時計とジュエリー、永遠のパートナーともなりうるこのふたつ。だからこそ、ブランドやそのモノの背景にあるストーリーに耳を傾けたい。いいモノこそ、いい物語があります。今回は、カルティエの時計の話をお届けします。
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CARTIER
Tank Louis Cartier
1922年にデザインされた「タンク ルイ カルティエ」の手巻きモデル。時計「タンク ルイ カルティエ」左から(H29.5×W22mm、18KPG×ダイヤモンド、アリゲーターストラップ)¥1,953,600、(H33.7×W25.5mm、18KPG 、アリゲーターストラップ)¥1,438,800/ともにカルティエ(カルティエ カスタマー サービスセンター)
永い間変わらないでいることは、信じがたいほどに難しい。100年前というと女性はやっとコルセットから解放されたばかりだったし、街には馬車も走っていた。トーキー映画はまだできていない。生活文化のすべてがこの1世紀で変転したというのに、カルティエの「タンク」は誕生した時のスタイルを保ち続けているのだ。
その歴史は1917年、ルイ・カルティエが手がけた試作品から始まった。第1次世界大戦で史上初めて導入された戦車(タンク)に触発された、直線的なウォッチだ。機能美を追求したモダンな造形に、デザインコンシャスな人々はたちまち魅入られた。銀幕のスター、芸術家、ファッションデザイナー。第2次世界大戦後も、人気は少しも衰えない。アンディ・ウォーホルはタンクの大コレクターだったし、ジャクリーン・ケネディも愛用者。ジャン・シャルル・ドゥ・カステルバジャックは、文字盤にピースマークを入れたタンクのイラストを描き、平和を訴えた。タンクは20世紀の社会現象だった。
不変のスタイルを誇り続けたこの時計は、これからも、その魅力は変わらない。永遠の美しさを備えているから、タンクは究極の名作と呼ばれるのだ。いま手元で時を刻んでいるタンクが、いずれ味わい深いアンティークとなって、誰かが身に着けている─そんな未来だって、あり得ないことではないのだ。
*「フィガロジャポン」2017年11月号より抜粋
photo : SHINMEI(SEPT), stylisme : YUUKA MARUYAMA(MAKIURA OFFICE), texte : KEIKO HOMMA