【オニール八菜連載vol.3】夏のヴァカンス、長めの週末。オフタイムの過ごし方は?
オニール八菜、エトワールのパリ便り。 2024.09.29
この夏に開催された世界バレエフェスティバルに参加したオニール八菜。東京で2週間近く踊り続け、その後、いよいよヴァカンス! ハードなシーズンを終えた彼女は、今年の夏をどのように過ごしたのだろうか。今回は週末も含めたオフタイムについて語ってもらった。(取材・文/大村真理子)
まずは2回目の参加となったフェスティバルから、少し話を聞いてみることにしよう。3年に一度開催されるフェスティバル。初めて彼女が参加したのは前回の2021年だった。この時は新型コロナ感染防止措置が取られる中での開催。ダンサーたちはホテルと劇場の往復以外の外出ができず、ガラ公演も行われずという、踊り手にとっても観客にとっても過去と異なるフェスティバルだった。
「そうなんです。だから今回、本来の形式のフェスティバルを初めて経験したんです。前回のコロナの時とは雰囲気は違いましたね。この時ももちろん特別な体験をみんなと一緒にした、という感じがあったけれど、今回はマスクもなし、自由にホテルから出られて......って。ああ、これがバレエ界でみんなが語るところのフェスティバルなんだ!って。ガラじゃなくて、祭典(フェスティバル)なのだということがよく理解できました。AプロとBプロと合わせて10公演もあって本当に大変だったけど、みんなで支え合って最後までやり遂げることができました。ほかのカンパニーのダンサーたちともコミュニケーションできる機会があるのも大切なことですね。それに、それぞれが自分の最高のものをステージで披露するのを見ることもできました」
世界バレエフェスティバルはAプロが5公演、Bプロが4公演あり、最後にガラが締めくくる。AともBとも異なる作品が踊られるガラは、休憩を含めて3時間以上続く。そしてその後に名物の"ファニーガラ"が行われるのだ。3年前はガラがなかったので、今回は6年ぶりのファニーガラである。
「ファニーガラは過去に見たことがありました。今回、実はファニーガラ!? えええっ、やりたくないって最初は思ったんです。男の子たちには簡単でも、女の子のダンサーがおもしろくするのって難しいとも思って......。でも、なんとなくやってるうちに、どんどんとみんなでわーって盛り上がっていって楽しめました。男の子たちの『ラ・バヤデール』からの"足首のスカーフの踊り"は見ていて楽しかったですね。ジェルマンとユーゴが最初にやりたいって。で、それに続くようにウィリアム、フリードマン、サッシャたちが僕も、僕もってどんどん増えていったんです。8月12日にガラが終わって、フェスティバルの緊張から解き放されて......」
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この夏はフランス国内で毎日泳いで
いよいよヴァカンスだ。長かった世界バレエフェスティバルが終わるや彼女はパリに戻り、その翌朝早くに電車で南のSète(セット)という港町に向かった。
「友だちの家族がここにアパルトマンを持ってるんですね。そこで1週間くらい仲間たち4人で過ごしました。その後Cévennes(セヴェンヌ)のほうにロードトリップをして、またセットに戻ってきて。あっという間にヴァカンスは終わってしまいました。今年のヴァカンスはフェスティバルの後なので、とにかく休みたい!と思って......。東京の前に韓国でもガラがありました。7月14日にオペラ・バスティーユでシーズン最後の『白鳥の湖』を踊り、翌朝パリを出て韓国へ。全公演が終わったら、今度は東京に行って、と1カ月踊りっぱなし。そんなハードな1カ月を過ごした後のこの夏は、お天気が良くてビーチのあるところで過ごしたい!って行き先を選んだんです。セットでは海、セヴェンヌでは川で毎日泳げて、すごく幸せでした」
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オフタイムも身体を動かしていたい
子どもの頃、水泳教室にも通っていたという彼女らしい話だが、ヴァカンス中は怪我をしないように激しいスポーツはしないことを心がけていたりするのだろうか。2020年に新型コロナ禍でオペラ座が封鎖になった時にパリを脱出して過ごした土地では、クライミングを試したと語っていたが......。
「お休みの時に何もしないでいるのはもともと嫌なんです。なんか身体がなまったような感じがするじゃないですか。クライミングもそうだけど、こういうのが好きなんです。自分なりに気をつけて危険なことはしないようにして。自分の限界をわかっていれば、ってやっています。スキーですか? 小さい時はたくさんしてました。毎年北海道で滑ってたのだけど、もうこの何年もというか何十年もやっていません。だから42歳でリタイアしたらスキーをする!というのが、すっごい楽しみなんです。スキーって危険じゃないだろうって私は思っていたのだけれど、ほかのダンサーたちがぶつけられて転んだりとかいう話を聞くと、やっぱりやめておこうかなって。それでしていないので、引退後の楽しみなんです。子どもの頃は転ぶと痛かったけれど、大人になって転ぶとどうなんだろうというのがちょっと不安ですけど」
ヴァカンス中の食のお楽しみ
「この夏休みの間は、踊りたいとかは一瞬も思わなかった。一緒にいたのがダンサー仲間なので、最後のほうにはレッスンをしようとなったけれど、私は最後の2日間バーをやっただけ。パリに戻ったのは始まる前日だったかな。5~6週間とかの長いお休みで、"ああ、ちょっと身体を動かさないといけないかなあ"って思うより、今回のように2週間弱の短いヴァカンスで踊りのことは全く考えなくていい、ゼロ!!というのがいいです。セットでは私はママチャリで、みんなして自転車に乗って景色を見ながら移動して、オイスターを食べに行ったりしました。ヴァカンスで食べ物はとても大切です。だから休暇先は食事がおいしいところじゃないと! 私は食べることが好きなので、旅先ではおいしいお店を探すのを楽しんでます。セットはシーフードがおいしい土地でした。タコ専門のレストランも見つけたんですよ。もともとイタリア人が多く暮らした町とかで、イタリア料理もおいしい。パリでは食べられないような、シンプルなお料理がいいですね。でもセットに来るパリジャンが増えてきているので、ちょっとパリっぽくなってるお店もありましたけど。自分たちでお料理もしましたよ。これも楽しかった。みんなで一緒にサラダを作って、あとはバーベキューとか、タルトを作ったり......。とてもリラックスできました」
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海外でのヴァカンス
インスタグラムであまりプライベートを発信しなくなっているこの頃だが、以前は海外でヴァカンスを過ごすことが多いという印象があった彼女。フランスで夏を過ごしたのは珍しいのでは?
「そう、もしかすると今回がフランス国内での初めてのヴァカンスだったように思います。海外ならスペインやイタリアに行くことが多いかな。スペインでも行き先はビーチです。イタリアはトスカーナ地方のように海と町の両方を楽しめるような土地を選んでいますね。食べ物という点で強く印象に残っているのはイタリア。食材がフレッシュで、シンプルな料理だけどなんでもおいしくって。思い出に残るヴァカンスはたくさんあります。初めてギリシャの島に行った2020年の夏は、新型コロナ禍明けのことだったので、ビーチには誰も人がいなくてラッキーでした。それにどこに行ってもきれいだったし......。2年前になるのかな、ハリウッドボールで公演があった後の休暇も良い思い出です。お友だちとみんなでサンフランシスコまで飛行機で行って、そこからロスに行って2台の車でロードトリップをしたんです。これも楽しかったですねえ。ビーチも回ったし、砂漠の中にも入って行ったし。国内でも海外でも、こうしてみんなでワイワイ楽しく、というタイプのヴァカンスが多いですね。言葉が通じない国に行くというのもおもしろい。行き先の国の言葉を少しだけ覚えるようにしています。今回ヴァカンスではなかったけれど、ガラで韓国に行った時は全然ダメでした。アニョハセヨ(こんにちは)くらいで、あとは何も(笑)。韓国語ってすごい難しいですよね。何が書いてあるか分からなくって。行った場所の街の名前も覚えられないので、地図で指差してここに行ったとか......。韓国も含めてヴァカンスには都会を行き先に選ぶことはほどんどないけれど、こうしてダンスのおかげでいろいろなところに行けるんですね」
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数日のオフにはパリを離れて
公演の後とか数日仕事がない時、短期間でもパリを離れてどこかに出かけたいと思うこともあるのだろうか。
「友だちがいるミラノに遊びに行ったり、時々ノルマンディーやブルターニュに行ったりします。弟が住んでるロンドンに行くこともよくあります。私、本当は英語のほうが上手なんですけど、毎日フランス語を聞き慣れてるせいでロンドンに着いても英語が出てこない、ってなるんですよ(笑)。オフ日が4~5日あるとニューヨークに行くことが多いですね。よく知ってる街なので、あれこれ見なくても、ただ遊びに行くだけでもいい。土曜と日曜だけの普段の週末はどこかに行きたいと思ってても、疲れてしまうと......でも思い切って出かけたほうが、頭が切り替えられてきっと気分転換ができていいのでしょうね。パリにいる時は映画を見たり、お友だちに会ったり、誰かの家でディナーとか、レストランに行ったり。それほど特別なことはしていません。パリの中のお散歩も結構好きなんです。私は歩くのが好きで、だから、いつも自宅の周辺や少し坂道が大変だけどモンマルトルとかの散歩をします。ここは村のような雰囲気。パリといってもオーセンティックなところが好きです」
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行ってみたいと夢見ているのは......
「ブルターニュ地方のQuessant(ケッソン)という島を訪れてみたいんです。ブレストから船で行くんですけど、人もあまり住んでなく、灯台もあって、とても綺麗なところだって聞いたので。でも、ここに行くにはオフが5日くらい必要なので......。行きたいところがあると、仕事が辛くても頑張ろうってなりますね。パリの近郊なら、ホテルのL'Abbay des Vaux de Cernay(ラベイ・デ・ヴォー・ドゥ・セルネイ)にいつか行ってみたいんです。ここはインスタグラムで見つけました。パリからそう遠くなくて、コンフォータブルな雰囲気で、そしておいしいものが食べられそうな、いい感じの場所です。お散歩をするのもなかなか綺麗そうで......そういうのって週末にいいですよね。運転免許を取ったものの今回のヴァカンスはレンタカーがオートマチックじゃなかったので私は運転しませんでした。もう1年も運転していないんです。でも、ここなら自分で運転して行けるかも......」
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3年帰らないと恋しいニュージーランド
生まれ故郷の東京にはダンサーとして行く機会も多く、和食もおおいに味わって満足の滞在をしている。8歳から暮らしたニュージーランドに帰りたいと思うことはないのだろうか。
「ニュージーランドには帰りたいって、やっぱりなりますね。3年行かないでいると、帰りたいというよりも、身体がニュージーランドを欲するようになるんです。空気のせいかな。大人になって感じるようになったのですが、ニュージーランドって本当にきれいな国だなって。だからたとえばアメリカのロードトリップで目にした景色も素敵だなとは思ったけれど、でもニュージーランドのきれいさとは違うんですね。緑が違う。独特な緑で、すっごくきれいなんですよ。11月末から12月の最初にオーストラリアン・バレエで『くるみ割り人形』を踊るので、シドニーに行きます。でも、パリで『パキータ』の公演が待ってるので、残念ながらニュージーランドに帰る時間はないんです!」
editing: Mariko Omura
東京に生まれ、3歳でバレエを習い始める。2001年ニュージーランドに引っ越し、オーストラリア・バレエ学校に学ぶ。09年、ローザンヌ国際バレエコンクールで優勝。契約団員を2年務めた後、13年パリ・オペラ座バレエ団に正式入団する。14年コリフェ、15年スジェ、16年プルミエール・ダンスーズに昇級。23年3月2日、公演「ジョージ・バランシン」で『バレエ・アンペリアル』を踊りエトワールに任命された。
photography: ©James Bort/Opéra national de Paris
Instagram: @hannah87oneill