Jens Fager(イェンス・ファーゲル)。
グリーンラインでスタジオ訪問
デザイン・ジャーナル 2009.11.24
再びストックホルムです。会いたかった若手デザイナー、Jens Fager(イェンス・ファーゲル)のスタジオを訪ねました。
最寄り駅は、私が滞在していた市内中心部から、南に向かうグリーンラインで30〜40分のよう。ですがグリーンラインは途中で行き先が分かれています。
朝一番のミーティング。寝坊しないように。乗り遅れないように。電車を間違えないように。少々緊張して出かけました。
路線地図を手に到着する駅名をひとつひとつ確認していると、ちょうど中間地点の駅まで来たところで、イェンス本人から電話がありました。
「スタジオの場所はわかりにくいので、改札まで迎えにいきますね」
気になる才能の持ち主は、気配りを忘れない好青年でもありました。
駅からスタジオに向かって、樹々に囲まれた住宅地を、しばし散策......。
イェンスのスタジオ横には公園。Photo ©Noriko Kawakami(他写真も)
「朝は雨だったのにいい天気になりましたね!」「雨だったんだ......」
聞けば、早朝ジョギングをしているそうで、ヴェネツィアのマラソン大会にも参加しているほどだとか。デザイナーと、ヴェネツィア・ビエンナーレじゃなくヴェネツィア・マラソンの話をするというのも、ちょっとおもしろい。
やがて話題は日本について。「実は僕、日本に留学していたことがあるんです」とイェンス。
「知らなかった。どちらに?」「東北芸術工科大学」「先生は誰でした?」「フリハタ先生です」「えっ、降旗先生?! 私も仕事でお世話になっています!」
ここでも再び、"スモールワード"を実感。ストックホルム、グリーンラインの小さな駅の周辺風景が、山形の風景と重なっていきます。「ストックホルムに戻るとき、先生に教えてもらったカンナを持ち買ってきた。他にも知らなかった木工道具がたくさん。日本の道具って、本当におもしろい」
作品をディスプレイすることもできる味があるスタジオエントランス。
醸しだされる独得の空気がある。そこが彼のデザインの大きな魅力。
朝一番のミーティング。スタジオ内は皆、忙しそうです。
さてどこで話をしようかな。そう言いながら、自作の椅子とテーブルを手際よく窓際に運んでくれて、あっという間にミーティングスペースをつくってくれました。
ざくざくっと木を削り出すことでつくられるイェンスの家具。素朴で強く、美しく、どこか懐かしく、現代的でもあり、洗練されている。そうした彼の家具を使いながらのミーティングです。なんて楽しいミーティング。そう思っていると今度は、シナモンの香りに包まれたペストリーを運んできてくれました。彼らしく、切り出した無垢の木に乗せて。
窓の外を眺めつつ、このテーブルを囲んでミーティング。スタジオの皆のデスク上には木の品々が多く目にできました。
すっきりとしたキッチンは白と赤。奥にあるトイレの扉はつくり変えたそう。
ペストリーとコーヒーを味わいながら、近況を教えてもらいます。そうそうこれも、と、棚からとり出して見せてくれたのは、テーブルウェアの試作品。市内のレストラン、「LUX」のためのデザインだそうで、大理石を削り出したような存在感ある大きさ。
美しい白と滑らかな表情は、なるほど料理のためのもの。その美しい曲線上に盛りつけられた料理を目にしたいし、盛られた料理を味わってみたい。そう思わせる力作です。
右上に置かれているのが「LUX」のためのテーブルウェアです。
こちらはまた別のプロジェクトのためのもの。
......とここまで書いていたら、横山いくこさんのブログで、市内のギャラリーでイェンスのテーブルウェア披露、という記事を発見しました。(私は残念ながらこの展示の前に帰国してしまいました)。そちらもあわせてご覧ください。
イェンス・ファーゲル。2010年の活動からも、もちろん目が離せません。
I would like to introduce the distinct young product designer, Jens Fager and his calm and beautiful studio in Stockholm. Jens got himself noticed as soon as he introduced his graduation works at Konstfack art school in Stockholm last year.
When I visited his studio, I could listen to his explanation about his previous works and ongoing projects. One of his new projects is the tableware for the restaurant LUX in Stockholm. He created a beautiful white dish for them (You can see its details in Ikko Yokoyama's blog).
Jens's designs lead me to notice several important things, for example, the relationship between people and natural materials around us, the relationship between our hands, tools and design; the history of the human creative spirit. I have to keep an eye out for Jens Fager in 2010.
text by Noriko Kawakami

Noriko Kawakami
ジャーナリスト
デザイン誌「AXIS」編集部を経て独立。デザイン、アートを中心に取材、執筆を行うほか、デザイン展覧会の企画、キュレーションも手がける。21_21 DESIGN SIGHTアソシエイトディレクターとして同館の展覧会企画も。
http://norikokawakami.jp
instagram: @noriko_kawakami