。昨年のミラノサローネでもスパツィオ・ロッサーナ・オルランディで紹介されていました。今年の活動も楽しみな若手ホープ。
Photo: Nacho Carbonell Studio
ナチョの『Evolution Collection(エヴォリューション・コレクション)』より、「Lover's Chair」。進化形のラバーズチェアはなんと洞穴(洞窟?)チェア......!
力強いポスト・フォッシルなデザイナーのひとりが、Nacho Carbonell(ナチョ・カーボネル)。アイントホーフェンのアカデミーに学び、卒業後もこの街にスタジオを構えています。雑誌『Figaro Japon』2月5日号、今年の流行予測で私も「注目すべきデザイナー」として彼を紹介しましたが、他に類を見ない家具を生み出している、まさに鬼才。
たとえば上の椅子、「洞穴」部分に頭を入れれば、周囲を気にせず恋人たちの熱い語らいができる、というチャーミングな発想ですが、選択されている素材がちょっとおもしろい。鉄のフレーム、金網、新聞紙......。新聞紙(もちろんリユースの発想です)をペースト状にして形がつくられていたりするのです。ただの「洞穴」じゃあ、ありません。
あるいはロンドンを拠点とする実力派、Peter Marigold(ピーター・マリゴールド)。ちなみにナチョとピーターは、デザインの展示会「デザインマイアミ」で昨年の「デザイナーズ・オブ・ザ・フューチャー」に選出されています。デザインの行方を思考する専門家らにとっても、二人の視点やコンセプトの明快な品々はやはり気になるところ。
Photo: James Harris, Courtesy of Design Miami
1974年、ロンドン生まれのピーター・マリゴールド。ロンドンのRCA(ロイヤル・カレッジ・オブ・アート)ではロン・アラッドに学んでいました。
『Split Box(スプリット・ボックス)』。巧みな手作業から生まれるダイナミックで美しく、理知的な棚。ピーターも来日予定。展覧会会場での本人トークをお楽しみに。
デザインマイアミで昨年、「デザイナー・オブ・ザ・イヤー」に輝いたMaarten Baas(マーティン・バース)も忘れてなりません。すでに世界的な地位を確立している彼ですが、1978年生まれとまだ30代、さらなる活躍を期待したいホープ中のホープ。今回は「クレイ」シリーズの新作(色に注目を)とエスタブリッシュド&サンズの椅子を紹介予定です。
Photo: Frank Tielemans
マーティン・バース。このコラムでも以前に登場してもらいました。
Photo: Peter Guenzel
『Standard Unique』、エスタブリッシュド&サンズ。オランダの典型的なキッチンチェアをもとに、各々に16部材で構成される5種のデザインパターン。部材の組み替えで膨大な数のデザインバリエーションに。量産の手法ながら個性的な家具をつくる試み。
これまで日本で紹介される機会がなかったものの、今ぜひ出会っておきたい才能としては、ノルウェーを拠点とするTanja Saeter(タニヤ・セ--テル)も。ガラス素材を自在に扱う女性作家です。彼女の作品のひとつに「パーツの組み合わせ方によって、永遠に形を変え続ける」という考え方のインスタレーションがあります。発表のつど、生長しているかのようなガラスの造形。「Evolving(エヴォルビング)」、進化、という名の通りの作品です。他にも、オランダ拠点のBCXSYなど、気になるユニットも誕生しています。
Photo: Bo Mathisen
ノルウェーのデザイナー/アーティスト、タニヤ・セーテル。
Photo: Stig Marlon Weston
繊細なガラスのインスタレーション『Evolving(エヴォルヴィング)』。彼女も4月に来日予定。本人自ら会場でインスタレーション作品を手がけます。
リー・エデルコートが主宰するパリのTREND UNION(トレンドユニオン)やその日本オフィスの代表を務める家安 香さん、21_21の展覧会担当、蔵原藍子さんらとフル稼働で準備を進め、リーのディレクションのもと、9カ国を拠点とする66作家を決定。
家具の廃材で制作された2mにも及ぶ巨大ウサギのオブジェから手のひらサイズの作品まで、大小様々、展示は120を超える数となりました。その大半はヨーロッパより、現在、東京に向かっているところです。後日また改めて、準備の最新状況を紹介しましょう。
その前に......作品が無事に日本に到着しますように......。
Photo: Jakob Hohmann
まさに現代のフリントストーン・カップル?! アイントホーフェン デザインアカデミー卒業生のBCXSY(ボアズ・コーヘン&山本紗弥加)。写真に登場しているのが本人たち。
21_21 DESIGN SIGHT has been preparing it's next exhibition entitled "POST FOSSIL," inviting Li Edelkoort to be the exhibition director. She is a well known trend forecaster, curator, publisher and educator. The phrase "POST FOSSIL," is her own original creation and world view as well. She asks, "How will the designers of tomorrow look to the past in order to invent the future?"
We selected 66 designers and artists whom Li sees as "POST FOSSIL" creators, and in total, we will introduce more than 120 exhibited works. Now discover what is waiting for you... with the above pictures, I am introducing several participating designers and artists. This exhibition will start on the 23rd of April and it will continue until the 27th of June. I will be sure to continue to up date you as the exhibition date draws closer.
text by Noriko Kawakami

Noriko Kawakami
ジャーナリスト
デザイン誌「AXIS」編集部を経て独立。デザイン、アートを中心に取材、執筆を行うほか、デザイン展覧会の企画、キュレーションも手がける。21_21 DESIGN SIGHTアソシエイトディレクターとして同館の展覧会企画も。
http://norikokawakami.jp
instagram: @noriko_kawakami