マリメッコを代表するデザイナー 石本藤雄さん。
描かれた花々と光、アラビアの工房でとりくむ作品
デザイン・ジャーナル 2012.06.13
東京からニューヨークに向かったのは1970年の夏。さらにモントリオール、ロンドンへ。
「ニューヨークはすでに知っている情報ばかりでしたけれど、ロンドンには驚かされました」
ストリートカルチャーが華やかな時代のロンドン。「なかでもびっくりしたのは、ピンク色のゴミ袋です...... このとき手にいれたゴミ袋、いまも持っていますよ」
「その後、デンマークに滞在するうちに、旅費として持参したおかねが減っていって......。でも、自分はやはりデザイナーとして働きたい、やはりmarimekko(マリメッコ)には立ち寄りたいと思い、フィランドに向かいました」
そうしたドキドキする話で幕をあけた、デザイナーの石本藤雄さんのトーク。
先月末、表参道のスパイラルで開催されたトークに、私も聞き手としてご一緒しました。
「マリメッコ」におけるテキスタイルプリントデザイナーとしての活躍で、世界的に知られる石本さん。ヘルシンキに暮らす石本さんの久しぶりの帰国となった今回、12月にスパイラルで予定されている個展についても、いち早くうかがえる機会となりました。
冒頭で書いたような旅を経て、ヘルシンキに着いたのは1970年秋。
マリメッコ創業者のアルミ・ラティアに会い、アルミの息子のリストマッティが設立したばかりの会社、ディッセンブレに入社。今ではマリメッコの定番となっているバッグのデザインに参画します。
念願のマリメッコ入社は1974年。この日のトークでは、当時の鮮やかな鳥と花のデザインから、作品紹介が始まりました。上の写真でスクリーンに投影されている「田舎道」。描かれているのは鶏と花です。ポーランドのある村の壁に大胆に描かれた花をデザイン誌で目にし、なんとポーランドにまで足を運んでデザインを仕上げたそう。
石本さんらしいデザインのひとつが、躍動的で大胆ともいえる筆致のパターン。一方、可憐な花もさまざまに目にできます。
1979年に発表され、大ヒットを記録した「マッタイラ」シリーズは、湿地の花々をイメージしたもの。日本の小紋や絣を思いおこさせる趣で、愛らしい花々が描かれています。
この日私が着ていたシャツワンピースは今年春夏のマリメッコのものですが、このファブリックが、ちょうどその頃の石本さんのデザインなのです。1978年デザインの「ヌルミッコ」(芝生)で、こちらも小さな白い花がちりばめられています。
アラビアのアーティストとして、陶の作品に取り組んでいる石本さん。日本でも2010年、スパイラルガーデンで作品が紹介されています。マリメッコの作品とともに空間に配された花のレリーフ作品と立体作品を、私は今も鮮やかに記憶しています。
花のレリーフ作品を手つくりはじめたのは23年前、アラビアのアーティストたちが洞窟(!)で展覧会を開いたときのこと。「ここに花を」と、陶芸レリーフの花を表現したことに始まったのだそうです。
「花のレリーフ制作では、まずは紙で下絵をつくります」
陶で表現される立体的な花々、黒、白といった色彩を活かした作品、月の光を感じさせる作品も新たに生まれています。「身のまわりのさまざまな現象に、興味があります」
「路地やその近くで、なにげなく咲く花にひかれる」との言葉も、私の心に強く響いたひとつでした。幼少の頃に日本で目にしたアヤメの花に。あるいはヘルシンキでは、通りでばったり出会うヒマワリの花に......。
他にも、控え室での雑談もあわせて、忘れられない話ばかりとなりました。
たとえば、工房に通うバスでは、座る位置があるのだそう。「窓から海を眺めます。冬になると流氷の表情は毎日違っていて、それを見ながら工房に向かいます」
石本さんが日々出会う空気や光、風の動き。季節の移ろい。
この日本や東京で、私たちもそれを感じられるかしら......?
目を閉じ、石本さんがこの日語ってくれたすてきな話を思いおこしているところです。
SPIRAL http://www.spiral.co.jp/
「ニューヨークはすでに知っている情報ばかりでしたけれど、ロンドンには驚かされました」
ストリートカルチャーが華やかな時代のロンドン。「なかでもびっくりしたのは、ピンク色のゴミ袋です...... このとき手にいれたゴミ袋、いまも持っていますよ」
「その後、デンマークに滞在するうちに、旅費として持参したおかねが減っていって......。でも、自分はやはりデザイナーとして働きたい、やはりmarimekko(マリメッコ)には立ち寄りたいと思い、フィランドに向かいました」
30歳のとき、リュックひとつで海外へ。帰国日はあえて決めていなかった。
そうしたドキドキする話で幕をあけた、デザイナーの石本藤雄さんのトーク。
先月末、表参道のスパイラルで開催されたトークに、私も聞き手としてご一緒しました。
「マリメッコ」におけるテキスタイルプリントデザイナーとしての活躍で、世界的に知られる石本さん。ヘルシンキに暮らす石本さんの久しぶりの帰国となった今回、12月にスパイラルで予定されている個展についても、いち早くうかがえる機会となりました。
冒頭で書いたような旅を経て、ヘルシンキに着いたのは1970年秋。
マリメッコ創業者のアルミ・ラティアに会い、アルミの息子のリストマッティが設立したばかりの会社、ディッセンブレに入社。今ではマリメッコの定番となっているバッグのデザインに参画します。
念願のマリメッコ入社は1974年。この日のトークでは、当時の鮮やかな鳥と花のデザインから、作品紹介が始まりました。上の写真でスクリーンに投影されている「田舎道」。描かれているのは鶏と花です。ポーランドのある村の壁に大胆に描かれた花をデザイン誌で目にし、なんとポーランドにまで足を運んでデザインを仕上げたそう。
マリメッコでは今も人気を誇る石本さんのデザイン。同社に在籍した2006年までの間、手がけたパターンは、300種にも及ぶとのこと。これは大変な数です。
石本さんらしいデザインのひとつが、躍動的で大胆ともいえる筆致のパターン。一方、可憐な花もさまざまに目にできます。
1979年に発表され、大ヒットを記録した「マッタイラ」シリーズは、湿地の花々をイメージしたもの。日本の小紋や絣を思いおこさせる趣で、愛らしい花々が描かれています。
この日私が着ていたシャツワンピースは今年春夏のマリメッコのものですが、このファブリックが、ちょうどその頃の石本さんのデザインなのです。1978年デザインの「ヌルミッコ」(芝生)で、こちらも小さな白い花がちりばめられています。
草や花が風になびく様子を感じるパターンも石本さんならでは。あるいは「マイセマ」(風景)では、12種のもの色彩が用意されています。躍動的な線と色で表現されていて、そのひとつひとつに、季節の風景が広がって見えるようです。
次の「休閑地」も私の大好きなデザイン。土地を休ませる目的で、何も植えずそのままにされている耕地なのですが、やがて草が育ち、花が咲く。自然の躍動感、生命力が一枚のファブリックに溢れています。石本さんのまなざし、そして美意識も......。
トークでは自宅の写真も特別に披露。この自宅から通っているフィランドの陶器メーカー「ARABIA(アラビア)」のアート・デパートメント・ソサエティ(アート部門)での制作についてもうかがえました。
アラビアのアーティストとして、陶の作品に取り組んでいる石本さん。日本でも2010年、スパイラルガーデンで作品が紹介されています。マリメッコの作品とともに空間に配された花のレリーフ作品と立体作品を、私は今も鮮やかに記憶しています。
花のレリーフ作品を手つくりはじめたのは23年前、アラビアのアーティストたちが洞窟(!)で展覧会を開いたときのこと。「ここに花を」と、陶芸レリーフの花を表現したことに始まったのだそうです。
「花は、自分にとって大切です」
「花のレリーフ制作では、まずは紙で下絵をつくります」
いままさに制作中の新作についても語ってくれました。
陶で表現される立体的な花々、黒、白といった色彩を活かした作品、月の光を感じさせる作品も新たに生まれています。「身のまわりのさまざまな現象に、興味があります」
「路地やその近くで、なにげなく咲く花にひかれる」との言葉も、私の心に強く響いたひとつでした。幼少の頃に日本で目にしたアヤメの花に。あるいはヘルシンキでは、通りでばったり出会うヒマワリの花に......。
他にも、控え室での雑談もあわせて、忘れられない話ばかりとなりました。
たとえば、工房に通うバスでは、座る位置があるのだそう。「窓から海を眺めます。冬になると流氷の表情は毎日違っていて、それを見ながら工房に向かいます」
石本さんが日々出会う空気や光、風の動き。季節の移ろい。
この日本や東京で、私たちもそれを感じられるかしら......?
目を閉じ、石本さんがこの日語ってくれたすてきな話を思いおこしているところです。
SPIRAL http://www.spiral.co.jp/
Noriko Kawakami
ジャーナリスト
デザイン誌「AXIS」編集部を経て独立。デザイン、アートを中心に取材、執筆を行うほか、デザイン展覧会の企画、キュレーションも手がける。21_21 DESIGN SIGHTアソシエイトディレクターとして同館の展覧会企画も。
http://norikokawakami.jp
instagram: @noriko_kawakami