生命・宇宙・精神・科学......。
ゲルダ&ヨルクの詩的で神秘的な世界
デザイン・ジャーナル 2012.02.17
水戸芸術館現代美術ギャラリーで先週末に開幕した「ゲルダ・シュタイナー&ヨルク・レンツリンガー Power Sources----力が生まれるところ」。ゲルダとヨルクの大規模個展が日本で開催されると聞いて以来、とても楽しみにしていた彼らの新作。
Photos: Noriko Kawakami
個展の構想を進めながら、二人は1月に来日、水戸市内の一般家庭に1カ月以上滞在しながら制作に没頭してきたそう。スイスで用意されたものに加えて、この1カ月に「見つけた」ものも作品には含まれ、それも今回の個展の特色となっています。
会場ではまず、12台のテーブルが目に飛び込んできます。
『Nursery(苗床)』。インスタレーション全体から、育ち、枯れ......といった生命の大きな流れも伝わってきます。今回の展覧会会場は写真撮影OK。感じたことを写真で残す楽しみも。
「ゲルダ・シュタイナー&ヨルク・レンツリンガー--力が生まれるところ」展示風景
Gerda Steiner & Jörg Lenzlinger、Photos(上2枚): Keizo Kioku, photo courtesy of Contemporary Art Gallery, Art Tower Mito
「ミミズの心臓」、「宇宙の毛布」......わあ、これはおもしろい。地元で採集された「水戸の空っぽの家のにおい」なるものもありました。なかには「取りやめになった結婚式の招待状の端切れ」、「展覧会を見に来ない政治家のポケットの中のホコリ」なども!
身近にある「なんでもないもの」。個室形式の展示では、ゲルダとヨルクによる物語(説明)が添えられています。一見些細なものに潜んだ壮大な物語。奥の棚に並べられた多数の採集物には、ひとことずつタイトルが。気になるものがいくつもありました。
『Tear Reader (涙を読む人) 』は「涙の結晶」を顕微鏡で見る作品。涙は1日目に最初の結晶が見られ、1週間後に結晶が「見ごろ」となるのだとか。ケースにすでに収められていた何名かの涙を顕微鏡で見てみると、美しく、幻想的な一つひとつの世界を知ります。
ガラスのプレパラートを持ち帰り、自分の涙を採集してくることも可能です。
そして、来場者が歓声をあげていたのが、『Lymphatic System(リンパ系)』。寝そべって観賞する作品のひとつです。見上げると、ゆっくりと静かにオブジェ内を循環する水の動きとともに、大小さまざまなものたちが......。
この内側に驚きが。
リンパ系は身体の免疫をつかさどる器官。放射線の影響を最も受けやすい部位でありながら、実は私たちがよく分かっていないのも、このリンパの働き......。この作品でリンパ系の役割を感じ、身体の機能に意識を向けてみる。「生命の力」がそこに宿っているということを実感してみよう、というゲルダとヨルクの想いが込められていました。
風に揺れて、かすかな音をたてる銀色のスクリーン。少し離れた作品からヨーデルの音色も聞こえてくる幻想的な会場で、頭上に広がる壮大な宇宙のような"リンパ系"を眺める。
よく見ると「あれ?」と思う不思議なものたちも。カエル? も浮かんでいたり。
「水」の要素が全体に貫かれていることも、興味深い点。生命に深く関連する水、身近な水。美術館のある水戸という地名にもちなんでいるのですね。
ウォーターベッドに寝そべり、水の存在を全身で感じながら、カーテンに投影される水中の微生物に包まれる『Microcosm(小宇宙)』という作品も。クッションが動くと「ポコポコ」という水の音が身体に響いてきて、なんだか自分も微生物の一員になった気分......。
小宇宙への誘い。涙の結晶を観賞する作品ともつながっています。
「とても身近なところからね。バクテリアはあちこちにいて、パンも食べるからね」
そんな返答とともに、ヨルクはさらに女の子にこんな説明を。
「バクテリアというと、病原菌を媒介する悪者と思われがちだよね。でもね、人間や生き物の始まり、僕たちの仲間なんです。あそこにある『小宇宙』という作品も見ましたか?」
「はい」
「投影しているのはライン川の微生物なのですが、人間の生命のはじまりは、こうした微生物。彼らがいなかったら、僕たち人間はいなかったんだよ」
「へえ......!」
ゲルダとヨルクが用意してくれた様々な世界との出会い。その驚きや楽しさは、もちろん私たち大人にとっても同じこと......。
『Logic of Beauty(美の論理)』。ヨーデルの革新者ノルディ・アルダーによる、このために特別録音されたヨーデルが流れるなか、ブランコにのって、変化していく映像を観賞。
『Walking Bushes(歩く茂み)』。屋外には、体験しながら広場を散策できる作品も。
全身の感覚や想像力を活かしながら彼らの世界を訪ねる時間とは、感覚の回路を開く旅。ぜひ楽しんでみてください。5月6日までの開催です。
「ゲルダ・シュタイナー&ヨルク・レンツリンガー
Power Sources ---- 力が生まれるところ」展
水戸芸術館現代美術ギャラリー
5月6日(日)まで
http://arttowermito.or.jp/gallery/gallery02.html?id=115

Noriko Kawakami
ジャーナリスト
デザイン誌「AXIS」編集部を経て独立。デザイン、アートを中心に取材、執筆を行うほか、デザイン展覧会の企画、キュレーションも手がける。21_21 DESIGN SIGHTアソシエイトディレクターとして同館の展覧会企画も。
http://norikokawakami.jp
instagram: @noriko_kawakami