オスロ発、「!」のメッセージ。
Your Friends のデザイン
デザイン・ジャーナル 2010.10.26
デザイン展やイベントでにぎやかな週が始まりました。海外からも多くのデザイナーが来日する楽しい時期ですが、今回は、先日東京で再会できたノルウェーの新星グラフィックデザイナーを紹介しましょう。今週開幕する「DESIGNTIDE TOKYO(デザインタイド トーキョー)2010」でも、彼らのデザインを目にできます。
デザインスタジオ「Your Friends」(ユア・フレンズ)のCarl Gürgens (カール・グルゲンス)、そして、Henrik Fjeldberg(ヘンリック・フィエルバルグ)。彼らに会ったその日は、最新プロジェクトを説明してもらいながらのランチタイムとなりました。
初めて会ったのは1年前。「IFFT TOKYO」(インテリア ライフスタイル リビング)でのノルウェーの展示会場で、でした。受けとった案内を手に会場に向かってみると、「商品が置かれていない!」......全く予想しなかった展示が目の前に現われたのです。このデザインスタジオ、ちょっとおもしろそうな匂いがするぞ! そう直感。
IFFT TOKYO 2009。家具トレードショーで家具を一切置かない展示を行ったストッケアウスタとユア・フレンズ。ニュースペーパーとポスターを配布するという潔さ。Art Direction, design: Your Friends、Photos: Courtesy of Your Friends(他写真もすべて)
2009年にロンドンで行われた「100%Norway」でノルウェーブースを手がけていたデザインスタジオ、StokkeAustad(ストッケアウスタ)とのコラボレーションでもあったこの展示。アートディレクションがユア・フレンズ。若手によるデザインスタジオ2組の、まさに柔軟な発想が伝わってくる内容だったのです。
カールとヘンリックによると「出展が正式に決まったのは開幕直前。準備のための来日時期から遡ること3週間前」。え、たった3週間前?! 「ええ、ノルウェーから東京に向けて家具を輸送する時間もなかったんです。そこで考え、プロダクトにもグラフィックにも共通する『プロセス』に焦点をあててみよう、と」
そうすることでノルウェーのデザインスタジオに来場者が興味を抱くきっかけをつくる試みです。紙面にこんな言葉が大きな文字で記されているなど、実にコンセプチュアルな内容ではありますが......。「What are the similarities between product and graphic design?」(プロダクトとグラフィックデザインの類似点とは?)
細部まで神経が行き届いて。デザイナーの美意識とデザイン力が伝わってきます。
全44ページ。「2つのデザインスタジオを同じ展覧会でどうプロモートする?」
紙面にはストッケアウスタとユア・フレンズの紹介、ストッケアウスタがデザインした品々も。でもページの大半はやはり、ニュースペーパー完成に至るプロセス紹介。
家具見本市会場では異例の内容ですが、スタンドのデザインにも神経が配られ、離れたところからも「あそこで何かが起こっている?!」と思わずにはいられない存在感を漂わせていたのです。そう、計画は大成功! 限られた状況も視点を変えれば最大の特色......わかってはいても簡単なことじゃない。やはり才能あってこその成功です。
ところで、この時コラボレーションしたストッケアウスタとは、オスロにあるGalleri Rom(ギャラリー Rom)でも協働しています。ODL(Oslo Design Guild)も関わった展覧会で、ユア・フレンズはキュレーションとデザインを担当。こちらも「?!」な内容でした。
写真の向きが違っている? いえ、これで正解なんです。天井にぶら下がっていたり、壁から生えてきたような作品展示も。「Utformasjon-Oslo Designerlaug」Galleri Rom、Curation and design: Your Friends
巨匠から若手まで、ノルウェーデザインを紹介する内容の展覧会。彼らが考えたのは、「デザインストアに行けば買える品々をギャラリーという場でどう見せるのか?」でした。これ、デザイン展のキュレーターが直面する課題でもあるのですが、2人が見いだした答は、壁や天井を活かしたちょっと大胆なインスタレーション。
視覚の妙というだけでなく、デザインのポイント、それぞれの家具の特色がうまく紹介されています。見慣れた名作デザインを改めて見る時間をつくり、知っていたはずの物なのに発見がある。デザインってコミュニケーションなのだと改めて感じさせる、魅力溢れる展覧会会場となりました。
床面を使っての作品解説。こちらも美しいレイアウトで。
壁に連貼りされたポスター。一面に踊る文字! 展覧会カタログの表紙にはこのポスターをカットして使用していました。これもまた彼ららしい発想。
今年春のミラノサローネでは、注目されるノルウェーのプロダクトザイナー、Petter Skogstad(ペッテル・スコーグスタ)のためのグラフィックデザインを。
ポスター、名刺、展示のためのグラフィックといったあれこれを準備しながら、展示空間とグラフィックのさらなる調和を求めて、ペッテルとの会話を重ねたのだとか。結果、シンプルながらも明快なコンセプトに貫かれた会場となり、『Monocle』誌が選ぶ「ベストショー」にもノミネート!
ミラノサローネ時に注目すべき若手の作品が並ぶ「Satellite(サテリテ)」会場での、ペッテル・スコーグスタの展示ブース。Design: Your Friends
端正ながらパワフル。ペッテルのためのグラフィック類では彼のイニシャルを生かした「P----S!」の表現も。お見ごと。Design: Your Friends
クライン ダイサム アーキテクツの企画によって東京でスタート、今や世界各国で行われている「Pecha Kucha Night(ペチャクチャ・ナイト)のグラフィックもユア・フレンズの作品のひとつです。参加者が20枚の画像を20秒ずつ話していくトークイベント「ペチャクチャ」の、オスロ開催時の一連の制作物を手がけていました。
私もハンガリー、ブタペストでスピーカーとして参加し、楽しい思い出がある「ペチャクチャ・ナイト」。オスロ開催のためのこのデザイン、欧米とは違う日本の紙の規格をあえて使って「折り」をコンセプトにしたそう。2009年。Design: Your Friends
最後に、ノルウェーのアーティスト、Øivind Horvei(オイヴィン・ホルヴェイ)の作品集『Growing Up Is For Trees(グローイング・アップ・イズ・フォー・ツリーズ)』のデザインも紹介しておきましょう。アーティスト、オイヴィンのユニークな視点に加え、ブックデザインそのものも好評の一冊です。
オイヴィン・ホルヴェイ、『グローイング・アップ・イズ・フォー・ツリーズ』2010年。Design: Your Friends
結成は2008年。ロンドンのアート&デザインスクール、セントラル・セント マーチンズで出会ったカールとヘンリック。チーム名「Your Friends」には、「私たちは多くの人々と仕事をします。あなたの友人なんですよ!」との思いを重ねたのだそう。
まだ若手とはいえ、ノルウェー文化省や国立美術館、オスロ美術大学などからもデザインの依頼が寄せられるなど、すでに評価の高い2人。日本でも、冒頭で触れたIFFTに続いて今秋の「Tokyo Graphic Passport 2010」に参加するなど、世界的に注目され始めているデザインスタジオ。
「デザインタイド トーキョー」(10/30〜11/3)では、ノルウェーの若手プロダクトデザイナーを紹介する「オスロ 東京-オスロ発パーソナル・ストーリーズ」のグラフィックデザインが、ユア・フレンズによるものです。こちらもお見逃しなく!
左がヘンリック、右がカール。ヘンリックはこの後パートナーと京都に小旅行、カールはひき続き東京探訪の後、帰国しました。Photo: Noriko Kawakami
Your Friends
http://www.yourfriends.no/
「オスロ 東京-オスロ発パーソナル・ストーリーズ」
(OSLO TOKYO - Personal stories from Oslo)
今回のコラムで触れたプロダクトデザイナー、
ストッケアウスタやペッテル・スコーグスタも参加。
ユア・フレンズがグラフィックを担当しています。
先日スタートした
「ノルウェーデザインネットワーク」公式ウェブサイト
Style Norway(スタイルノルウェー)のロゴもYour Friends。
http://www.stylenorway.jp/

Noriko Kawakami
ジャーナリスト
デザイン誌「AXIS」編集部を経て独立。デザイン、アートを中心に取材、執筆を行うほか、デザイン展覧会の企画、キュレーションも手がける。21_21 DESIGN SIGHTアソシエイトディレクターとして同館の展覧会企画も。
http://norikokawakami.jp
instagram: @noriko_kawakami