種子、若芽、花、生命力。
セドリック・ブレナール展「iGrow」
デザイン・ジャーナル 2010.06.21
木
それは
たったひとつの種の
ゆっくりとした爆発
前回に続き、『ムナーリのことば』より、大好きな言葉を2つほど抜粋。自然についての巨匠の考えです。(『ムナーリのことば』ブルーノ・ムナーリ、阿部雅世訳、平凡社)
植物は
地球の真の住民だ
数も多いし
シンプルで
適応力も抜群だ
私たちは植物なしには生きられないが
植物は私たちなしでも
じゅうぶん生きてゆける
今回紹介するのは、若手写真家のCedric Bregnard(セドリック・ブレナール)。スイス、ジュラ地方に育ち、今はイヴルドン市に暮らす彼の作品は、植物や種子を大胆なクローズアップでとらえたもの。大きく引き伸ばされることで、さらに強い存在感を放ちます。
「生命はどのようにして潜在的生命力からほとばしり出るのか」。「人間は自然によって、自身の『自然』を思い出すことができるのか」。写真家セドリックがとらえるのは、自然のリアルなディテール。発芽、新芽、つぼみ、花、萼片や萼なども。
実は、様々な人とデザインについての話をするとき、自然の話になることが多いこのごろ。素材、構造といった工業デザインの話をしていたはずなのに、いつしか「生物、成長」といった言葉がとびかっている。先日も「野生、森、美」と盛り上がり、久しぶりに白山の小石川植物園に行きたくなってしまったほどでした。
野生のエネルギー、自然の神秘を口にするプロダクトデザイナーも、周囲には少なくありません。環境に順応し、生き残っていくための姿をしている植物の一面に触れながら、いつの時代も私たちを魅力する"彼ら"の生命力に目を向けているようです。
合理性や実存を重視したモダンデザインの世界では、プリミティブなもの、人がコントロールできないものは排除される傾向にあった......一昨年、「セカンド・ネイチャー」という展覧会をデザイナーの吉岡徳仁さんをディレクターに招いて企画した際、キュレーションチームで「自然の不思議」について議論を重ねたことがありました。
自然、そして自然を含む様々な状況をコントロールするべく考えられた技術。その2つを対峙するものと考え、生活の発展が目ざされたのが20世紀。けれども私たちは、魂といった理屈では説明しきれないものや霊性といったものにひかれ、想像を超える自然の驚異に心ゆさぶられる。人の心を動かす力って、何なのだろう、と。
まさに自然の奥深さと、そこに生まれ出る美の存在を教えてくれるセドリックの作品を、来週7月2日より、スパイラルガーデンで目にできることになりました。鑑賞できるのは6つのシリーズ、「Doors(扉)」「Amaryllis(アマリリス)」「Fly (飛行)」「Vital Energy (生命のエネルギー)」「Origin(源)」「Jungle(ジャングル)」。
小さな種子もつぼみも、見るほどに魅惑的なディテール。そこに科学と神秘が共存しているのです。自然と人間の関係に注目し、写真という表現を通して、人間の世界から植物の世界への通り道をさし出してくれるセドリック・ブレナール。彼の作品を前にすると、私の体が小さくなって、植物の世界を旅している気分にも......。
セドリック・ブレナール展「iGrow」
7月2日〜7月11日。入場無料
スパイラルガーデン(スパイラル1F)
11:00〜20:00
http://www.spiral.co.jp/
Noriko Kawakami
ジャーナリスト
デザイン誌「AXIS」編集部を経て独立。デザイン、アートを中心に取材、執筆を行うほか、デザイン展覧会の企画、キュレーションも手がける。21_21 DESIGN SIGHTアソシエイトディレクターとして同館の展覧会企画も。
http://norikokawakami.jp
instagram: @noriko_kawakami