「テマヒマ展」、8月まで開催中です。
来日したデザイナー、ハッリのお気に入りは?

都内で開催中の展覧会、「テマヒマ展〈東北の食と住〉」のご紹介を。展覧会のディレクションはふたりのデザイナー、佐藤 卓さんと深澤直人さん。さらにフードディレクターの奥村文絵さん、そして私も、各地リサーチにはじまる企画協力として参加しています。

th1.jpgPhoto: Noriko Kawakami

会場は21_21 DESIGN SIGHTです。デザインに関する展覧会施設で、いわゆるデザイン展とは異なる内容ですが、東北6県でつくられている品々を通して、自然環境と生活、日常の道具、食との関わりに目を向けたものです。さらにはそれらがつくられる「時間」について。

th2JPG.JPG「手間」「ひま」。どちらにも、何かをするのに必要な「時間」の意味が。Photo: Noriko Kawakami

じつは昨年末から今年3月頭まで、「食」と「住」2チームに分かれての現地リサーチを行い、合計で90か所近く訪ねました。このリサーチを通して知った生活の知恵、日々の暮らしや食を楽しむ工夫の数々を、会場では55のアイテムに絞って構成しています。

西部裕介さん撮影の制作の場や風景、職人さんの「手」の写真もぜひご覧ください。トム・ヴィンセントさんと山中 有さんのフィルム作品も、つくる作業、表情をとらえています。

th3.png「『テマヒマ展 〈東北の食と住〉』のための映像」より「りんご剪定鋏」(青森県弘前市) 。トム・ヴィンセント、山中 有。約5分のショートフィルム作品は7種類あり、全部で約30分。©Tom Vincent / Yamanaka Yu

フィルムに登場するひとりが、りんご剪定鋏をつくる田澤さん。鋏づくりは、鋼(はがね)の塊を熱してたたく作業の繰り返し。目で確認しながら刃を形づくっていきます。たたくことで2枚の刃が生まれ、鋏となる......工房で初めてその過程を見せていただいた時には、本当に驚きました。

リズミカルにクギを打ち、りんご箱を仕上げる青森の職人さんや、奥会津でマタタビ細工を続ける今年90歳の五十嵐さんも登場くださっています。糸の染めにはじまる会津木綿の工場では、大正時代の織り機が今も現役です。「食」では、笹巻、油麩、きりたんぽ......。

th4.JPGりんご剪定鋏、のこぎり、にんにくナイフ。影も楽しんでください。Photo: Noriko Kawakami

th5.jpg岩手県、鳥越地区の竹細工。緻密でリズミカルな編み目が美しい。Photo: Noriko Kawakami

展示台を含む空間構成は深澤さん。グラフィックデザインは佐藤さんで、天井から下がるバナーのデザインも佐藤さん。展示品の輪郭を表現したこのグラフィックは昔ながらの日本の文様や型紙を思いおこさせます。佐藤さんいわく、繰り返しの作業を表わしたもの、だそう。

会場の床に落ちる影とこのグラフィックの輪郭とのつながりにも、どうぞ注目を。

th6.JPG仙台、津軽、鶴岡、盛岡、角館、会津......各地の「駄菓子」。楽しいです。Photo: Noriko Kawakami

th7.jpgこちらは仙台駄菓子。Photo: Noriko Kawakami

さて、会場には、海外のデザイナーも多数いらしてくださっています。
この「デザイン・ジャーナル」にも何度か登場いただいているプロダクトデザイナー、ハッリ・コスキネンも来てくれました。

ヘルシンキを拠点として、テーブルウェアブランド、Iittala(イッタラ)のデザインディレクターとしても活躍するハッリ。フィンランドのログハウス、HONKA(ホンカ)の日本発表も抱えた多忙な東京滞在のなか、映像はすべてを、展示品もひとつひとつ見てくれて......。

「いいなあ!」。満面の笑みで特に長く目にしていたのは、私たちも出会ったときに「!」と興奮した青森の「ボッコ靴」でした。天然ゴムを素材とする作業用の長靴なんです。

th8.jpgお気に入りの靴を前に、嬉しそうなHarri Koskinen(ハッリ・コスキネン)。 Photo: Noriko Kawakami

温かく、雪のなかでも大活躍。1960年代から80年代までつくられていたこの靴を、祖父や祖父の世代の職人さんに教えてもらって復刻させた工藤さんは40代。店の仕事をしながら,自らボッコ靴をつくります。手作業のため、1日に仕上げられる数は2足ほどだとか。

「だから注文から1年待ちだったりするのだけど、熱烈なファンが本当に多くてね」。そうした説明を添えている間、ハッリはニコニコ顔で「いいなあ。すばらしいなあ。フィンランドでも役に立つなあ」。「そうそう、僕の足のサイズはね......」。えっ、注文しておいて、という意味? それともプレゼントとして待っているということかしら?!(笑)。

th9.jpgハッリの横は「凍り豆腐」。寒冷な気候を活かして豆腐をフリーズドライ、保存の知恵ですね。ハッリが暮らすフィンランドも寒さの厳しい地。両国の保存食の話題にもなりました。Photo: Noriko Kawakami

そんな楽しい(?)やりとりも含めながら、テマヒマの意味について、自然環境を活かしたものづくりの工夫について、話がはずんだこの日。

考えてみればもう長い間、私たちの生活は「できるだけ手間をかけないように」「便利に」と進んできたように思います。そのなかで変わらず時間をかけてつくられている品々には、やはり理由がありました。

たとえば、会場でも紹介している青森のりんご箱は、松が素材。松はりんごの色づきをよくするのだとか(現地の人々に話を聞くたびに驚くことばかり)。またこの箱は、市場(いちば)から回収されて再利用されています。つくる手間はかかるけれど、使われる時間も長い。

th10.jpg「凍(し)み大根」に「へそ大根」。大根はさまざまなかたちで東北の暮らしに浸透しています。Photo: Yusuke Nishibe, Courtesy of 21_21 DESIGN SIGHT

身近な素材と生活の知恵。テマヒマをかけたものづくりの醍醐味とは、素材に対しても、つくり方においても、無理をしていないことでもありました。また、このコラムで以前に「理(ことわり)を宿した美」と書いたことがありましたが、こちらも同じです。

それにしても「テマヒマ」の結果うまれた品々には、(何度見ても)わくわくさせられてしまいます。飾らない美はもちろん、心をとらえる魅力はどこから生まれるのかと、私はひき続き「テマヒマ」について考える日々......。ああ! また東北を訪ねたくなってきました。

120618kawakami.png「とらや × テマヒマ展」で誕生した和菓子。「味噌黒米餅」(左)には秋田の味噌が活かされています。とらや東京ミッドタウン店(TEL 03 5413 3541)で限定販売中。右の「ずんだ羹」は7月4日から。いずれも8月26日までの販売。Photo: Yusuke Nishibe, Courtesy of 21_21 DESIGN SIGHT

th13.jpg左奥の展示ケースに下がるのは「凍(し)みイモ」。ジャガイモをフリーズドライした保存法で、ニョッキのように調理し、砂糖をまぶして食べるのだそう。麩や凍み餅など、他の食材も会場でご覧ください。Photo: Yusuke Nishibe, Courtesy of 21_21 DESIGN SIGHT


「テマヒマ展〈東北の食と住〉」
8月26日(日)まで
http://www.2121designsight.jp/
展覧会HPで私の連載コラムも始まりました。


Noriko Kawakami
ジャーナリスト

デザイン誌「AXIS」編集部を経て独立。デザイン、アートを中心に取材、執筆を行うほか、デザイン展覧会の企画、キュレーションも手がける。21_21 DESIGN SIGHTアソシエイトディレクターとして同館の展覧会企画も。

http://norikokawakami.jp
instagram: @noriko_kawakami

Share:
  • Twitter
  • Facebook
  • Pinterest
和菓子
35th特設サイト
パリシティガイド
フィガロワインクラブ
Business with Attitude
BRAND SPECIAL
Ranking
Find More Stories

Magazine

FIGARO Japon

About Us

  • Twitter
  • instagram
  • facebook
  • LINE
  • Youtube
  • Pinterest
  • madameFIGARO
  • Newsweek
  • Pen
  • CONTENT STUDIO
  • 書籍
  • 大人の名古屋
  • CE MEDIA HOUSE

掲載商品の価格は、標準税率10%もしくは軽減税率8%の消費税を含んだ総額です。

COPYRIGHT SOCIETE DU FIGARO COPYRIGHT CE Media House Inc., Ltd. NO REPRODUCTION OR REPUBLICATION WITHOUT WRITTEN PERMISSION.