スソアキコの帽子「Primal Form」
新作ほか、久家靖秀の写真と展示
デザイン・ジャーナル 2011.02.03
子どものころ、帽子には不思議な力があると信じていました。ダンディなボルサリーノ、ドレスアップの可憐な帽子......どれも特別ななにかが潜んでいる、と。フェルトや毛糸の帽子をかぶり、私は思っていました。子どもの帽子だって魔法の力を発揮してくれるはず。それに「頭」のための造形というのが、ちょっとミステリアス。
大人になってからのことです。1月のある日、ニューヨーク、ソーホーに暮らす、友人の親戚という方のディナーに招かれました。その「親戚」は有名なアーティスト。長いテーブルをぐるりと囲んだのは、彼の友人と著名な美術館の著名なキュレーターたちです。
私の正面の席は年上の美しい女性。頭に花一輪......と、生きたオウムが一羽! 髪飾り、帽子代わり? オウムも不思議な力を生むのかな? 芸術論が飛びかう席で私は、頭の骨が伸びてそのままオウムになってしまったような、彼女の頭が気になって、気になって。
「Primal Form」。Design: Akiko Suso, Photograph: Yasuhide Kuge
今回は「頭」に関するクリエイションを紹介します。帽子デザイナー、スソアキコさん。スソさんの作品が「TIME & STYLE MIDTOWN」で展示されています。
テーブルやソファ、ベッドなど、タイム アンド スタイルの家具のなかに帽子が点在し、この場でないとありえないインスタレーション。久家靖秀さんの写真もあわせて展示されていて、帽子の生命観がいっそう強く伝わってきます。
TIME & STYLE MIDTOWN で。10年以上前にお会いして以来、気になるスソ作品。写真家の久家さんとはデザイン誌の連載でご一緒にさせていただいたことがあります。クールに対象に迫る久家写真の、私もファンのひとり。Photograph: Yasuhide Kuge
作品趣旨の段階からすでに独特の魅力を放つスソ作品。以前に読んだ本人の文章も忘れられないものでした。「最近たくさんの縄文土器を見ました。複雑にからみあった文様はそのまま帽子のカタチになっていくような気がしました。くるくるくるりと......」。
活動に一貫しているのは、「頭蓋骨まわりのできごと」。
1997年より「スソアキコの帽険」として、「貝になった頭」「蛹(さなぎ)化する頭」」「卵を孵化させる頭」などのタイトルで、頭蓋骨の変形や変化をテーマにした作品にとりくむスソさん。2010年にはパリコレクションにも作品を提供しています。そこから、新作「Feeler」が生まれることになりました。「触覚を持つ頭」のイメージだそう。
久家靖秀「Primal Form」。Photograph: Yasuhide Kuge
「自分がなぜこのような作品群をつくるに至ったか、その想いを振り返って考えてみると、それは古代への興味や、類人猿からヒトに至る進化過程でのからだ、特に頭の変化・変貌への関心からきているのだと思います」とスソさんは言います。
「ヒトの頭蓋骨のかたちはもっとバリエーションがあったのではないか?」
「その種は何かの原因で滅んでしまい、痕跡がないだけではないか?」
かくしてつけられた作品のシリーズ名は、「Primal Form」。Primal(プライマル)とは、はじめの、第一の、原始の......を意味します。
奥は「ワタボウシ」、手前は「Feeler5」。
「PURAL HEAD」「Moss」「Feeler」......。Design: Akiko Suso, Photograph: Yasuhide Kuge
「日本人の頭蓋骨は少しずつ小さく、幅が狭く奥行きは増しているようです。たった20年ぐらいでそう感じるのだから、数百万年のひとの進化の過程で、とんでもない形態変化があったとしてもおかしくはないでしょう。たとえば、生息のために殻や角(つの)や触覚を持ったひとがいたとしても」
頭蓋骨そのもののかたち! それを、観るだけのオブジェではなく、実際にかぶれるものとしてつくりあげる。それがスソさんの表現なのです。
「PURAL HEAD(さなぎ化する頭)」「Hatching Head(卵を孵化させる頭)」「Moss(コケ)」と、それぞれに特徴がありますが、なかでも気になる新作、「Feeler(触覚)」。触覚がそのまま大胆に伸びてしまったような印象も。
「蝶、くらげ、カタツムリ......など、地球には触覚を持っている生物が多種多様にいますが、ひとはそれを持っていません。が、ひとの長い進化の過程のなかで、もしかしたら......ということを考え、想像しながら新シリーズをつくりました」
手前は「Feeler3」。
「Feeler2」(手前)。帽子、写真は購入できます。「観ているだけではわからない感覚を味わって確かめてもらうことに意味があると思っています」とスソさん。「店内スタッフに声をかけ、ぜひかぶってください」。Design: Akiko Suso, Photographs: Yasuhide Kuge
自分の頭そのものが育ち、広がっていくようにも感じる躍動的な形や色。とてつもない生命力を予期させる造形の数々。手にとったときに身体がざわつくような楽しい感覚。
頭、頭蓋骨、身体のかたち、発達する触覚。やはりどこかスリリングでもあって......。
スソさんの今回の展示も、私の好奇心をさらにかきたてるものばかりです。
「Feeler2」をかぶるスソアキコさん。Photograph: Yasuhide Kuges
「Primal Form スソアキコ帽子展」
写真 久家靖秀
2月28日(月)まで
スソアキコ
http://www.suso.biz/
TIME & STYLE MIDTOWN
http://www.timeandstyle.com/

Noriko Kawakami
ジャーナリスト
デザイン誌「AXIS」編集部を経て独立。デザイン、アートを中心に取材、執筆を行うほか、デザイン展覧会の企画、キュレーションも手がける。21_21 DESIGN SIGHTアソシエイトディレクターとして同館の展覧会企画も。
http://norikokawakami.jp
instagram: @noriko_kawakami