「テマヒマ展」、8月まで開催中です。
来日したデザイナー、ハッリのお気に入りは?
デザイン・ジャーナル 2012.06.18
Photo: Noriko Kawakami
「手間」「ひま」。どちらにも、何かをするのに必要な「時間」の意味が。Photo: Noriko Kawakami
西部裕介さん撮影の制作の場や風景、職人さんの「手」の写真もぜひご覧ください。トム・ヴィンセントさんと山中 有さんのフィルム作品も、つくる作業、表情をとらえています。
「『テマヒマ展 〈東北の食と住〉』のための映像」より「りんご剪定鋏」(青森県弘前市) 。トム・ヴィンセント、山中 有。約5分のショートフィルム作品は7種類あり、全部で約30分。©Tom Vincent / Yamanaka Yu
リズミカルにクギを打ち、りんご箱を仕上げる青森の職人さんや、奥会津でマタタビ細工を続ける今年90歳の五十嵐さんも登場くださっています。糸の染めにはじまる会津木綿の工場では、大正時代の織り機が今も現役です。「食」では、笹巻、油麩、きりたんぽ......。
りんご剪定鋏、のこぎり、にんにくナイフ。影も楽しんでください。Photo: Noriko Kawakami
岩手県、鳥越地区の竹細工。緻密でリズミカルな編み目が美しい。Photo: Noriko Kawakami
会場の床に落ちる影とこのグラフィックの輪郭とのつながりにも、どうぞ注目を。
仙台、津軽、鶴岡、盛岡、角館、会津......各地の「駄菓子」。楽しいです。Photo: Noriko Kawakami
こちらは仙台駄菓子。Photo: Noriko Kawakami
この「デザイン・ジャーナル」にも何度か登場いただいているプロダクトデザイナー、ハッリ・コスキネンも来てくれました。
ヘルシンキを拠点として、テーブルウェアブランド、Iittala(イッタラ)のデザインディレクターとしても活躍するハッリ。フィンランドのログハウス、HONKA(ホンカ)の日本発表も抱えた多忙な東京滞在のなか、映像はすべてを、展示品もひとつひとつ見てくれて......。
「いいなあ!」。満面の笑みで特に長く目にしていたのは、私たちも出会ったときに「!」と興奮した青森の「ボッコ靴」でした。天然ゴムを素材とする作業用の長靴なんです。
お気に入りの靴を前に、嬉しそうなHarri Koskinen(ハッリ・コスキネン)。
Photo: Noriko Kawakami
「だから注文から1年待ちだったりするのだけど、熱烈なファンが本当に多くてね」。そうした説明を添えている間、ハッリはニコニコ顔で「いいなあ。すばらしいなあ。フィンランドでも役に立つなあ」。「そうそう、僕の足のサイズはね......」。えっ、注文しておいて、という意味? それともプレゼントとして待っているということかしら?!(笑)。
ハッリの横は「凍り豆腐」。寒冷な気候を活かして豆腐をフリーズドライ、保存の知恵ですね。ハッリが暮らすフィンランドも寒さの厳しい地。両国の保存食の話題にもなりました。Photo: Noriko Kawakami
考えてみればもう長い間、私たちの生活は「できるだけ手間をかけないように」「便利に」と進んできたように思います。そのなかで変わらず時間をかけてつくられている品々には、やはり理由がありました。
たとえば、会場でも紹介している青森のりんご箱は、松が素材。松はりんごの色づきをよくするのだとか(現地の人々に話を聞くたびに驚くことばかり)。またこの箱は、市場(いちば)から回収されて再利用されています。つくる手間はかかるけれど、使われる時間も長い。
「凍(し)み大根」に「へそ大根」。大根はさまざまなかたちで東北の暮らしに浸透しています。Photo: Yusuke Nishibe, Courtesy of 21_21 DESIGN SIGHT
それにしても「テマヒマ」の結果うまれた品々には、(何度見ても)わくわくさせられてしまいます。飾らない美はもちろん、心をとらえる魅力はどこから生まれるのかと、私はひき続き「テマヒマ」について考える日々......。ああ! また東北を訪ねたくなってきました。
「とらや × テマヒマ展」で誕生した和菓子。「味噌黒米餅」(左)には秋田の味噌が活かされています。とらや東京ミッドタウン店(TEL 03 5413 3541)で限定販売中。右の「ずんだ羹」は7月4日から。いずれも8月26日までの販売。Photo: Yusuke Nishibe, Courtesy of 21_21 DESIGN SIGHT
左奥の展示ケースに下がるのは「凍(し)みイモ」。ジャガイモをフリーズドライした保存法で、ニョッキのように調理し、砂糖をまぶして食べるのだそう。麩や凍み餅など、他の食材も会場でご覧ください。Photo: Yusuke Nishibe, Courtesy of 21_21 DESIGN SIGHT
「テマヒマ展〈東北の食と住〉」
8月26日(日)まで
http://www.2121designsight.jp/
展覧会HPで私の連載コラムも始まりました。

Noriko Kawakami
ジャーナリスト
デザイン誌「AXIS」編集部を経て独立。デザイン、アートを中心に取材、執筆を行うほか、デザイン展覧会の企画、キュレーションも手がける。21_21 DESIGN SIGHTアソシエイトディレクターとして同館の展覧会企画も。
http://norikokawakami.jp
instagram: @noriko_kawakami