【医師監修】 何を選ぶべき? 医師が語る「がん保険」裏話。

ドクターに聞いてみよう。 2021.06.25

増富健吉

未病のうちに準備しておけることの中でも、がん保険はとりわけ大切だ。でも、がん保険のさまざまな特約は迷うし、正直、内容がよくわからない人も多いだろう。そこで今回は、わかりづらいがん保険について自らもよく尋ねられるという、国立がん研究センターの医師、増富健吉先生に解説してもらいました。

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Q. 気になっている「がん保険」、何を選べばよいですか?

文/増富健吉(国立がん研究センター研究所 がん幹細胞研究分野分野長)

「がんと診断されたら〇〇万円」。最近は、この保障額も随分と下がってきましたが、以前は、高額な保障が複数回受けられるがん保険もありました。もう、こうした商品は見かけなくなりました。

それどころか、「上皮内悪性新生物は除く」という一般の人には何のことか解らない意味不明の免責条項の記載されているものがあります。特に、女性は、子宮頸がんの際に注意が必要です。子宮頸がんの多くは、円錐切除術という治療で完治する「高度異型成(前がん状態)」や「上皮内がん(がんが表面だけにとどまっている)」のことが多いのですが、この診断にはがん診断の給付金が出ないというものなのです。上皮内がんとて「がん」ですので、できれば給付してほしいところですが、保険を探すときにはこの免責事項のないものの方が良いと思います。せめて、上皮内悪性新生物(要は上皮内がん)にも半額は支給される商品を選ぶべきだと思います。

特約事項で選んでおきたいもの。

ひと昔前は、入院治療が標準だったがん治療が、最近では、抗がん剤治療も通院治療もできる時代です。がん治療に伴う通院治療特約は必須だと思います。

また、女性はホルモン治療特約をつけておくべきだと思います。乳がんで手術をした後に、長い期間ホルモン療法を必要とする場合が多くあります。一方で、男性は、前立腺がんでいくつかの治療の後にホルモン治療を行う場合が想定されますが、あまり大切なポイントではありません。

先進医療特約は必要か?

誤解が多く、その中身は誰も理解されていないのではないでしょうか。「先進医療、最大2000万円まで保障!!!」とあると、みなさん、安心しますか? しますよね。何となく、入りたくなりますよね。なんといっても「先進医療まで受けれてしかも2000万円!」「うん。イイ!」となりますよね。ただ、先進医療の中身は誰も理解されていないと思います。かくいう私も先進医療の中身は知りません。その理由をお話ししましょう。

たとえば、私がある「がんX」と診断され、A病院で通常の治療を受けているとします。この治療ではもうあまり今後は期待できないので、B大学病院に先進医療を行っているかどうか尋ねました。B大学病院では「がんX」に対する先進医療は行っていませんでした。別のC大学病院に尋ねると、先進医療は行っているが、「がんX」ではなく「がんY」にしか行っていませんとのこと。結局、私のがんXに対する先進医療は日本では受けることができない、ということがわかりました。

このように、先進医療というのは、通常の保険医療として国が認めるにはいたらないが、各医療機関が「あるがんに限定して先進医療」として診療させてくださいと申請をして、国が認めた医療なのです。言い換えれば、まだ、効果もどれほどあるか確定はされていないし国も認めていない。しかしながら、大学病院などがある程度の科学的根拠をもとに、限定的、限局的に実施する医療なのです。すべてのがんにすべての患者さんが受けることのできる先進医療はないので、「がんになってみないとわからない」治療方法なわけです。ですので、がんになる前に先進医療特約が必要かどうかわからないのです。

医師の力量も「特約」。

こうしてがん保険の記事を書いていると感じるのは、保険書類は、がん保険に限らず、保険を理解した医師に、上手に記載してもらえば上手に保障を受けることが可能ということです。随分昔の話ですが、私が自分の保険書類を書いてもらった医師は、3カ月もかけて事務的で不誠実な書類を書いてきました。時間はかかるし、保険会社には自ら医師としての見解を説明したり、と大変な思いをしました。保険の選択も大切ですが、いろいろな意味で「いい医師」を選ぶことも大切に思います。

text: Kenkichi Masutomi

増富健吉

国立がん研究センター研究所 がん幹細胞研究分野分野長。1995年金沢大学医学部卒業。2000年医学博士。2001-2007年ハーバード大学医学部Dana-Farber癌研究所。2007年より現職。日本内科学会総合内科専門医、がん治療認定医、日本医師会認定産業医。専門は分子腫瘍学、内科学。東京医科歯科大学大学院連携教授、東京慈恵会医科大学連携大学院教授、順天堂大学大学院客員教授。

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